SLUM DOGS-3
初めてのA級フィールドにダイブした俺は、まずその光景に驚いた。B級までのニュートラルフィールドは、人が溢れ仲間を探すこともスムーズにはいかない状況であったが、このA級は人もまばらで閑散とした雰囲気を醸し出していた。
まさに上級フィールド。ここから上に多くのプロと呼ばれるプレイヤー達が飯を食うためにミッションに挑んでいる。パーティーポイントをパーティーメンバーへのパラ振りに充て、メンバーの接続料金を払い、パーティー資産を増やし、尚且つ生活費を稼げるのが上級フィールドである。もちろんパーティーリーダーの運営能力に左右され、浪費するリーダーのパーティーならばパンク(破産)しかねない。
ここからが本当のFRONTIERの世界なのだ。
「よう、そこの帝国軍人。」
ひとりの兵士が俺に声をかけてくる。声でわかる。ヒュウガだ。
大日本帝国プレイヤーの初期装備である帝国軍服に身を纏う俺は目印になる。
ヒュウガのアバターは、まさに狙撃手。この国のプレイヤーが憧れるレイニー
デイズの最強バックアップが俺の目の前に現れた。
続いてシゲが合流した。
『おう!シーナ!!テメェ気合い入ってんだろうな!?レベル2の分際でA級にこれたんだからな!ヘマこいたら承知しねえぞ!!』
え…?シゲ?
現実世界のシゲはもっと穏やかだった気がするんだが…。
『シゲ!!シーナは俺のゲストだ。おまえこそシーナをうまくバックアップしろよ!』
ヒュウガの言葉にシゲは
『わかったよ!』
と不満そうな声を出した。突然、背後から女の声がする。
『シゲの二面性に驚いたでしょ?現実世界では言葉が話せないからわからないけど、実際のシゲはあんな感じよ。』
ミオだ。アバターMの女兵士。スラムドッグスの戦いは常にミオのアタックから始まる。
『なるべくシーナに経験値をやってくれ。』
ヒュウガの言葉にうなずく二人。
『リーダーの言うことには逆らえねえ。今日はテメェのレベル上げに付き合ってやるよ。』
シゲの皮肉にミオが口を出す。
『なに言ってんのよ。
うちのミッションに何回ヒデさんがヘルプに来てくれてると思ってんの!
どうしてもリベロが必要なミッションの時には無報酬で助けてくれるヒデさんのとこのメンバーよ。
これぐらい当然じゃない。シーナ、今日は安心してガンガン行こう!!』
そうか。ヒデがスラムドッグスに協力しているのか。
オールスナイパーのスラムドッグスで、ミッション上どうしてもリベロが必要な状況の時にはヒデがヘルプしているのだ。
みんなに助けられている…。
俺は実感した。そして失敗できない。
『よろしくお願いします!!』
俺の言葉で一同、ミッションフィールドへと向かった。
フィールドに入ると突然ハイイーターの姿に驚いた。ヒュウガからハイイーターフィールド内にも配置されているとは聞いていたが、ミッション開始直後からの襲来に焦りを見せた俺にミオが声をかける。
『落ち着いて!!ハイイーターはB級のフラッグステージで経験しているでしょ!いつも通り狙って撃てば大丈夫よ!!』
この一言で冷静さを取り戻した俺は、前衛のミオの援護をしながらハイイーターを狙い撃ちした。
『そう!いい感じ!!』
ミオの気遣いに感謝しながら、いつもアサミをバックアップするように、ミオの後方10メートルにポジショニングした。インカムからシゲの声が聞こえてくる。
『おいシーナ!!びびってんじゃねぇぞ!!イーターは俺達が狩るから、ハイイーターを重点的に狙え!!
ていうかお前、アバターSで装備にニホントウってバカじゃねえの!?
3つしか装備できない一枠にアクセサリーって…。
でも嫌いじゃないぜ!お前みたいなバカ野郎は!!』
悪態をつかれているのか誉められいるのかわからないが、たしかにアバターSでニホントウ装備はバカ野郎以外何者でもない。少ない装備枠に一般的にアクセサリーと見られているニホントウを入れてるのだ。しかし、初めてのA級ミッションであろうとリョウから授かった村雨を外す気にはならなかった。むしろこの上級フィールドで試してみたいと思った。このニホントウがアクセサリーではないことを証明したい。だからミッション前に悩んだ末、火器装備ではなくニホントウを選んだのだ。
市街戦をモチーフにしたフィールドはイーターにあふれていたが、単調な攻撃パターンに次第になれてきた。シゲがこのフィールドを提案した理由が理解できる。
ダイブしているパーティーが少ないこのR-AフィールドNO.11は前方のイーターをゆっくり時間をかけて倒していけば四人でも前進できるのだ。やはりA級のイーターはタフで手強いが、ミオとシゲのサポートと、ヒュウガのバックアップにより、ハイイーターに集中して照準を合わせることができた。
さすがA級パーティーである。個々の実力もすばらしい。俺は確実に大きな経験値を取得していた。
ミオのアタックを援護しながらミッションを進んでいく。
ミオのレベルは7。ハイプレイヤーではないが、その動きは大胆でいて無駄がない。
まるでリョウのように一気に敵との間合いを詰め、殲滅していく。ミオはFRONTIERに足を踏み入れて2年。スラムドッグスの中ではキャリアが一番短い。だがヒュウガに見出だされたその実力は本物で、スラムドッグスに正規雇用されてからその才能を開花させた。
オールスナイパーというスラムドッグスのパーティーコンセプトの中で、前衛のポジションを託されるという事はスピード重視のパラ振りを強いられる。ミオはそのアタックポジションに適合を見せ、スラムドッグスの戦闘バリエーションに変化をもたらした。それまでのスラムドッグスの戦い方は、全員で攻めて全員で守るといった横のラインを統率した布陣であったが、ミオの存在が縦のフォーメーションを可能にしたのだ。俺のエンドオブザワールドのエースがリョウならば、このスラムドッグスのエースはミオに他ならない。俺はミオの背中にリョウの幻影を見ていた。もちろん二人の戦いかたはまったく違う。しかし、このミオの才能がリョウを感じさせたのだ。左右に揺さぶりをかけるミオの姿を見て俺は思った。
この女も間違いなく天才だ…と。
『おい、シーナ!!テメェ…なかなかいい動きじゃねえか!!』
シゲの激励がインカムから響いてくる。このシゲという男もレベル9の上級プレイヤーである。常にヒュウガと動きを合わせ、前線のミオを前に押し上げていく。
このスラムドッグスはフラッグ殲滅を最重要にしているパーティーである。通常のパーティーはイーターをできるだけ倒し、個人の経験値を稼ぎながらフラッグまでたどり着くが、このスラムドッグスは雑魚は相手にしない。
とにかく全員でフラッグまで行き、全員で帰還することだけを意識した戦いに徹している。この戦略で最も大切なのが、いわゆる横の連携である。横のラインを状況に応じて変化させていくバリエーションがスラムドッグスの強さだ。多彩なバリエーションをコントロールしているのはこのシゲに他ならない。レイニーデイズ時代に前線バックアップの役を担っていたヒュウガは常に殿の位置に徹し、バックアップから前線アタックまでのライン統率はシゲの戦況判断力や分析力が優れていることを物語っている。
スキッパーとボランチを巧みに入れ替えてつくる芸術的なフォーメーションこそスラムドッグスの本来の強さなのだ。オールスナイパーというパーティーコンセプトの中で、様々な状況に適応できるゲームメイカーの存在が戦いを左右すると言っても過言ではない。
まったく質は違うが、エンドオブザワールドではダイキがこの存在と言える。俺は、3人が開けてくれたスペースにいるハイイーターをスムーズに狙い打つ事ができている。そしてこの横のラインコントロールがいかに前線アタックをバックアップできるかという事を身をもって学んでいた。
しかし、俺はひとつの疑念に襲われる。ヒュウガは【虐殺の門】を経験している。
スラムドッグスのパーティー構成では最終目標をクリアできない。なぜならスピード特化型のメンバーはミオだけ。
ミオとシゲの他に二人のメンバーがいるが、彼らも後方支援型のプレイヤーである。
なぜヒュウガはこのパーティーコンセプトを作り上げてきたのか…?
【虐殺の門】を経験したアキラはナギサというアタックプレイヤーを育て、自らはその楯となるピグマリオというジョブの鎧を磨きあげた。
ヒデも、リョウとアサミというツートップを確立し第3のアタッカーである俺にスキッパーというポジションを与えた。
それぞれが【虐殺の門】へと向かうなか、ヒュウガだけは違うフラッグに挑んでいるように思えてならない。
その答えがきっとこのミッションの先にあるに違いない。
俺は気を引きしめてアサルトライフルを構えた。




