REGIMENT -連隊-9
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開店1時間前に到着し、店に入った瞬間からカウンターに座るアキラの後ろ姿が目に入った。
「おはようございます・・・。」
俺の挨拶の後、ヒデが勢いよくアキラの隣に座った。
「よう、一昨日は散々だったな。首までモガれてそりゃ痛々しかったぜ。」
楽しそうにヒデが言う。ふんと鼻を鳴らしてアキラがヒデに酒を注ぐ。俺はカウンターに入り厨房でいつものようにエプロンを腰に巻き開店準備を始めた。その間も、耳はカウンターに向けられ2人の話し声に耳を傾けていた。ハルカが2人に加わるように前に立つ。
「で?話ってなんだ?」
ヒデが早速本題へと切り込む。
「ヒデ、ヒュウガの横浜連合はうまくいくと思うか?」
アキラの言葉でやはり3パーティー連隊の話だと確信する。
「はあ?なんの話だ?まあいい。あの連隊はうまくいかん。ヒュウガは4パーティー20人で活動してるって見栄を張ってるが、現状は3パーティーでメンバーもフルじゃない。スラムドッグスだって正規雇用はフルだが1人行方不明だ。たしかマナブってスナイパーだったか、借金しまくって逃げてるらしい。S級に上がる前に破綻しちまってる。それにスラムドッグス以外のパーティーも最近はあまりミッションにでてないみたいだぜ。A級あたりが一番運営が難しいところだよな。このあたりでパンク(破産)しちまうパーティーが多い。」
ヒデは酒を飲みながら一気に話した。アキラがそれに答える。
「たしかにA級になるとメンバーの火器装備も変更をしなくてはならないから金がかかる。
それにもっともレベルアップに神経を使うのもA級だ。ここで終わっちまうパーティーも多い。」
「横浜連合はその典型的なパターンでご破算だよ。」
ヒデが結論を言い切った。
「でもヒュウガにも考えがあるんじゃないの?」
ハルカがヒュウガをかばう。アキラが口を開く。
「考えはあるだろう。あいつもこの世界じゃ、いくつも修羅場をかいくぐってきたベテランだ。しかし、この連合はどう考えてもうまくはいかん。いや、ヒデの話が本当ならばもう終わった連合だ。」
「で?アキラ、お前なにが言いたい。」
ヒデがアキラに詰め寄る。その時、店の扉が開いた。
「よう、また遅くなっちまったか?」
ヒュウガだった。
ヒュウガもアキラをはさんでカウンターにドカっと座った。
「なんだよ急に話って?そうそう、【虐殺の門】お疲れだったな。」
ヒュウガも目の前でハルカが注いだ酒をとりあえずグッと入れた。
「ようヒデ、どうだったうちのミオは?ちゃんと働いたか?」
ヒュウガの問いに、
「おう、充分すぎる働きだったよ。また貸してくれよ。」
ヒデは素直に答えた。ケラケラ笑うヒュウガにアキラが問う。
「お前の横浜連合の現状はどうなってる?そろそろ4パーティーS級へ昇進か?」
意地悪な質問である。その問いにヒュウガは表情をかえることなく、
「順調だよ。」
と答えた。
「うそつけ!」
ヒデがヒュウガに叫ぶ。
「うそじゃねえよ。まあちょっと計算違いな部分も出てきたが、想定の範囲内だ。」
とヒュウガ。
「なにが想定の範囲内だ。お前が連合を組んでるスターフォースのカネダから聞いてるんだよ。今ちゃんと機能しているのは、お前のスラムドッグスだけだろう?しかもマナブは行方不明。いいスナイパーだったが居所しれなきゃしょうがねぇな!」
とヒデ。
「ちっ・・・カネダめ・・・。お喋り野郎だ。でもあれだ、マナブはホトボリ醒めたら帰ってくるさ。」
とヒュウガ。
「ホトボリはいつ醒めますかぁ?」
と小馬鹿にするヒデ。喧嘩になりそうなところでハルカが間に入る。
「ふたりとも落ち着いて。もう・・・昔は仲良くしてたのに最近は顔を合わせば誰かがけしかける。だからなかなかこのメンバーが集まれなくなったんじゃない。」
不機嫌な顔をするハルカの言葉にヒュウガとヒデは口を閉じた。一通り2人のやり取りを黙って聞いていたアキラはタバコに火をつけ、一呼吸おいて口を開いた。
「ヒデ、ヒュウガ。おまえたちのパーティーとヴァンダルハーツで3パーティー連隊を組む。」
呆然の3人。アキラは続ける。
「このクソゲームを攻略するには3パーティー連隊しかない。
これは皆わかっている事だ。しかしその3パーティー連隊自体が難しく物理的にも戦略的にも不可能に近い。
だが、物理的な部分で言えば俺たちの3パーティーならば可能なんだ。」
沈黙していたヒデが口を開く。
「アキラ、マジで言ってんのか?3パーティー連隊を一番否定していたのはお前だろう?」
アキラは再びタバコに火をつけた。
この輪の中に店内の掃除をしていたナギサも加わる。持っていた雑巾はアスカに渡された。
「どういうこと?」
ハルカもアキラに聞く。
「おいシーナもこい。」
ヒデが俺を呼ぶ。厨房から出てきた俺を確認してアキラが話し出した。
「まず俺がなぜ3パーティー連隊を否定してきたのか。いや、否定はしていない。むしろ連隊でなければ【虐殺の門】をクリアできないことは随分前から分かっていた。トライアルが接続上限1なのに、ラストフィールドが3だってことに疑問を感じてな。これは3パーティーでトライするためのフィールドに違いないと確信に至ったわけだ。」
アキラの言葉を皆黙って聞いている。
「じゃあなぜ今まで3パーティー連隊を実行しなかったのか。ヒュウガの横浜連合構想は正しいと思っている。これは本音だ。嘘じゃない。しかし、組む連合を見極めなければ今のヒュウガのように長い時間かけてきた準備もすべて台無しになる。それを恐れていたから、今まで自分のパーティーの熟成に専念してきた。」
ヒュウガの口から反論は出ない。
「ではなぜ今になって連合をお前たちに提案する気になったのか。さっきも言ったように【虐殺の門】は3パーティー連隊でしかコンプリートできない。1パーティーでは成す術がないことは4年前に共にあのフィールドに立ったお前たちなら分かるはずだ。3パーティー連隊ってのは、ただ3つのパーティーが手を組むってだけの単純な話ではない。3つのパーティーをひとつにするってことだ。これぐらいの覚悟がなければ、連隊なんて最後までやり遂げれない。この覚悟ができるヤツは俺にとってレイニーデイズであの地獄を味わったお前たち以外いないんだ。スラムドッグスは実質の正規雇用は4人。全員凄腕のメンバーだとヒデから聞いている。エンドオブザワールドもランクはBだが個々のスキルが非常に素晴らしいとハルカが言っていた。なによりも、あの地獄を経験したお前たちが今もあの地獄を目指していることが、俺の決心を固まらせた。だから今・・・お前たちに連隊を『頼んで』いるんだ。」
アキラの言葉の後、少しの沈黙があった。アキラが誰かになにかを『頼んで』いる姿など珍しい光景である。この姿を見ているヒデとヒュウガに少し戸惑いすら感じた。
「うん。アキラ、いい決心よ。」
ポツリとハルカがつぶやく。
今まで黙っていたヒュウガが静かに口を開く。
「たしかに・・・横浜連合は破綻しちまった。これは俺の責任だ。この計画に長い時間ミオとシゲそしてアツヒロを巻き込んじまった。
いまさら連合はなかったことになんて言えねぇよ。・・・アキラ・・・。お前、本気なんだな?」
「ああ。」
アキラは静かだが重い声で答える。次にヒデがアキラに問う。
「うちにしてみりゃ願ったり叶ったりの連隊だ。しかし、ヴァンダルハーツとスラムドッグスに比べてランクや個々のレベルが低い。
ダイキとリョウは8だが、アサミは6、シーナに至っては3だ。でもだからってうちのメンバーに肩身の狭い思いはさせたくない。メンバーも変える気はない。足を引っ張るぐらいならこの話は乗れない。」
まさに俺が心配していたことだ。しかしこのヒデの言葉にアキラは少し強い口調で反論する。
「ヒデ・・・俺はな、その概念を捨ててくれと言っているんだ。さっきも言ったように『手を組む』のでなく、『ひとつにする』んだ。もちろん基本的な所属パーティーは変わらん。だがもう誰がどこのパーティーなんて関係ないんだ。難しいミッションなら俺がヘルプする。スピード特化型が必要ならばナギサやリョウが必要なパーティーに参加する。後方支援型が必要ならばヒュウガのところに2人いるだろう。そいつらを派遣する。そうやって必要な戦力を共有していく。これが本当の連隊だ。レベル上げがしたいならS級のヴァンダルハーツに参加すればいい。ハイプレイヤー条件が必要なときも一緒だ。この連隊に上下関係などない。だって考えてみろ。俺たちにそんなめんどくさい序列があったか?シュウや俺たち4人はいつも対等だった。もう一度・・・レイニーデイズをひとつに戻そう。」
アキラが一気に言い終わると酒をグッと空けた。スッとヒュウガが立ち上がる。
「今から横浜帰って、メンバー集めてこの話をまとめてくる。」
これはヒュウガのYESの返答だ。
「わかった。俺もうちのやつらに納得させる。」
ヒデも合意した。
「レイニーデイズをひとつにもどす・・・か。」
ハルカがつぶやいた。その顔は笑顔だった。
俺はナギサと目が合いお互い頷いた
厨房でパスタを湯がきながら、次々とオーダーが舞い込んできた。
金曜日。やはり客足は多い。客席が埋まり始めた頃、ヒデが席を立ち店を出た。おそらくエンドオブザワールドのメンバーにコンタクトをとるためだろう。ちょうどリョウの学校作業も終わる頃だ。
動き出した3パーティー連隊。アキラは3パーティーをひとつにすると言い切った。
4年前に止まったレイニーデイズが再び動き出したのだ。5人だったレイニーデイズは現在12人の大所帯となっての復活だ。
ひとりカウンターの真ん中でダラダラ飲むアキラ。彼を中心に俺達は、【虐殺の門】へと走り出した。




