DILEMMA -6
5
その夜、俺は横浜にいた。スラムドッグスのミッションに参加したのだ。シゴトで参加できなかったアサミのヘルプだ。本来なら帝都のステーションでダイブするのだが、ミッション後にツバサのライブを見るために横浜まで遠征してきた。大きな会場でのイベントで、ツバサの他に5組ほどのバンドやシンガーがステージを彩った。その帰りに遅めの夕食をとるために四川楼に寄った。
「ようシーナ!今日はありがとうな!」
アツヒロが笑顔で迎えてくれた。シゲとミオもいて同じ円卓で食事とビールを堪能し、酔ったミオに絡まれていた。終電も近くなり帰る時間となった時、シゲが呟いた。
『アキラのやり方が理解できない。少し強引ではないか?』
おそらく昨日のキョウジの件を言っているのだろう。俺は昼に、電気街でアキラが語った真意を説明した。
『ならばなおさらだ。平等な連隊の中でアキラが偉そうにしていると気分が悪い。』
このシゲの言葉に俺の中の何かがキレた。
「だったらあなたが舵取りをすればいいんじゃないですか?」
明らかに不満をぶつける俺の態度。
『よく飼いならされたもんだな。』
悪意に満ちたシゲの言葉。
「おい!その辺にしとけ!」
アツヒロが間に入る。
「あんたじゃ誰も付いていかないけどねっ!」
俺は怒鳴っていた。いや・・・酔っていた・・・。
次の瞬間、シゲが俺に飛び掛ってきた。避けるまもなく馬乗りにされボコボコに殴られた。
アツヒロが無理やりシゲを引き離す。ミオは俺に駆け寄り心配そうな顔をしている。
『おいクソガキ!こっちは何年この世界で生きていると思ってんだ!生意気言ってるとぶっ殺すぞ!』
シゲの勢いに負けじと言い返す。
「殺せるもんなら殺してみろ!俺だってこのクソみたいな世界で孤児やってんだ馬鹿野郎!
イージーミスしてリタイアしたお前なんかに殺されてたまるか!」
俺の言葉に再びシゲが飛び掛ってくる。今度は避けた。そしてシゲの顔面に拳を入れた。人生で初めて人を殴った。
その後は、覚えていない。シゲは止めるアツヒロとミオをも巻き込んで俺を殴り続けた。そして気を失った。
目を覚ますと、店の隅でミオの膝枕で横たわっていた。
「シーナ、大丈夫?」
ミオの心配そうな顔が間近に迫る。どれだけ気を失っていたのだろう。顔が痛い。腹も痛い。
だが人からボコボコにされるのは初めてじゃない。これぐらい慣れっこだ。
「すまない、俺がついてながら・・・。」
アツヒロが誰かに謝っている。ハルカがそこにいた。アツヒロが呼んだようだ。
シゲの姿は見えない。俺はサッと起き上がりハルカに目線を送った。
「あら、男の子の顔になってるじゃない。」
ハルカが俺に近づき腫れた頬をさすった。
「シーナすまない。シゲのヤツ今日のミッションで下手こいちまったろ?
それで荒れててお前が来るまでもけっこう呑んでて酔っ払ってたんだ。俺がもっと気をつけてれば・・・。」
アツヒロが俺に詫びる。
「いや、悪いのは俺とシゲさんです。アツヒロさんは何も悪くない。
逆に店を荒らしちゃってすいませんでした。テーブル壊れちゃいましたね。弁償します。」
俺の言葉に、
「バカ言ってんじゃねぇ。仲間に弁償なんか求めるかってんだ!シゲには俺からきつく言っとく。
だから勘弁してやってくれ。」
とアツヒロが頭を下げた。しかし、
「いや、シーナが悪い。目上に対して酔って喧嘩するって常識なさすぎ。これで連隊失敗したら全部あんたのせいよ。」
ハルカの厳しい言葉。うつむき反論の余地のない俺。
「ハルカさん・・・ひどい…。。」
ミオが俺をかばう。
「ううん、ミオちゃん。シーナだけが悪いんじゃない。この子の親である私も同罪。シゲさんにも謝らないとね。」
ハルカがミオに言う。
「シゲの野郎、とっとと逃げやがって・・・。あいつに謝る必要なんてない。
元はといえばあいつが売った喧嘩だ。あいつが一番悪い。」
アツヒロの言葉にミオが続く。
「シーナごめんね。シゲにはヒュウガからきっちり落とし前つけてもらうからさ。とりあえず、顔冷やそ。」
ミオがぬれたタオルを俺の顔に優しくあてる。俺は深々と頭を下げた。
「ごめんなさい。」
喧嘩売ったのは俺の方だ。いつものように笑ってやりすごせばよかったんだ。
「まあ、後はアキラとヒュウガに任せましょう。2人のパーティーリーダー同士、どう決着つけるか・・・。
それにしてもその程度の怪我でよかったわ。」
ハルカは安堵の表情で俺の頭を撫でてグッと抱きしめた。




