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【40万PV達成❤️】絶望のFRONTIER  作者: 泉水遊馬
REGIMENT -連隊-
40/108

REGIMENT -連隊-3

突然PCから地響きのようなノイズが鳴り始めた。画面には広いフィールドの先に大きな要塞がそびえたっている。

挿絵(By みてみん)


R-SフィールドNO.1【虐殺の門】幾多のパーティーがこのフィールドに挑み、すべてのパーティーが絶望を味わった難攻不落のラストフィールド。そのフィールドは通常のミッションフィールドとは違い、フラッグステージのみとシンプル。しかしなにも障害物のないフィールドを何百単位の機関砲やランチゃーを掻い潜って500メートル先の要塞の中に入らなくてはいけない。

クリア条件はパーティーメンバーの50%。フルパーティーならば3人が要塞にたどり着き、小さな門を抜けることでミッション・コンプリートとなる。門を抜けたプレイヤーの経験談によれば、抜けた瞬間真っ白な空間にフィールドチェンジするとの事だ。そしてしばらくして強制的に帰還となった。自分以外のメンバーが全滅したからである。だから、その先がどうなるのか未だ誰も知らない。

噂では隠しフィールドがあり、門を抜けた3人でフラッグ戦があるなんて都市伝説のような憶測まで出ている謎だらけのフィールドだ。

だがそれは門を抜けてからの話で、ここにクリア条件人数がたどり着けなければ、話にならない。要塞の壁には無数の穴が開いていて、すべての穴からガトリングが顔を出している。そしてランチャーを構えたハイイーターが要塞の上部に何十人も並んでいる。ここを5人で走り抜けなければならないのだ。だがフィールドにはイーターはいない。とにかく要塞から飛んでくる弾の雨を切り抜けながら、ひたすら走るのだ。そのフィールドのスタート地点にひとりのプレイヤーか現れた。黒いバトルスーツをまとったそのプレイヤーは、そびえたつ要塞をじっと見つめて立っていた。

「あ、アキラだ。」

挿絵(By みてみん)

アサミが言う。俺はアキラのアバター姿を初めて見た。その姿から覚悟が伝わってくる。四年前にレイニーデイズで絶望を味わった【虐殺の門】に、彼はもう一度帰ってきたのだ。大日本帝国NO.1のパーティーが、今…伝説に挑もうとしていた。


アキラに近づくもうひとりのプレイヤー。女性のアバターであることがわかる。

ナギサだ。アバターMのナギサは、スピード特化のアタッカーで、今日のトライのキーマンである。ナギサの強さは前進力だ。どんな状況でも必ず突破口を開きスペースを作る。前衛の位置から自ら敵の裏側に入るその速さは、ヴァンダルハーツの独特な戦いかたを生んだ。

挿絵(By みてみん)

ナギサを進めるという作業にバックアップは徹することができるのだ。これはリョウやミオのような天才的な能力の持ち主ではできない、テクニックを持ち味にしたナギサだから可能にしたポジショニングである。バックアップでこじ開けたスペースに飛び込むのではなく、イーターの隙間をすり抜け、さらに前のスペースを作る。これは特悦したスピードとテクニックが成せる業である。そしてこの戦いを可能にした大きな理由が、ピグマリオの鎧をもったアキラという楯の存在があってこそなのだ。

俺は二人の姿を見ながら、このトライでアキラはナギサの楯となり、かなりの数の被弾をすることが想像でき、胸が痛くなった。被弾は本当に痛い。激痛が体を襲う。俺が被弾したなら一瞬の激痛の後、すぐにリタイアできる。しかし、ピグマリオのアキラはリタイアできずに、その激痛を抱えたままミッションは続く。これは辛い。本当に辛いのだ。身体中に幾発の弾を貫かれたままパーティーの楯となり続けるアキラを俺は尊敬している。俺はアキラと並ぶナギサの姿を見た瞬間から、身体中に汗を感じ緊張感を高まらせていた。


その二人を見るように後方にひとりのプレイヤーが立っていた。

一際大きなアバターLのメタルボディーのハルカだ。彼女もまた四年前に屈辱を味わったひとりである。FRONTIER歴はベテランの域にある彼女は常にパーティーのブレーンとしての役目を担ってきた。

グランディアというジョブは、ある意味パーティーの運命を握る宿命に立たされる。彼女の発する一声でパーティーの戦いが変化するからだ。しかし、今きっと彼女の胸にあるのはジレンマであろう。この【虐殺の門】に至るまで彼女はパーティーの舵を後方からとっていた。

挿絵(By みてみん)

しかし、このフィールドにおいて彼女はジョブの力も無意味で、ただの後方支援要員でしかなく、楯のひとつでしかない。ただ真っ直ぐに進むだけのミッションにグランディアは必要ないのだ。

これまでパーティーの為に尽くしてきた彼女がラストフィールドでこの立場にあるという事に、FRONTIER運営側の悪意に怒りを覚えてならない。

俺は親であるハルカの心を察し、悲しい気持ちになった。


そしてアバターSの二人がハルカの横に立った。ウィリアム・ブラザーズだ。イギリス、ロンドンのステーションからダイブしている。これでメンバー全員がステージに揃った。

この瞬間、『キュイーン』と耳障りな機械音が一斉に鳴り出した。すべての機関砲が起動したのだ。この【虐殺の門】にてミッション開始はエネミーラインと呼ばれる位置を越えることでスタートとされる。

もちろんそのエネミーラインなんてスタートラインは目では見えない。すなわち今いる位置から助走を含めてミッションは始まっているのだ。アキラがウィリアム・ブラザーズを前の位置に呼ぶ。ナギサをセンターに置き、その両脇をウィリアム・ブラザーズを配置する。アキラはその3人から一歩下がった位置に構えた。ハルカもアキラの横に立つ。うるさい程の機関砲の回転音が支配するこのステージの開始はアキラのGOサインを待っていた。そして…アキラの手が高らかに上がった瞬間、5人はエネミーラインに向かい走り出した。


走り始めてすぐハルカがジャベリンを構える、そしてそれは爆裂音と共に要塞めがけ火を噴いた。放たれたランチャーは要塞の壁に命中、大きな衝撃の中いくつかの機関砲を破壊した。このハルカの先制攻撃を合図にエネミーラインを超えた瞬間、要塞から一気に何百とある機関砲とランチャーが火を噴き、激しい爆裂音と機械音が共鳴し、5人への集中砲火が始まった。

『散れ!』

アキラの叫びに似た指示の後、ウィリアム・ブラザーズは左右に分かれ、ナギサはひたすら全力で門に向かい走る。それをすぐ後方からアキラが援護し、殿しんがりからハルカが要塞への攻撃を続けている。あまりにも激しい要塞からの攻撃はまるで激しい横殴りの雨のように5人を襲う。ここからが地獄の始まりであった。フィールドからまず姿を消したのが、ヒースだった。全身を蜂の巣にされ、その体は幾つにも引き裂かれた瞬間消えた。突然、パーティーの後方に大きな爆発が起きる。ランチャー数発を同時に食らったハルカは跡形もなく消滅した。それでも進むナギサは相手の攻撃をかわしつつ前進を進めていた。その右舷で再び大きな爆発が起こる。マークの全身が粉々に吹き飛ぶ。この瞬間3人のリタイアによりコンプリートは不可能となった。

『どうする!?』

ナギサの叫び。俺は現実世界でもこんなナギサの声は聞いたことがない。

『進め!』

アキラは進行を続行。すでにアキラ自身もかなり被弾している。

「リセットしろ!」

俺はPCのディスプレイに叫んでいた。リセットとはその場で強制帰還できる機能である。すでにコンプリート条件の50%のメンバーがリタイアしている。これ以上、傷つくことはない。

しかし横でアサミが否定する。

「リセットなんてしないよ!ここでリセットしたら二度とこのステージに来れなくなる!考えてみて、ここでリセットを使うような腰抜けの招聘を受けるバカな上位プレイヤーがいると思う?全世界のプレイヤーやマニアがこの光景を見ているのよ!

最後まで意地を見せなければ悪評叩かれて世界中の笑いもの。今後、ヴァンダルハーツの招聘を受けるプレイヤーはいなくなるわ。でも・・・ひとりでも門を抜ければそれは大きな実績になる!

いま、アキラは天国と地獄の境界線に立っているのよ!」

アサミのその真剣な眼差しはディスプレイの中のナギサに向けられている。

アサミの言葉に俺はこのステージの過酷さを思い知らされた。これはゲームだ。所詮ゲームなのである。

しかしゲームだからこそ逃げられないのだ。本当の戦場ならば撤退リセットも選択のひとつだ。勇気ある決断と賞賛されるかもしれない。だがこのゲームの中でのリセットは腰抜け野郎のレッテルを貼られる最悪の選択になる。他のステージならまだいい。誰も見ちゃいない。

しかしこの【虐殺の門】に限っては、世界中にLIVE配信されている。ヴァンダルハーツが今後活動していくためには、コンプリート条件を失ったからといって、ここで戦いをやめるわけにはいかないのだ。言いかえるならばヴァンダルハーツに残された選択は全滅かひとりでも門を抜けるの2つ。アキラが初めて会ったときに言った、「あのフィールドで戦うのは敵ではなく自分の中の絶望」の言葉が甦る。ミッションスタートからおよそ30秒で、アキラとナギサは敵が絶望という名に変わった。まさに地獄とはこのことだ。

「とにかくナギサだけでも・・・。」

アサミが祈るように言う。俺は瞬きも忘れて2人を見ていた。

ナギサは必死に走っている。ここまでナギサのライフルからは一発も弾は発射されていない。とにかく前へ前へと前進することだけに徹している。その後方で何発も弾丸を喰らって必死にナギサについていくアキラの姿が痛々しい。自分に攻撃が集中するように敢えてアテのない乱射を要塞に向けながらナギサを逃がしている。しかし突然、ナギサの足が止まる。この集中砲火の中、立ち止まることはリタイアを意味する。

『止まるな!走れ・・・。』

アキラは言いかけて自分も足を止める。ナギサの目の前にイーターが一体立っているのである。それは通常のイーターではない。ハイイーターでもない。見たこともない固体。アサミが叫ぶ。

「ちくしょう!ここで出てくるのか!?」

まさか・・・。ナギサはこのミッションで初めてライフルを構えた。

『お前は行け!ここは任せろ!』

アキラがナギサに戦うことをやめさせた。とっさの判断から一転、ナギサは進路を変え再び門へと走り出した。アキラはそのイーターと対峙する格好となりライフルを乱射する。イーターは素早くかわしてアキラに攻撃を始めた。この間も、要塞からは激しい攻撃がアキラに向けられているが、これはイーターも的になっていることに変わりなく、アキラと要塞に挟まれて戦っている。

「アサミちゃん・・・あのイーターってもしかして・・・。」

俺の問いにアサミは、

「ガーディアンよ・・・。【虐殺の門】に現れるなんて聞いたことないよ!」

と、唇を震わせながら言った。A級以上に現れる最上級イーターガーディアン。ヒュウガからその存在は聞いていた。イーターやハイイーターとはまったく違うバトルスーツで、その固体には戦い方も含めて様々な個性があるらしい。固体によっては1パーティーを一体で全滅させることもできるヤツもいるとか・・・。しかしエンカウント率が低く、なかなか目にすることのないガーディアンがこの土壇場で姿を現した。アキラは左右に動きながらガーディアンに連射を続けていた。

残り約100メートルでのハプニング。いや、トラブルといった方が正確か・・・。ガーディアンの出現によりナギサとアキラは分断された。アキラはガーディアンとタイマン対決となり、ナギサは孤独な逃避行を課せられた。盾もなくその身を多くの火器放火に晒しながら、ナギサは走る。ナギサも致命傷にならない程度の被弾を何発も受けているのだ。これほどにも長い100メートルはない。しかし、ナギサは着実に門へと距離を縮めていた。残り数メートル。門は目の前だ。俺は思わず声を張り上げた。

「ナギサさん!行ける!」

だが次の瞬間、ナギサはその場に倒れた。

「膝撃たれた!」

アサミが叫ぶ。

膝撃ちされたナギサはうずくまり身をかがめる体勢になっていた。絶望的な状況、いやこれは終焉である。膝を撃たれれば当然、前進することはできない。このあとナギサは集中砲火の犠牲になる。俺は自分の胸元をグッと掴んだ。

辛い・・・。これは本当に辛く、悔しい。あと数歩ってところでのリタイア・・・。

しかしあきらめていた俺の目の前にあるディスプレイには、まだあきらめていないナギサがいた。撃たれていない方の足をグッと踏ん張り門へと飛び込んだ。

入った!?

ナギサが門を抜けた。

「うおおおおおおおおお!!!!」

俺は叫んでいた。となりからアサミが抱きついてくる。最後の最後でナギサが奇跡を起こしたのだ。これを見届けたアキラはフッと力を抜き動きを止め、ライフルを下ろした。次の瞬間、機関砲の雨がガーディアン共々アキラの体を貫通していく。頭部を失ったアキラの姿が消えた瞬間、ディスプレイには、【MISSION FAILED(ミッション失敗)】の文字が大きく表示された。

アサミが俺に抱きつきながら、

「とりあえず、やったね!」

と、笑顔で言った。俺は何度も大きく頷く。ミッション自体は失敗に終わった。しかし、この功績はでかい。

【虐殺の門】をひとりでも抜けたという実績は、今現在このゲームではハイアベレージのタイ記録の結果であるからだ。

興奮していた俺は、この結果に一気に冷静さを取り戻すこととなる。


気づいてしまったのだ。


アキラがはじめからコンプリートを目的としていなかったことが。ウィリアム・ブラザーズを招聘したのも、この兄弟だから選んだのではなく、ある程度の実力あるプレイヤーなら誰でもよかった。だからコンプリートボーナス80%の契約もして見せた。なぜならこの2人はナギサの囮でしかないのだから。ただ一点、ナギサに門を抜けさせるという目的だけで、今日のミッションは行われていたのだ。俺は優しくアサミを引き離し、腰を上げた。

「アサミちゃん、俺行くね。ミキさんも今日は夜分に押しかけてすみませんでした。」

頭を下げて、飛び出すように部屋をでた。ヴァンダルハーツが帰還してくる。ステーションはごった返しているだろうし、こんな時間に帰還した3人が集まる場所はひとつだけだ。俺は全力で走ってオンリーイエスタディへと戻った。3人を迎えるために。


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