SLUM DOGS-5
4
「シーナ!やったね!」
帰還した俺にミオが駆け寄る。元気ハツラツのミオの笑顔が俺の緊張を一気に解き放ってくれた。
「ハラハラさせやがって!陸鳥に詰められた時は、マジでダメかと思ったぜ。」
ヒュウガの言葉に隣でシゲが頷く。ジワジワと俺の心に実感が湧く。村雨を振り抜いた時のあの感触。
「とりあえず場所を移そう。昼飯でも食いながらシーナへのダメだしだ。」
ヒュウガの言葉に一同、移動を開始し、セントラルタワーから出ると、中華街のへとむかった。
その道中、ミオと様々な会話をした。同年代というのもあって打ち解けるのにも時間はかからなかった。その屈託のない笑顔と明るい話口調に、いつの間にか俺も笑顔になっていた。
そして到着したのが裏路地にある四川楼という店。
ここがスラムドックスのいわゆる拠点だ。俺たちエンドオブザワールドのスタバのようなものだろう。
「いらっしゃい!・・・なんだお前らか。」
店の店主らしき男が落胆の顔を見せる。
「よおアツヒロ。とりあえず今日のミッションはコンプリートだ。この助っ人が大活躍だったからな。」
俺を指差してヒュウガがふざけた口調で言った。アツヒロと呼ばれたこの店の若き店主も、スラムドックスのメンバーである。
アツヒロはもともとヒュウガと同じ横浜愚連隊のメンバーであったが、パーティー解散を機にスラムドッグスへと移籍してきた。だからFRONTIER歴は長くベテランプレイヤーではあるが、ハイプレイヤー条件がクリアできずにレベルは9に留まっている。
「日曜の昼間にミッションなんて出れるわけねぇだろ!」
今日の突然の呼び出しに応えられなかったアツヒロの怒りがヒュウガに向けられる。昨年、父親を亡くしたアツヒロは店を継ぎミッション時間は制限されている。そのジレンマもあってか怒りは治まらない。
「悪かったよ!そうそうこいつがシーナだ。」
ヒュウガが空気を変えようと俺をアツヒロに紹介した。
「はじめまして、シーナです。今日は突然のミッションすみませんでした。」
俺は頭を下げながら詫びた。そもそも俺のためにヒュウガがミッションを開いてくれたのだ。俺にも責任がある。
「ああ、ヒデくんとこの新人だな。今日はどうだった?まあ話は後で聞くよ。
とりあえず腹いっぱい食っていってくれ。」
アツヒロは穏やかな表情で俺を席へと誘導してくれた。
さほど大きくないこの店は、アツヒロの他2人の従業員でまわしている。厨房でアツヒロの振る中華鍋の心地いいリズムを聞きながら、俺たちは円卓に座り反省会をはじめた。
まずヒュウガが口火をきる。
「結果的にコンプリートできてよかったが、シーナ・・・危なかったな。」
たしかに危なかった。陸鳥が迫ったときは本気でリタイアを覚悟した。
「でもフラッグを仕留めたんだから上出来よ!ね、シーナ!」
ミオのフォローが嬉しい。
俺は初めてフラッグを倒した。しかもA級でだ。
『しかし、ひとつ気になったのだがシーナのパラメーターは偏りすぎている。
レベルが2だとしても、その命中率の低さは致命的だ。』
シゲの分析はアキラからも指摘された。ヒュウガが続ける。
「ヒデなりに考えがあってのパラ振りなんだろうが、今の段階ではスピード特化にするより基礎パラ上げを重点にするべきだと思うんだがな。
それにアバターSは成長していけば嫌でもスピードが上がる。さらに特化を目指すのであればハイプレイヤーになったらSPEED STARのジョブをつければいい。」
これにミオが反論する。
「今日、シーナが私の援護をしてくれていて思ったんだけど、私にちゃんと付いてきていたよ。
スピード特化のレベル7の私にレベル2のシーナがよ。B級のエンドオブザワールドで即戦力としてミッションをこなすには、スピード特化こそが最優先なんじゃないかな?
だってエンドオブザワールドは前衛2人もスピード特化なんでしょ?この2人をバックアップするためには、シーナが遅れるわけにはいかないじゃない。」
そう、ミオが言ったこの言葉がヒデやリョウの真意である。スキッパーというポジションを与えられた俺が、B級でパーティーとして戦うには、何よりも皆に遅れをとらないスピードが重要なのだ。
アツヒロが生ビール4杯をテーブルに置いた。
「とりあえず飲んでろ。料理は客が先だ。落ち着いたら作ってやる。」
このアツヒロの言葉で、スラムドッグスが普段から料金を払っていないことが読み取れる。俺は置かれた生ビールのひとつを手にした。ビールは何度か飲んだ事があるがニガくて好きではない。いや、アルコール自体苦手だ。しかし、こんな状況だ。金も払わない連中から「コーラをくれ」なんて要求があったら、きっとアツヒロはキレるであろう。
俺はジョッキに口をつけ、舐める程度に口へ含ませ飲んでいるかのように誤魔化す作戦でいこうと決めた。特にいい飲みっぷりを見せるヒュウガとミオ。シゲはちびりちびりといった感じで一定のリズムで飲み進める。
ジョッキを一気に空けたミオは、同じく空になったヒュウガのジョッキを取り、席を立って自らビールサーバーへと向かいビールを注ぐ。2杯満タンのジョッキを持って帰ってきたミオは再びその華奢な体にアルコールを入れていく。少し頬を赤らめたミオが俺に問いかける。
「ところでシーナ。キミのニホントウだけどすごいよね!誰から習ったの?」
俺は自分の教育係であるリョウからだと答えた。ヒュウガが付け足す。
「シュウの妹だよ。」
『レイニーデイズのリーダーの妹か。ヒュウガがうちに欲しがっている女だろう?』
シゲが興味深そうに問う。
「ああ、ミオと同じくリョウは天才だ。リョウが加われば『3パーティー連隊』の大きな核となるだろう。」
ヒュウガの言葉に俺は大きな反応を露にした。
「3パーティー連隊!?」
「シーナ、3パーティー連隊のことは誰かから聞いてるな?」
俺は大きく頷く。
「このゲームの最終目標である【虐殺の門】をクリアするために今の段階で唯一考えられる方法。それが『3パーティー連隊』だ。まあ大体の奴らは不可能だと言うが、俺はそうは思っちゃいない。俺はこのスラムドッグスを作ったときから、この3パーティー連隊を目指してきたんだ。」
俺はミッションの途中で、スラムドッグスのパーティー構成から、ヒュウガは【虐殺の門】へ向かっていないと思った。
しかし、ヒュウガの口からはっきりと『【虐殺の門】』の名が聞こえた。俺はヒュウガの次の言葉を食い入るように待っていた。
「スラムドッグス自体は連隊の1パーティーに過ぎない。協力関係・・・いや協力体制にある4つのパーティーの1つなんだ。協力体制の4パーティーはほぼ同じ成長スピードで足並みを揃えている。このまま同時にS級に上がり、その中からその都度メンバーを入れ替えてトライアルに挑む。
お前も昨日見ただろう?ハイプレイヤーが次々とリタイアしてくるところを。
3つあるトライアルはすべて条件が違う。4パーティー、総勢20人のメンバーを駆使して選抜をし、ひとつずつクリアしていけば同じ時期に【虐殺の門】へ3パーティー同時にエントリーできるはずだ。もちろん時間はかかる。
いや、これまでも時間をかけてきた。S級に上がったって、まずは全員をハイプレイヤーに育てなくてはならない。
メンバー全員にジョブをつけることがまず最低条件だからな。
ただ言えることは、未だ世界中で1度もクリアされたことがない【虐殺の門】に一番近いのは俺たちA級の横浜連合だ。」
ヒュウガは一気に言い終えるとジョッキをグッと空けミオに渡した。再びミオがビールサーバーへと向かう。ヒュウガは横浜のステーションに拠点を変えたとき、様々なパーティーへとヘルプをし人脈と信頼を作ってきた。
その真意はまさにこの【虐殺の門】への執念にあったのだ。アキラやヒデとは違う路線でヒュウガは【虐殺の門】へと向かっていた。俺はジョッキを持ってグイっとビールを飲んだ。ヒュウガへの敬意だった。
「お、シーナいける口だね!」
ミオが俺のジョッキを奪い再びビールサーバーへと向かう。再び注がれたジョッキを片手に俺はヒュウガに言った。
「その時がきたら、俺にもお手伝いさせてください。お役に立てるようにもっともっと強く成長しますから。」
ヒュウガは笑みをこぼして答える。
「待ってるぜ、お前がハイプレイヤーになるのを。」
そういうとヒュウガは俺にジョッキを向けた。そのジョッキに俺は自分のジョッキをカチンと合わし、口元にビールを流し込んだ。




