DILEMMA -7
6
2日後。再び四川楼に集まる13人の連隊メンバー。まずヒュウガが声を出す。
「シーナ、今回は悪かった。状況をアツヒロとミオから聞いたが、これはシゲが悪い。
いや、俺の責任だ。おいシゲ!お前も謝れ!」
シゲが立ち上がり俺の前に立つ。
『シーナ、すまなかった。酔っていたとはいえ大人気なかった。詫びのしるしに一発殴ってくれ。それで水に流そう。』
「いや、こちらこそすいませんでした。」
俺も頭を下げる。すると背後から一発の拳が見えシゲの顔面をヒット。吹き飛ぶシゲ。その拳は、リョウだった。
「あんたよくもシーナを傷つけてくれたわね!!!タダじゃおかないから!」
怒号を巻き散らかしながらさらに詰め寄るリョウを止めるヒデ。
「おい!なにやってんだ!」
これで丸く収まるはずがリョウの拳でややこしくなってきた。
『このアマ!下手に出てりゃ調子に乗りやがって!』
片膝ついた態勢で本性見せるシゲの顔を蹴り上げる細い足。再び後方に吹き飛ぶシゲ。ツバサだ。
「テメエなにしてくれてんだ!その汚いキ○○マ握り潰してやろうかぁ!」
こちらも卑猥な罵声を浴びせている。
『ちょっと待て!先に挑発してきたのはシーナの方だ!』
といい終わるタイミングで、シゲの右目に割り箸が飛んできてまぶたに刺さる。声にならない奇声を発して痛がるシゲ。
振り返るともう一本割り箸を構えるナギサの姿があった。慌てて割り箸を取り上げるダイキ。
「わたしの弟を傷つけた罪は、あんたの両目で償ってもらうよ。」
ナギサの静かな脅しは背筋をゾッとさせた。
『わかった!悪かったよ!本当に謝る!』
土下座の格好をしたシゲの後頭部を踏みつける足。アサミだ。
「てめぇ!わたしのシーナに何してくれとんじゃゴルァ!」
もう踏んだりけったりのシゲを見かねたハルカが一同を落ち着かせる。
「はいはい、おしまい。本題に入りましょう。」
ここでアキラが立ち上がった。
「今回の原因はすべて俺にある。シーナもシゲも悪かった。
俺の真意をもう一度説明させてくれ。それでここにいるメンバーひとりでも納得してもらえなかったら、今回の連隊はあきらめる。」
そういうとシゲを起き上がらせ、椅子に座らせた。
アキラは皆を見渡しながら話し始めた。
「まず確認しておきたい。このFRONTIERってゲームはなんなんだ?」
この言葉に一同緊張が走る。
「俺はもう7年も仮想世界と現実世界を行ったり来たりしている。
学生だった俺が、社会に出た今も変わらずに。バカな男だと思われてもしかたがない。
いい歳した警察官がゲームにのめり込んでいるんだからな。」
同じ月日のキャリアをもつハルカ、ツバサ、ヒデとヒュウガ、アツヒロが真剣な眼差しでアキラを見ている。
「だが…やめるわけにはいかない理由があるんだ。あの【虐殺の門】に置き忘れた大切なものがあるから。
それは仲間の想いだ。それまでの努力や労力をズタズタに切り刻まれた初めてのトライは今も忘れない。
そしてそのトライで大切な仲間を失った。俺たちのリーダーだったシュウだ。」
ハルカがハッと息を呑む。
「このコンプリートされたことのないFRONTIERのラストフィールドは果たしてクリアできるのか?
これは俺が常に抱える最大の悩みだ。このまま無駄な時間と労力を仲間を巻き込んで使う意味があるのか…ってな。
だが、あそこには俺たちのリーダーがまだにいるんだ。だから俺は未だにこのゲームを続けている。」
リョウが俺の腕をギュっと握る。
「俺はあの難攻不落の【虐殺の門】を抜けたい。それは俺じゃなくてもいい。俺の仲間たちであの先にある運営の悪意をうち壊してやりたい。俺からシュウを奪ったあのフィールドを、ぶち壊してやりたいんだ。
その為なら俺はなんでもやる。例えどんな手を使ってでもな。
だがひとりじゃそれは不可能だ。お前たちはどう思う?お前たちはなぜこのゲームを続けている?人をバカにしたこのクソゲームに終止符を打ってやりたいとは思わないか?
お前たちも同じ想いにあるはずだと俺は思っている。だから連隊に同意してくれたんだとな。
俺は不器用な男だ。人の上に立つ器じゃない。だが同じ志しをもったお前たちのためならなんだってする。
その決意が今俺の力になっている。しかし、俺の言葉が足らないせいで今回こういう事態となってしまった。本当に申し訳ない。」
アキラは頭を下げた。
「だからもう一度お前たちに問いたい。理由はなんだっていい。このゲームをクリアしたいか?」
皆、無言で頷く。
「クリアできるんだ!!必ずクリアできる!!俺は信じている。
このメンバーがひとつになれば必ず【虐殺の門】をクリアできる!!
誰も抜けちゃいけない。ミスキャストはひとりもいない。
お前たち全員の力が必要なんだ。だから疑問やわだかまりが生まれたなら俺にぶつけてくれ。
仲間同士で傷つけ合うのだけはやめてくれ。」
アキラの言葉を静かに聞く一同。反論するものはいない。
「今回、争いの原因になったキョウジの事を少し説明させてくれ。」
アキラは少し表情を緩めて話を続ける。
「5年前…。たまたまレイニーデイズとブラックダリアが同じフィールドに立った時があった。R-SフィールドNO.6。S級の一般フィールドの中では最も難易度の高いステージだ。
この時、ダイブした順番がブラックダリアが早かった。だから俺たちレイニーデイズは常にブラックダリアの戦いを見る形でミッションは進んだ。あの時、ガーディアンが現れた。
キョウジはパーティーを進めるためにガーディアンとタイマン勝負に持ち込んだ。」
ヒデか「ああ…あの時の…。」とつぶやく。
「かなり手練れのガーディアンで、到底キョウジひとりでは倒せない程の強いガーディアンだった。
苦戦していたよ。いや圧倒的にガーディアンに攻め込まれていた。
だがキョウジは両足を切断された状況の中でそのガーディアンを倒した。
その時の俺の衝撃ったらなかったな。その後のミッションでレベルが10になった俺は迷わずキョウジと同じピグマリオを選んだ。
恥ずかしい話だが、俺はキョウジに憧れていた。もしキョウジからパーティーへ誘われる状況になったら、俺は受けていたかもしれない。それぐらい彼は俺の中で衝撃を生んだんだ。」
アキラの独白に呼吸すら忘れる緊張感が皆を包む。
「その時から、いつか【虐殺の門】をこの男がクリアするに違いないって確信していた。
しかし、それはなされなかった。それだけではなく、あの時のこの国のS級すべてが解散しちまった。
でも…今それが再びひとつになり進化するチャンスになろうとしている。俺がキョウジをどうしても引き入れたい理由。それは彼のモチベーションこそ俺たちに勝利をもたらしてくれると確信しているからなんだ。」
アキラは一旦ここで大きく深呼吸をした。
「最強の連隊を作る。この一点に集中したい。
いや、必ず【虐殺の門】をクリアするということだけに向かって走りたい。
お前たちと一緒にだ。
これが俺の本心の真意だ。」
アキラの言葉が終わると四川楼は静寂となった。ヒュウガが皆に「どうだ?」と静かに聞く。
おそらく俺とシゲの一件の後、二人で話し合ったのだろう。アキラがしっかり腹を見せる。
その結果で今後の活動の続行か中止を決める…と。
アツヒロがシゲの後頭部を叩く。なにかを促すような行動。同じくミオがシゲの足を蹴る。
シゲが立ち上がり口を開いた。
『あんたの腹は見せてもらった。もう疑念はない。俺たちのリーダーとしてついていくよ。
シーナ、本当に悪かった。償いはなんでもする、だから今回の件は勘弁してくれ。』
俺に頭を下げたシゲ。俺はシゲにかけより手を握った。
「シゲさん、これからもよろしくお願いします。」
「私は許さないからね!!」
というリョウの口をヒデが塞ぐ。これで一先ず連隊間でのわだかまりは解決を見た。ここでダイキが口を開く。
「いろいろ調べてみたんですが、キョウジさんは先日のタスマニアデビルの他に、ロンバルディアのトライアルにも参加しています。
だからタスマニアデビルの正規のメンバーって訳ではなく、いろいろな海外パーティーに招聘されている傭兵であると思われます。」
さすがダイキ。情報収集が早い。
「そうか、ダイキありがとう。正規のメンバーでないなら、引き入れも希望がもてる。」
アキラがダイキを労う。
「でも残念ながら特定のステーションまではまだわかりません。」
とダイキは付け加えた。
「引き継ぎ情報収集を頼む。とにかく今は個人のレベルとパーティーのランクを上げる方針を引き続きやっていこう。」
アキラの言葉に皆が頷く。
「よし!!今日もしこたま食っていってくれ!!」
アツヒロが気合いを入れて厨房に入る。さらにひとつになった連隊の再出発となった。




