RAINY DAYS -4
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翌日、学校が終わりステーションへと到着した時、プライベートベージからメールが入る。
『ハングリースパイダーのスグルです。今、電気街のステーションにいます。』
なぜ大阪のパーティーメンバーが帝都のステーションにいるのか?
とりあえず喫煙所の前で待ち合わせをして、その場に急いだ。
そこにはメガネをかけた細身の男が立っていた。いや、初めて見た印象は女の
子のような中性的な感じで近づくまで彼がスグルだと気づかなかった。
「あ、はじめまして!!スグルです!僕は帝都に住んでいていつもこのステーションからダイブしているんです。」
スグルは俺と同じ高校1年生。アバターMのレベル4だ。
「はじめまして、シーナです。どこまでお役にたてるかわかりませんが、今日はよろしくお願いします。」
俺を招聘した経緯や、くわしく話を聞く間もなく、二人でブースへと向かった。
C級のニュートラルフィールドに入り、ハングリースパイダーと合流。俺以外に四人がダイブしている。まず俺には確認しなければならないことがある。パーティーリーダーに聞く。
「なぜ俺なんかを招聘したんですか?」
一般的なバトルスーツを纏ったパーティーリーダーはこう答える。
「あんたたちレイニーデイズ連隊はもう有名やで。」
俺は驚いた。昨日の夜、結束が確認されたばかりの連隊であるのに、その数時間後には世界中に発信されているというのだ。パーティーリーダーが続ける。
「それを知った俺は、一度そのレイニーデイズ連隊のやつと絡みたいと思ったんや。
それでメンバーを確認して俺達C級のパーティーの招聘を受けてくれそうなやつをピックアップした。それがお前や。」
なるほど…一番レベルが低いのが俺だからね。しかし、なぜこんなに早く連隊の情報が流れたのだろうか?
「今日は前衛アタックと、フラッグ到達時の退路確保を頼みたい。」
パーティーリーダーが俺に言う。前衛アタックは、俺のアバターSの本来のポジションだ。退路確保も俺のいつもの役目。とにかくせっかくの招聘である。しっかりと結果を残さなければ、レイニーデイズ連隊の名に泥を塗ることになる。気を引き締めてミッションに臨まなければならない。
「それとあんたのバックアップにはスグルがつく。なかなかの射撃能力をもっているから安心してくれ。」
パーティーリーダーの言葉でメンバーを見渡す。もちろんのことだが、皆アバター姿だからさっきステーションで見たスグルとは違う。
その中の一番キツイ姿をしたアバターが俺に、
「よろしくね。」
と、声をかけてきた。
スグルの声だ。優しく弱々しい声だが、そのアバター姿はドクロフェイスにバトルコートをフードまでかぶった死神そのものな姿。しかも背中には長いシャフトの大鎌を携えて、死神感を増している。
「よろしく…。」
ちょっと引き気味の俺は、もう一度気合いを入れてミッションフィールドへと向かった。
R-CフィールドNO22。
狭い路地戦が延々と続く直線フィールド。俺はレベル3のくせにC級フィールドは初めてだ。そして驚く、C級のイーターの動きの遅さに。普段B級のイーターを相手にしていると、難易度がかなり下がる。俺は最前列でアサルトライフルを連射しながらアタックを仕掛ける。
それに合わすようにスグルが援護。確実に俺の進路を開いてくれる。ここである確信が俺に芽生えた。
スグルは命中率特化型に成長しているってこと。レベル4のスグルがここまで正確にイーターを倒している状況を見ると、これまで獲得した経験値すべてを命中率に振り分けているのである。まさに俺がスピードにパラメーターのほとんどを与えているのと同じだ。
これはスグルが普段このパーティーでは一番後方をポジショニングしている支援型スナイパーであることがわかる。よくボランチと言われるポジションで、我がパーティーではダイキが担当している位置だ。ハングリースパイダーにはリベロがいない。ひとりのフォワードと3人のスナイパー。
ひとつ分かることは、このパーティーは【虐殺の門】へは向かっていないということ。もちろんまだそこまでのレベルでもない。
大阪の難波ステーションは横浜ステーションよりも後にできた新しいステーションだ。上位パーティーも少ない。
だからS級経験者や上位プレイヤーがいない未開な部分もある。
これから上がってくるだろう途上ステーションだが、リベロを育てるノウハウがまだ伝道していないことが大きな理由にあるだろう。個々の実力もけして高いものではなく、その分スグルの射撃能力を光らせていた。
俺はスピードでイーターを揺さぶりながら、もうひとりのフォワードを前に押し上げる。これでも本業はB級のスキッパーだ。前衛位置でのバックアップは得意だ。
『お前、本当にレベル3か!?』
パーティーリーダーが驚く。きっとレイニーデイズ連隊のなかで一番下っ端である俺を『おまけ』の存在ぐらいに考えていたのだろう。
舐めるな!俺だって【虐殺の門】へと向かっているんだ!
フラッグ戦まで最後のフィールド。いつものようにガトリング部隊が待ち構えている。俺はいち早くガトリングの裏に回りこみニホントウで一機撃墜した。ここで思わぬ光景を目にする。今まで後方にいたスグルが俺と同じようにガトリングを操るイーターに飛び掛ったのだ。そしてスグルは背中のエクリプス(大鎌)を振りぬきイーターを撃破。俺はここで大きな勘違いをしていることに気づいた。
スグルは命中率特化型ではない。スピードと命中を重視したの前衛型だったのだ。
ではあの制度の高い射撃はいったい・・・。スグル本人のスキルの高さ以外考えられない。まるでヒュウガのように、もともとスグルが持っているセンスなのだ。
『よっしゃ!スグルええで!』
パーティーリーダーの賞賛のあとに、スグルはもう一機ガトリングを撃破した。俺も負けずとさらに一機壊し、ガトリング部隊は消滅した。
俺は少しの震えを体に感じていた。興奮しているのだ。このスグルというプレイヤーに対して強い憧れとが気持ちを高ぶらせる。
『ちっ!タケトがリタイアしちまった!シーナ!予定変更だ、一緒にフラッグステージに入ってくれないか?』
パーティーリーダーの言葉で俺は我に帰る。メンバーのひとりが今のガトリング戦でリタイアしてしまったのだ。当初の予定なら俺の仕事はここまで。退路確保のためパーティーと離れ退路ルートへ移動するはずであった。しかしリタイア者を出し、頭数の少ない今の状況ではフラッグ戦での苦戦は必死だろう。
だが俺はこの提案に対して断る権利がある。なぜなら当初の契約とは違うミッションであるからだ。俺はここに残り、フラッグ戦を終えたメンバーと一緒にセーブポイントへ入る事で契約完了となりミッションボーナス15%が獲得できる。
例えフラッグ戦が失敗に終わっても、俺ひとりでセーブポイントへ帰れば、今回のミッションで獲た個人の経験値を加算できる。逆にフラッグ戦で俺自身リタイアするようなことになれば、このミッションでの経験値はすべてなかったことになる。
しかし・・・。
『わかりました。』
と返事した。スグルの戦いをもっと見たかったし、C級のフラッグも経験したかった。それにせっかく招聘してくれたパーティーだ。期待には応えたい。
『ありがとう!』
スグルの言葉に大きく頷き、フラッグステージへとフィールドチェンジした。
フラッグはハイイーターが30人。戦車系や飛行系でもなく制圧系のフラッグだ。下位フィールドによくあるフラッグ体系で、リベロを持たないパーティーがよく使うフィールドに多いフラッグだ。
『スグルくん!勝負しよう!』
俺がスグルを挑発する。俺がこんなことをするのは珍しい。それだけスグルに対してなにか大きな期待感を持っているってことの表れだ。
『うん!じゃあどっちが多く倒せるか勝負だね!』
ドクロフェイスのスグルはM16を構え俺の挑発に乗って見せた。
『迅速なコンプリートを目指せ!』
パーティーリーダーの声で一斉に動き出す。スグルが右方向に走り出すのを見て、俺は逆の方向に進路をとった。確実に仕留めて行くスグルの戦いを感心しながら、俺も負けじとハイイーター殲滅に集中を切り替えた。時間にしてわずか5分。ハイイーターがすべて姿を消した時、その場には俺とスグルしかいなかった。
『いつもこうなんだ。フラッグ戦で生き残るのは僕だけ。
だからいつもこの後、ひとりで退路戦もしなくちゃいけないんだ。でも今日はシーナくんもいるから安心だね。』
スグルは笑いながら言うが、この状況がいつもだと言うのであれば気の毒だ。
レベル3の俺とレベル4のスグルが生き残ってレベル5のメンバーたちが姿を消す。情けない話だが、これはきっと俺が普段から高いレベルで戦わせてもらっているからなのだろう。そしてスグルの実力の高さの証明でもある。
『さあ行こう!』
スグルの声で俺たちは開いた退路ルートへと向かった。所持弾の心配はなかったし、スグルもなれたように退路を開いていく。順調にセーブポイントにたどりついた。
『シーナくん、この後時間ある?』
スグルが俺に聞く。
『うん。あるよ。』
答える俺に、
『少し話できる?』
とスグル。
『うん、大丈夫。ロビーで待ってるよ。』
俺は軽く手を挙げセーブポイントへ飛び込んだ。




