REGIMENT -連隊-2
2
決戦当日、水曜日。その日のオンリーイエスタディは11時に早めの閉店。俺とヒカルで後片付けをし、ハルカとナギサはアキラと合流するため店を出た。トライは深夜2時からだが、新宿ステーション近くの個室のあるカフェで最終ミーティングを行う。もちろんノートPCから映像回線(テレビ電話と呼ばれていた時代もあった)をつなぎイギリスのウィリアム・ブラザーズも交える。俺は急いで仕事を終わらせ、1時には店を出て新宿ステーションへと向かった。このゲームで唯一その映像がLIVE配信される【虐殺の門】。このトライは世界中のプレイヤーの目に晒される。やはり現地で見てハルカやナギサを出迎えたかった。ステーションに着くと、アリ一匹入る余地のない混雑で溢れかえっていた。もちろんここに集まっている人間たちは皆プレイヤーであり、今日のヴァンダルハーツのトライを見に来たやつらだ。
入り口で躊躇していた俺の背中を誰かが叩く。アサミだった。
「シーナ。ここはもう満員。もし入ってもモニターみれないよ。電気街のステーションに行こう!あそこはここより広いから!」
俺は頷きアサミと共に電気街へと移動した。電気街のステーションも大勢の人間が集まっていた。
「ここもいっぱいか・・・。」
アサミが落胆の声を出す。2日前にFRONTIERの公式サイトに告知されたヴァンダルハーツのトライは瞬く間に世界中のプレイヤーへと響き渡り、この状況を作っていた。【虐殺の門】は事前エントリーが必要で、この情報は公式サイトですぐさま発信される。だから今日に限らず海外パーティーのエントリーが発表されれば、このようなステーション状況になるのだ。しかし時間がない・・・。あと20分でトライ開始だ。突然アサミが叫ぶ。
「そうだ!あそこいこう!」
俺の手を引いて走り出すアサミ。そのままタクシーに乗り込んだ。タクシーの中で端末を開いたアサミは誰かに電話をかけ始めた。
「今から行くからPC立ち上げといて!」
一方的に喋って一方的に切った感じ。そしてタクシーの運転手に叫ぶ。
「御茶ノ水まで!急いで!」
御茶ノ水!?近っ!
不機嫌そうな運転手のタクシーは御茶ノ水へと走り出した。
タクシーの中で、アサミに聞いた。
「新宿でなにしてたの?」
端末をいじりながらアサミが答える。
「今日は新宿で仕事だったから。ステーションに行ったら誰かに会えるかなって思って行ったらシーナがいた。」
「アサミちゃんって仕事なにしてるの?」
俺は思い切って聞いてみた。
「聞かないほうがいいよ。シーナまで巻き込みたくないから。」
ゾクリとする口調で話すアサミ。
「そ・・・そうなんだ・・・。なんかヤバイ系なの・・?」
俺はこの返答が精一杯だ。
「うん!」
屈託なく笑うアサミ。世の中知らないほうがいいこともある・・・うん・・・。
いや!知りたい。だって仲間じゃん!それに気になる!
「教えてよ。俺だけ知らないとかヤダよ。」
俺の言葉にアサミは、
「極東一家って知ってる?」
と、笑顔でぶつけてきた。極東一家って大きなヤクザの組織だ。頷く俺に、
「そこの一番偉い組長の愛人やってる。3番目のね。私の里親がそこの傘下の構成員で、2年前に上納金代わりに売られた。今日は新宿でコリアンマフィアからクスリ買いつけるのに付き合わされたの。契約愛人だから月にけっこうくれるの。普段は自由だけど、呼び出されたら何をしててもすぐに行かないといけないのがちょっとストレス。 これが私のシ・ゴ・ト。」
アサミが一気に決着点まで話した。俺は軽いパニックに陥っていた。
普段は笑顔で俺を癒してくれるアサミが、ヤクザの愛人をしてるなんて。しかも里親から売られて・・・!!
でもなんでヒデやダイキは助けないんだ!?仲間がこんな境遇にいるのに・・・。
「それやめれないの?」
俺の問いに、
「なんで?」
と不思議な顔をする。
「いや、だってヤクザの愛人とか・・・つらくない?」
「全然。むしろいいシゴトだよ。大金稼げて広いマンションに住めて。」
ん?なんか俺の考えと違う。
「シーナさぁ。今私のことかわいそうって思った?それは違うよ。私は恵まれてる。
本当だったら戦争孤児として肩身狭くして暮らさなくちゃいけないのに、私は贅沢な暮らしができる。今私は幸せなの。シーナが思う幸せと私が思う幸せが違うだけ。だから気にしないで。」
そういうことか・・・。俺は勘違いしていた。いや忘れていた。この国で孤児として生きていくということを。
「でもあと1年ぐらいで廃業かな。」
アサミが言う。
「なんで?」
「旦那は、あっ組長のことね。極度なロリコンだからそろそろ私はお払い箱って感じ。最近胸も少し大きくなってきたし、旦那は自然なパイパンが好きだからそろそろ脱毛も限界。最近なんか4番目の愛人の14歳にベッタリ。このシゴトができなくなったら・・・シーナの思う幸せにチャレンジしてみようかな。」
パイパン…?
アサミの旦那の性癖に卒倒しそうになったが、アサミもちゃんと将来を漠然とだけど考えている。
「うん。その時はなんでも力になるよ。」
俺の言葉にアサミは笑った。
3
タクシーが止まったのは古びたアパートの前。アサミと俺はタクシーを飛び降り、アサミの誘導で2階の一室に飛び込んだ。
「アサミ!こんな夜中になんなの!?」
こじんまりした部屋の住人がアサミを叱る。色白で長い髪が似合うメガネをかけた女だ。ロリ系のアサミとは対照的に大人の雰囲気のある綺麗な容姿をしている。
「ごめん!もうミキのとこしかなかったの。あ、こっちはわたしの友達のシーナ。前も話したでしょ?同じパーティーのメンバー。
大丈夫、組関係の子じゃないから。」
アサミは慌てながら俺を女に紹介する。頭を下げて自己紹介をし、真夜中の訪問を詫びた。
「とりあえずPCは立ち上げてあるわ。」
ミキの言葉でアサミと俺は即座に反応しPCのディスプレイの前に並んだ。アサミが公式サイトから動画を開き、ボリュームを最大限に上げる。画面にはまだWAITINGとあり、間に合ったことに安堵する。時計を見ると2時までまだ5分あった。
「シーナくんのことはアサミから聞いてるわ。私はミキ。アサミとは施設で一緒だったの。歳は私が3つ上だから姉妹みたいな感じ。」
そうか、アサミは確か中央地区の施設にいたんだっけ。そこでの仲間ってことか。
ヒュウガからアサミはレズだって聞いてたからまさかこの人が恋人かと少し勘ぐっている。
「アサミと仲良くしてくれてありがとう。こんな子だからなかなか友達ができないの。組の関係もあってみんな恐がっちゃってね。」
ミキの言葉に、
「シーナは私の本当の友達!超仲良し!ね、シーナ!」
アサミがはにかむ。この2人は恋人じゃない。直感だが間違いない。ミキの慈愛に満ちた眼差しがそう確信させた。それはまるで俺の姉を見るようだった。
「あのさ…アサミちゃんって…その…あれ…レズなの…?」
俺は思いきって聞いた。それはもう人生の中でもナンバー1の勇気を振り絞った。
「それ…ヒュウガでしょ?」
アサミは膨れっ面で言う。なんか違和感。そしてアサミが続ける。
「違うよ!私って酔っぱらうとキス魔になるの!!たまたま酔って居酒屋で知り合ったばかりの知らない女にキスしたら、たまたまヒュウガがそこに居合わせただけ…。
まぁ、けっこうガッツリなキスだったけど…。だって相手が本物のレズだったから盛り上がっちゃって。そしたらヒュウガってヒデにも言いフラかして大変だったんだよ!」
なるほど。ヒュウガの勘違いか。でもキス魔って…なんかドキドキするな。
「アサミは破天荒だから…勘違いされやすいの…。シーナくん…アサミの事を理解してあげてね。」
ミキがフォローを入れる。俺はアサミを理解しているつもりだ。例え、アサミがなんであろうと俺はアサミの味方だ。フィールド内ではアサミのバックアップをしている。それはお互いの信頼関係が成り立たせるのだ。
「アサミちゃんは、俺の中では親友のアサミちゃんだよ。もう周りの言葉に惑わされないよ。アサミちゃんの最高のバックアップになる。」
俺の言葉にアサミとミキは笑った。でも…キス魔っていいな…。今度一緒に飲みに行こうかな…。あ、俺あんまり呑めないや…。ヴァンダルハーツの決戦前に邪な俺の目線は、アサミの唇に釘付けだった。




