REGIMENT -連隊-4
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タクシーを拾い、歌舞伎町まで帰って来た俺はすぐに店へと向かい鍵を開け照明をつけた。まだ3人は来ていない。とりあえず、乾いた喉をビールで潤す。
横浜遠征以来、ビールが好きになった。まだあまり酒は飲めないが、このアルコールが体に入っていく感覚がたまらなくいい。
しばらく端末をいじりネットで今日のヴァンダルハーツのトライの反応を見る。辛口な意見から、我が国ではレイニーデイズ以来4年ぶりの快挙を祝福するコメントが多数あり、スレッドはこの短時間で50以上、コメント数は未曾有な数にまで増えていた。
しかしやはり多いのが、【虐殺の門】不落説であり、どうやっても堕ちないR-SフィールドNO1に対する考察である。運営側の意図なのかガーディアン登場なんて演出は、今までなかったフィールドである。これが意図的に行われたとするならば悪意でしかない。
ラストフィールドが不落であるからこそ成り立つゲームであるといった意見をよく見るが俺も賛成である。このゲームの人気はこの【虐殺の門】で壊滅していくパーティーの絶望を楽しむことが多くをしめている。皆が臨めるミッションではない。限られた一握りのパーティーだけが挑戦できるフィールドである。
どうやって攻略するかではなく、どうやって全滅していくかを楽しんでいる人々が多数なのだ。これはゲームコンプリートを目的するパーティーと、しないパーティーの比率がすべてを物語っている。
ヴァンダルハーツは前者であり、ごく少数派の部類に入る。ほとんどのパーティーは戦争ゲームを楽しむ感覚でしかない。ここにコンプリートに対する温度差が生まれているのだ。
しばらくすると店の扉が開いた。アキラだった。
「あ、お疲れ様です。」
突然で焦った俺の第一声がこれだった。
「やっぱりお前がいたか。」
アキラはカウンターにドカッと座っりタバコに火をつけた。
「ハルカさんとナギサさんは?」
俺の問いに、
「帰ったよ。」
と、アキラ。じゃあなんでこの人はここに来たんだ?
「多分、お前がいると思って来てみた。あんなミッションの後だ、まっすぐ帰る気にはならんよ。」
アキラは疲れきった表情で言った。俺っていつからアキラとこんな信頼関係が完成したのだろう。待っていた俺と、ここに来たアキラ。意外とミッションでは息が合うかも…と一瞬思った。
しばらくの沈黙。アキラはグラスをあけ、俺は注ぎ続ける。
「目的は達成ってとこですね?」
俺の突然の問いかけにアキラは一瞬目を開いたが、
「ああ。」
と低い声で答えた。
「お前も飲めよ。」
アキラが目の前のボトルを持って俺に勧める。俺は棚からグラスを取り、アキラの酌から口に運んだ。
アキラがいつも飲んでいる酒はスコッチ・ウイスキーだ。バランタイン17年という長期成熟原酒で、1937年の発売以来揺るぎない地位を築いてきた銘酒だ。
口に含んだ時のクリーミーな甘みの中にスモーキーさも感じられる複雑で力強い味わいで、味の余韻も長い。俺も一応バー勤めだ。酒の勉強はしている。
ただ文章に書いている味の説明が俺の口の中の味覚と一致しないのが悩みである。まだ俺には早い大人の酒ってことだ。
軽く舐める程度にバランタインを口に含ませ、グラスを置いた俺はアキラに確認した。
「はじめからひとりだけのつもりだったんんですね?」
アキラは少し笑みを浮かべて答えた。
「お前のその勘の良さだけは褒めてやる。褒美に全部喋ってやるよ。
そう・・ナギサひとりだけ門を抜けさせるためのミッションだった。コンプリートする気はさらさらなかった。
お前も見ただろう?ひとりを門へ誘導するのに4人の犠牲が必要なんだ。
これは4年前のトライで解っていたことだ。俺、ヒュウガ、ヒデとハルカが全身バラバラにされながらシュウを逃がした。
あのフィールドをコンプリートすることなど不可能なんだよ。しまいにはガーディアンまで出てきやがった。
運営側がコンプリートさせる気のないゲームをどうしたら攻略できる?教えてくれ。」
アキラ少しふてくされた顔をした。再び俺が質問する。
「じゃあ、なぜトライするんですか?
コンプリートできないゲームになぜ長い歳月をかけて臨み続けるのですか?」
するとアキラが俺のグラスに酒を注ぎ、「飲め」と促し話を続けた。
「勘違いするな。あくまでも今日はコンプリートする気がなかったと言っているんだ。
俺は今日のトライで、ナギサに門を抜けるまでの能力があるかを試したかったんだ。さっきも言ったろ、ひとり逃がすのに4人の犠牲が必要だと。ならひとり門をくぐらせた俺たちの今日のミッションは大成功ってことだ。」
俺は首をかしげた。アキラの言っている意味が理解できない。
「3パーティーで15人。ひとりに対して4人の犠牲で・・・3人を門へと誘導できる。わかったか?」
それはまさかの・・・3パーティー連隊!?
アキラの目はまっすぐ俺を捕らえていた。
しかしアキラは3パーティー連隊否定派だ。連隊自体が不可能だと言っていた。その事をアキラにぶつけると、
「お前、今レベル3だったか?ハイプレイヤーまで最短でもあと3年・・・いや2年でなんとかなるかもな・・・。」
と、わけのわからないことを言い出した。キョトン顔の俺にアキラがさらに続ける。
「お前、ヒュウガと一緒にA級のミッションに出たんだったな。そこであいつから聞いてるはずだ。横浜連合ってダセェ名前の存在を。
あいつはそれで3パーティー連隊を可能にできると信じている。たしかに・・・あいつの考え方は正しい。
いや、それしか手がない。4年もの間、あいつはそれだけを考えてこの世界で生きてきたと言ってもいいだろう。
だが横浜連合には大きな穴があるんだ。
それがあるうちは横浜連合で3パーティー連隊なんて夢物語だ。」
穴?
「ヒュウガだよ。あいつ自身が横浜連合の穴だ。いや、もっと言えばスラムドッグス自体が穴なんだ。」
俺はもうパニックだ。アキラの真意がまったく掴めない。
「3パーティー連隊って言うのは平等条約で成り立つ。連合内のパーティーの中で上下関係を作ってはいけないんだ。
S級なんて欲の塊のようなヤツしか生き残っていけない。同じパーティー内でも、経験値の奪い合いなんてよく聞く話だ。そんな世界でヒュウガなんてカリスマがひとりいてみろ。ただの邪魔者にしかならない。
結果的にスラムドッグスが孤立、もしくは潰されかねん。危険な考え方なんだよ、3パーティー連隊を目的とした連合ってやつは。
ヒュウガと同じ考えのヤツも何人かいたよ。
海外のプレイヤーだがな。皆、ことごとく空中分解して連合なんて跡形もなく消えちまった。
はっきり言って他人の集まりじゃあ不可能ってことなんだ。この考えが俺の3パーティー連隊が不可能ってことの根拠だ。」
アキラはタバコに火をつけ一息入れる。俺は未だに状況が把握できずに、きっとアホ面しているのだろう。タバコを揉み消しアキラが言い放つ。
「ただひとつ・・・この世界で唯一可能な3パーティー連隊が存在する。今までは考えてはいたが実行には移せなかった。一度分かれた人間がもう一度手を組むってのはリスクが高い・・・。」
俺はゴクリと喉をならし、アキラの次の言葉を待った。
アキラは一呼吸した。次の言葉を発したら例え聞いているのが俺ひとりであろうと後戻りはできないと覚悟しているように見えた。
「ヴァンダルハーツ、スラムドッグス、エンドオブザワールドで連隊を組む。2年以内にこの3パーティー連隊で【虐殺の門】へ行く。
このクソゲームの終焉を俺たちの手で迎えさせてやる!」
アキラは言い終わるとグラスを一気に空けた。他人では不可能というアキラの持論から生まれたこの発想。
レイニーデイズという伝説のパーティーが3つに別れ、そしてまたひとつになる。俺もグラスを一気に飲み干した。
今の俺の状況は・・・これは興奮以外なにものでもない。
「近々、ヒュウガとヒデと会談する予定だ。それまでお前は今聞いたことは黙っておけ。いいな?」
アキラの強い口調に俺は大きく頷いた。




