DILEMMA -2
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『シーナ!!二歩下がる!!距離感をもっと考えて動きなさい!!』
ツバサの指示が飛ぶ。俺はツバサの言葉を聞きながら前衛のポジショニングでミッションを進めていた。
R-SフィールドNO.12。
路地戦でハイイーターに苦戦しながらなかなか進めない俺のバックアップについているアツヒロが叫ぶ。
『シーナ!!一旦引け!!』
今日はヘルプメンバーとしてアツヒロが参加している。もちろん連隊の中での参加であるからヘルプというのは的確な言葉ではない。状況に応じたパーティー間のメンバー貸し出しは連隊規定に含まれている。
だから正確にはヘルプ扱いでの正規参加である。
『アキラ!!今日も時間がかかっているわ。シーナをボランチに下げましょう。』
ハルカがアキラに提案する。これはハルカの優しさだ。レベル4でS級は明らかに早い。ある程度ミッションが行き詰まったらハルカが俺を後方に下げる提案をしてくれる。しかし、
『ダメだ。被弾してもかまわん。前衛で経験値を稼がせろ!!』
と、アキラはいつも却下する。
『シーナ!!いくわよ!!』
ツバサの号令で俺は再び前衛に走る。
『お前大変だな…。』
アツヒロの同情的な言葉を背中に聞きながらハイイーターの中に飛び込んだ。だが今日のこの狭い路地戦で俺が的にならずにミッションを続けられるのはアツヒロのバックアップが素晴らしいからである。
普段スラムドッグスで、ワントップのミオを前衛へと切り込ませる役割を担うアツヒロの精度の高い射撃に、俺はスローではあるが前に進めていた。
『だからバックアップとの距離!!』
ツバサがまた怒鳴る。
俺が前衛に走り出した時、同じラインにアツヒロが並んだ。
『アキラさんよぉ!援護頼むわ!』
アツヒロとツートップの形になった前衛はすぐ後ろにアキラの援護がつき、ボランチにツバサがつくフォーメーションとなった。
これはアツヒロの優しさなのか、それとも俺のせいでなかなか進まないミッションに苛立ったのかわからないが、明らかに早くミッションを進行したい彼の意思表示であった。
アツヒロは横浜愚連隊時代はスキッパーのポジションについていた。
だから前衛のポジショニングも彼の得意分野だ。スラムドッグスに移籍してからもシゲと2人で中盤のポジショニングを仕切っている。
云わば究極のオールラウンドプレイヤーと言える。
これは彼の経験の深さが成せる業でありFRONTIER草々の時代からこの世界で生きてきた大きなスキルである。
アツヒロは言う。
『まだレベル4のお前よりは速いぜ!』
俺より先行して道を開くアツヒロ。しかしハイイーターは俺のために残しながら進むその戦い方に、職人という表現がぴったり合う。
ミッションを完璧にこなすその姿に、FRONTIERの奥の深さを痛感せざるをえない。様々なプレイヤーの個性で、このゲームは成立していくのだ。
『さあ!最後のガトリングだ!シーナ、一緒に行くぜ!』
アツヒロの言葉が俺の中の魂を奮わせる。俺は素晴らしい出会いをした。だって孤独だった俺には12人の仲間ができたのだから。
このゲームはただのオンラインゲームではない。人と人を繋ぐゲームなのだと実感した。
『一発で仕留めるわ!』
ハルカがジャベリンをガトリング部隊に放つ。7機あったガトリングのうち5機を撃破。
『腕が鈍ったんじゃない?』
とツバサ。残りの2機を俺とアツヒロで潰した。
『よし、フラッグは4人で行く。シーナは退路確保。ハイイーターをできるだけ排除しておけよ。』
アキラの言葉で俺は退路ルートへ移動。フラッグ戦が終わるまでひとりでハイイーターの群れを相手にする。
これはヴァンダルハーツに移籍してからずっと続けてきたポジションだ。
移籍以来、ニホントウの装備を禁止されており、装備3にはアキラから買い与えられたイングラムをつけている。退路確保用には最適なマシンガンで、命中率はよくないが連射機能に優れ、ひとりでも多数の敵を相手にできる。とにかく多くの経験値を自分の力で獲ることを叩き込まれているのだ。
フラッグ出口からメンバーの姿を確認。ここで退路確保の人間がすべきことはセーブポイントへ走ること。退路確保のプレイヤーは先頭で退路を進む。これはパーティーとしてのコンプリートを優先においた云わばセオリーといってもいい。
例えフラッグ戦を終えたメンバーが退路で全滅したとしても、正規雇用メンバーがセーブポイントでプレイデータを更新すれば、コンプリートとなりパーティーポイントの獲得となる。フラッグを倒すことではなく、その後でセーブをすることで本当のミッション・コンプリートとなるのだ。またその累計がパーティーランクの上昇に繋がることから、退路確保者とはセーブプレイヤーと考えられている。もちろんこのメンバーで退路戦でヘマをする人間はいない。俺は振り向きもせずセーブポイントへと走った。




