REGIMENT -連隊-7
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開店10分前に到着した俺は飛び込むように店に入った。
「おはようございます!!」
この業界は朝でも晩でも、これが最初の挨拶だ。
「おはよう。」
ナギサが答える。
「昨日はお疲れ様でした!」
ナギサに言うと、
「ありがとう。」
と一言。もちろんナギサに大きなリアクションは求めていない。
しかし、俺はナギサが【虐殺の門】に飛び込んだ時の興奮は一生忘れないだろう。
あの感動をくれたナギサにもっと話を聞きたい…!!しかし、
「シーナ!!早く準備して!!」
とハルカの怒号が響く。
「おはようございます!!すぐ支度します!!」
俺は厨房に入り、腰にエプロンを巻き開店の準備を始めた。今日はいつもより客足が悪い。普段ならピークの時間も店はガランとしていた。
「ヒカル、今日は上がっていいわよ。」
ハルカがヒカルに告げる。これだけ暇ならカウンターにハルカとナギサだけで充分だ。ヒカルが厨房に顔を出し、
「シーナ、お疲れ~。」
と、声をかけ帰っていった。そんな調子でダラダラとまばらな客数で閉店時間を向かえ、後片付けの準備に入った時、店の扉が開く音がした。厨房からだと見えないが、この時間にくるのはアキラしかいない。
構わず洗いものに取りかかろうとした時、
「シーナ、お客さん。」
と、ハルカが俺をカウンターに呼ぶ。またアキラからのご指名かと思いカウンターに出ると、リョウがいた。
「あ、いらっしゃいませ…。」
驚いた俺は、少し声がうわずった。
「へぇ~、ちゃんと仕事してんじゃん。」
リョウは俺のエプロン姿を見て笑っている。
「リョウ、なに飲む?」
ハルカが聞くと、
「シーナのおごりでマルガリータ。」
と返答。ナギサが慣れた手つきでシェイカーを振る。カクテルグラスに注がれたマルガリータをリョウは、少し口をつけて一息ついた。
「で?今日はどうしたの?リョウがこの店くるなんて珍しいじゃない。しかもこんな時間に。」
ハルカがカウンターを出て、リョウの隣に座る。
「まず、ハルカさんとナギサさん。昨日はお疲れ様でした。」
リョウが二人に労いの言葉をかける。
「それはご丁寧に、ありがとう。」
ハルカが自分にも酒を入れリョウに答える。
「学校でちょっと用事があって、手間取っていたらこんな時間になっちゃって。始発まで時間潰し。」
リョウはこう言ったが、俺はこれが嘘だとすぐわかった。だってリョウの財力ならタクシーで帰れる。
おそらく…、
「だから、昨日の【虐殺の門】の話を聞かせて。ハルカさん。」
これが本音だ。
しかし、これは俺も聞きたい。ずっと仕事中もそのタイミングを見計らっていたが、なかなか聞けなかった。ハルカは笑顔でリョウのおでこをつつく。嘘がバレたリョウは少し顔を赤らめた。
「いいわ、ナギサもこっち側にきて座って。シーナはカウンターで私たちのお世話ね。」
ハルカはナギサを呼び、カウンター客席側に3人が並んだ。
「と言っても私は開始15秒しかあのフィールドにはいられなかったのよ。話す事なんてあまりないわ。リョウが聞きたいのは…もう一人いたわね。リョウとシーナが聞きたいのは、ナギサでしょ?」
ハルカの言葉に俺とリョウはひるんだ。図星だ。もちろんハルカの役割も大きかった。最初のジャベリンでの攻撃で、かなりの数の中央付近ガトリングを消滅させた。ハルカだって、ヒュウガに負けない命中技術を持っている。しかも重火器での射撃コントロールである。彼女が、帝国最強の女と呼ばれるのはけっして元レイニーデイズというだけではなく、本当に最強なのだ。その最強の女がフィールド中央部に道を作り、ナギサはそこを走り抜けた。
昨日のハイアベレージまでのプロセスは、ハルカの初弾からすでに始まっていたのだ。
ハルカが続ける。
「私の役目は初めの一発で終わっていたの。あとは少しでも私に遠距離放火を向けさせる事。数秒の時間稼ぎね。でもその数秒でナギサは一歩でも前に進める。…四年前とまったく同じ。
私にグランディアを提案したシュウを少し恨むわ。私はこんな役回りしかできないのよ、あのフィールドではね。」
ハルカの言葉に俺とリョウは沈黙。続けてナギサが静かな口調で話し出す。
「フィールドでの戦いは見ていたでしょ。私は一発の弾丸すら撃たずにひたすら走った。前だけ見てね。アキラからそう言われてたから。
『振り返るな、迷うな、ただ門だけ見て走れ』ってね。
でも最後にガーディアンがいたときは止まっちゃった。あんなに戸惑ったのは人生で初めて。心がざわついて頭が真っ白になった。そして思わずアサルトライフルを構えちゃった。あの時、すでに私ひとりしかいないと思ってたから。
そうしたらアキラの声が聞こえたの。一瞬で我に返ったわ。そしてまた走り出した。」
ナギサがこんなに長く話すのは珍しい。昨日のミッションを思い出して少し興奮しているように見える。ナギサは膝を擦りながら再び口を開く。
「門の手前で膝撃ちされたときは正直ダメかと諦めた。でも不思議ね。体か勝手に前に体を押し上げた。気がついたら門を抜けていたわ。」
俺とリョウはもう言葉すら発せずただナギサの声に集中している。
「門を抜けると、そこは真っ白な空間だった。なにもない真っ白な場所。ただ10秒もしないうちに意識が飛んで帰還させられたわ。」
ナギサが門を抜けた後の10秒間…それはアキラが何百もの弾丸を体に受けていた時間。アキラの首から上が弾け飛んだ瞬間、ナギサも一緒にリタイアとなったわけだ。【虐殺の門】…。地獄そのものである。こんなところを目指している自分に恐怖感が襲う。リョウが口を開いた。
「私も必ず抜けてやるわ…。【虐殺の門】…。」
強い…。この女達は本当に強い。俺は背中にジワリと汗を感じた。
その後も、ハルカとナギサから【虐殺の門】の話を聞いていた。
だが女が3人も集まれば話は脱線していく。アキラへの愚痴。これはけっこう聞いていて面白かった。愚痴と言っても悪口ではない。アキラはあれでけっこう正義感が強い。雑に見えて繊細な性格に女性陣はすこし不満があるようだ。
「仕事柄ああなっちゃったのね。いや、昔からか。」
ハルカが笑いながら言う。ん?アキラって仕事してるの?てっきりFRONTIERで飯を食ってるプロかと思ってた。
「アキラさんってなんの仕事してるんですか?」
俺の問いに、
「警察官よ。」
とハルカ。
うそだろぉーーーーーーーーーーーー!?
あんな警官いるかよ!?毎日、朝まで酒飲んでるじゃないか!!
そんなサプライズ的な話しも飛びだし、始発の時間か近づいた時リョウが、
「そうそうシーナ。今週は私ダイブできないから。今日、突然学園祭の実行委員をやらされることになって。いきなり欠員でてしまって…。ヒデには言ってあるから。」
と言った。学校でトラブルってこれのことか。
「わかりました。」
っていうか明日(正確には今日)はミッションなんだけど、どうするんだろう?突然ナギサがリョウに聞く。
「ねぇリョウちゃん。学園祭…私とか行ってもいい?」
ナギサの珍しい自己アピールに、
「来てきて!!ナギサさん。案内するよ!」
リョウは嬉しそうだ。
「シーナ…一緒に行こう…。」
ナギサは俺を誘った。俺はリョウを見る。
「うん、一緒に来て!!」
と。聖サイモン女学院の学園祭…。なんか…楽しみだな。




