REGIMENT -連隊-6
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アキラは俺に、3パーティー連隊とハルカの中絶の二点を強く口止めして帰っていった。まず、俺が感じたことは、アキラがなぜ3パーティー連隊を実行へと決意を固めたのか。これはきっと前々からあったプランだったのかもしれない。ではなぜすぐに実行に移せなかったのか?それはヒュウガとの関係があるだろう。しかし、これは前回のトライアルで改善の方向へと向かっている。
そして、なによりも1パーティーでは絶対にコンプリートできないということを確信したことが最大の理由だろう。この決意は、非常に強い信念がなければ実行に移せない。なぜなら、ここまで費やしてきた年月に加え、さらに数年の月日が必要になるからだ。
しかし、3パーティー連隊でしかコンプリートできないミッションで、アキラが選べるパーティーは限られる。他人ではなく身内のパーティーは2つしかない。この2つのパーティーのS級への昇格と個々のプレイヤーのレベルアップをもサポートしなければならない。
アキラにとって目標達成のために苦難の道を歩まざるえない選択しかないのだ。
しかし…ヒュウガが素直に承諾するだろうか?
ヒュウガは横浜連合の構築に人生を賭けてきた。今さらこれを捨てて、アキラの提案に容易く乗るとは到底思えない。エンドオブザワールドは間違いなく承諾する。ヴァンダルハーツとは協力関係にあるからだ。加えて【虐殺の門】への道が大きく開かれる。
と言うことは…この交渉にはひとりの力が左右されるだろう。両方のパーティーに協力してきた我がパーティーのリーダーであるヒデだ。
俺は後片付けを終えて、帰路につきながら、このレイニーデイズ連合の成功を夜空に願った。
その数時間後、少しの仮眠をとり学校へと向かった。学校でも昨夜のヴァンダルハーツのトライの話でもちきりだった。もちろんこの中でFRONTIERのプレイヤーは、俺が知る限り俺だけだ。
これだけでもFRONTIERの世間での注目度がわかる。俺はそのヴァンダルハーツのパーティーリーダーとさっきまで一緒にいたのだ。と…心で思いつつ皆の話を聞いていた。学校が終わり、電気街のステーションに直行する。が、リョウからメールが入る。
『ごめん。今日は行けない。学校でトラブル。明日また。』
どうしよう…。今日はミッションもないし、ひとりでダイブしてもいいがなんかつまらないな…。とりあえずダイキにメールしてみる。すると、すぐに返事がきた。
『OK。今日は時間があるから一緒にダイブしよう。』
よし!!よく考えるとダイキと二人でダイブするのは初めてだ。今チャレンジしているダイキとのポジショニングを練習しよう。俺はステーションで期待しながらダイキを待っていた。
30分後、ダイキと合流しダイブ。オープンフィールドでお互いのポジショニングを確認し、様々なバリエーションを構築していく。ダイキは理論的に戦闘を解析し、状況に応じた立ち位置を展開している。俺とダイキが横並びになることもあれば、縦にもなり、斜になるポジショニングもある。
リョウとアサミを前衛に置いた状況を想定して二人で新しいシステムを作っていく作業が楽しくて仕方がなかった。一時間程でプラグアウトして、現実世界に帰還し、スタバに移動。そこでも二人で話し合い、次のミッションで使えるポジショニングのバリエーションを再考する。本当に楽しい時間だ。
エンドオブザワールドは俺とダイキでゲームメイクしていこうとダイキが言ってくれた時、本当に嬉しかった。
だからダイキとのこういう時間が貴重に感じた。そして話は昨夜のヴァンダルハーツのトライになる。ダイキも俺と同じようにアキラの思惑に気づいていたようだ。
ナギサだけを抜けさせるということに集中したミッションてあったと。
俺は昨夜、アキラから口止めされていた事以外を話した。ダイキは納得の表情だ。ダイキは言う。
「【虐殺の門】っていうのは、云わば自己満足の世界なのかもしれない。
本当のコンプリートはパーティーの半分が門を抜けなければいけないが、現状は不可能に近い。
だから、ハイアベレージであるひとりを門を抜けさせるってことでコンプリートとするパーティーもいるはずだ。
もちろん今のハイアベレージがひとりだから、次は二人に挑戦するパーティーも出てくるだろう。こうやって自己目標を達成していくしか術がないのが【虐殺の門】の現実なんだよ。」
確かに現状はそうなんだろう。しかし、数日後にダイキは知るだろう…アキラの3パーティー連隊構想を…。きっと今のダイキの考えが一気に変わるはずだ。ダイキは本当のコンプリートに向けて走り出すメンバーの中の一員であるからだ。
ダイキが続ける。
「シーナはハイプレイヤーになったらなんのジョブつける?」
俺は一瞬ひるんだ。まだ数年はかかるレベル10までの道である。しっかり考えた事はなかった。
しかし、漠然とだがスピードスターをつけることで自分のこのパーティーでの使命が果たせるような気がする。アサミもスピードスターにすると言っていた。ジョブとは各アバターに4つあり、レベル10(ハイプレイヤー)になるとその中からひとつ選択する。ジョブを付加させることにより、能力の上限値をあげたり、スキルを発動させたりでき、自己の能力を大幅に上げることができる。
アバターSのジョブは、
SPEED STARスピードの上限値をさらに上げる。
GREEDすべてのステイタス上限値を平均的に上げる。
FALCON命中率とフィジカル系が飛躍的に上がる。
ASSASSIN所持装備数が3から4になる。
俺は、
「たぶんスピードスターになると思います…。」
と返答した。するとダイキは、
「その時がきたら、自分の意思で決めなきゃだめだぞ。周りの声に左右されずにな。1度選択したジョブは変更できない。もし変更したければ、長い年月をかけてきた今のプレイデータをすべて捨てて、新しくレベル1からやり直さなければならないんだ。いいかシーナ。」
と、真剣な眼差しで言った。俺は一呼吸おいて、大きく頷いた。
「ダイキさんはドラグナーにするんですよね?」
以前、リョウからダイキがドラグナーにすると聞いていた。
アバターMのジョブは、
HIGHLANDERスピード値の上限値がアバターS並みに上がる。
PYGMALIO (ピグマリオ)フィジカル系の上限値がなくなる。
GENEROUS命中率が飛躍的に上がる。
DRAGONAR所持武器の総重量が増える。
の4つ。
「うん。ドラグナーってきめてる。なんでかわかるかい?」
ダイキは頷きながら俺に問いかけた。やはり、パーティーバトルとして、バックアップ火器強化のためだろう。俺はそれを伝えるとダイキは、
「半分正解、半分ハズレ。」
とはにかみながら答える。半分ハズレとは?
「パーティーのためって言うのは建前だよ。本当は、総重量が増えると重火器が装備できるようになる。撃ちたいと思わないかい?
あのランチャーやバズーカを。僕はあれが撃ちたいからドラグナーを選びたいんだ。」
嬉しそうにいうダイキ。なるほど、決してダイキはただパーティーに奉仕するだけのプレイヤーではなく、ちゃんとゲームを楽しんでいるのだ。
俺にジョブは自分で選択しろって言った意味がわかった。ちゃんとゲームを楽しまなくてはただの兵士だ。俺はダイキの本音を垣間見れて嬉しくなった。
「よう!」
そこにヒデが現れる。この人はいつもこの時間にこのスタバに来るのだ。たとえ誰とも約束や目処がなくても。コーヒーを片手にテーブルにつくヒデ。ダイキが問う。
「そういえばヒデって、なんでヴァースを選んだの?」
聞かれたヒデは、
「なんだよいきなり?」
と驚いた顔を見せた。ヒデにこれまでの二人の会話を説明した。
アバターLのジョブは、
VERSEスピードの限界能力が上がり、アバターLでありがら前線での戦いが可能になる攻撃系ジョブ。
GRANDIAすべてのミッションフィールドの地理地形や敵戦力などの情報が把握できる戦略系ジョブ。
CORNELIUSすべてのパラメーター上限が平均的にアップする後方支援特化ジョブ。
ALFONSアバターLの装備武器数は4つだが、ひとつ追加し5つにできる戦力強化系ジョブ。
の4つ。ヒデが少し悩む仕草を見せて口を開いた。
「そうだな…。やはりパーティー構成からの選択だったな。レイニーデイズはハルカと俺のダブルリベロだったから、どちらかが攻撃的なパラ振りをしなければならない。だからハルカをフラッグ温存型にして、俺がバックアップ型になった。ただそれだけだ。」
なるほど、ヒデはシュウによって左右された側か…。でもそれも間違っていない。やはりパーティー構成によって選択しなければならない状況もある。この選択も【虐殺の門】へのプロセスのひとつなのだから。
「だが、昨日のハルカを見ると、俺はこの選択で良かったかもしれないな。」
ヒデが昨夜のヴァンダルハーツの【虐殺の門】での戦いを振り返る。ダイキが興味深そうに、
「どういうこと?」
と、聞き返す。
「結局のところ、俺たちリベロはラストフィールドでは役には立たない。ハルカのように重火器のプレイヤーは成す統べなく終了だ。だが、俺なら少しは楯になれる。それにヴァースのお陰で少しはついていける。
昨日のハルカのようにランチャー20発一気に浴びて粉々になることはない。それにアバターLは他のサイズよりフィジカルは強めだからな。多少の被弾は耐えられる。」
ヒデは昨日のヴァンダルハーツのトライを思い出しながら話す。
「それでもハルカより10秒長生きする程度だがな。」
と最後は笑った。ダイキが聞く。
「昨日のヴァンダルハーツは成功?」
ヒデが答える。
「成功だ。もうお前たちもわかっているだろう、アキラの目的が。」
俺が続く、
「一応、世界タイ記録ですもんね。」
「ああ、だが惜しかった。ガーディアンさえ出てこなかったら、もしかしたらアキラも行けたかもしれない。」
ヒデが不満な顔をする。確かに最後のトラブルさえなければ世界新記録になっていたかもしれない。
「あのガーディアンにはびっくりしたね。」
ダイキは楽しそうに言う。
「本当に人をバカにしたゲームだ。」
吐き捨てるようにヒデ。しかし顔は笑っている。この二人は本当にFRONTIERが好きなんだな…。
「シーナ、そろそろ時間じゃないか?」
ヒデが俺に言う。本当だ、仕事の時間が迫っている。
「最近、シーナはこの手の話に夢中になるよね。」
ダイキの言葉に俺の顔も綻ぶ。
「お前、最近よく笑うようになった。出会ったばかりの頃は表情乏しかったのにな。」
ヒデの言った事に俺はふと気づいた。俺もFRONTIERが楽しくてしかたかない。時間を忘れてしまうほどにハマっている。俺を拾ってくれたエンドオブザワールドに感謝している。俺は立ち上がり二人に軽く頭を下げ、慌ててスタバを出た。




