VANDAL HEARTS -8
6
7年前。戦後、間もないこの時期に突如現れたFRONTIERは瞬く間に若者を中心にプレイヤー数を拡大していった。大学生だったアキラも、FRONTIERにハマった一人で仲間とパーティーを組みミッションに励んでいた。当時の大日本帝国には新宿ステーションだけが唯一の端末接続場であったため顔見知りが多く、パーティー間の交流が盛んに行われていた。
アキラのパーティーSKY WALKEは、C級に上がったばかりの下位パーティーであったが、まだ途上過程にあった大日本帝国では上位のパーティーとして名を上げていた。特にアキラは個人としてもプレイヤー間では知らない者はいないほどの実力を持ち、ステーションでは一目置かれる存在となっていた。
ある日、新宿ステーションでダイブしようとブースへ向かうアキラにひとりの男が声をかけてきた。
「スカイウォーカーのアキラさんだよね?」
アキラはその男を知っていた。スカイウォーカーと同じくC級に上がってきたレイニーデイズのパーティーリーダーシュウだ。
シュウもアキラと同じくステーションで知らない者はいない。当時、大日本帝国の上位パーティーと言えば、スカイウォーカーとレイニーデイズ、そしてブラックダリア、地球連邦軍、横浜愚連隊が代表格であった。
「ああ、そうだけど。レイニーデイズのリーダーさん。」
アキラはぶっきらぼうに答えた。
「今度、うちのパーティーにヘルプしてくれない?なかなかメンバー固定できなくて、頭数足らないんだよね。」
シュウは屈託なくアキラに招聘依頼を出した。まだ傭兵なんていない時代である。パーティー間の協力体勢は今より強く、協力関係にあるパーティーへのヘルプは日常茶飯事だった。だがスカイウォーカーとレイニーデイズの間にはこれまで交流はなく、むしろライバル関係にあったと言える。もちろんシュウとアキラにそんな意識はなかった。
周囲が大日本帝国の上位パーティーであるスカイウォーカーとレイニーデイズを勝手にありもしない対立関係を作りFRONTIERを楽しんでいたことが、二人の距離を作っていたのだ。
アキラは、
「ああ、いいよ。」
と軽く対応。
「ありがとう。今度プライベートページから連絡するよ。」
と笑顔でシュウは去って行った。
(おもしろそうなやつだな…。)
アキラはシュウに興味を持った。
「メンバー二人がリベロらしいぜ。」
シュウの後ろ姿を見ながらスカイウォーカーのパーティーリーダーがアキラに言った。
(なるほど…だからメンバーが固定できないんだな。)
アキラのシュウへの興味はより増した。リベロなんて二人もパーティーには必要ない。いや、むしろ二人もいたらパーティー構成が難しい。フラッグまでに必要な前衛とバックアップの人員を一枠減らさねばならないからだ。レイニーデイズの正規雇用メンバーは3人。リーダーのシュウとリベロの2人。このメンバーでどうやってC級まで上がってきたのか?アキラはシュウとの再会を楽しみにしながらブースへと向かった。
シュウとの再会は意外と早くに訪れた。翌日、アキラのプライベートページにシュウからのメールが届いたのだ。
『明日、ミッションどうかな?もちろん端末使用料はこっち持ち。コンプリートボーナス20%。返事まってますよ。』
アキラは笑みを浮かべた。
(やっぱりおもしろそうなやつだ。)
アキラはこの時期スカイウォーカーに退屈を感じていた。いや、アキラだけ浮いていたのかもしれない。他のメンバーはあくまでも趣味の範囲でプレイをしていた。学業やサークルを優先し、ミッションに出るのは週に二度ほどだ。しかもメンバー全員が揃うことなど稀でヘルプに頼る現状であった。どっぷりFRONTHERの世界にハマッていたアキラの欲求は溜まり、メンバーとの小さな衝突も現在進行中である。
(こいつなら俺の欲求を満たしてくれるかもしれない・・・)
アキラはすぐに了承の返信を送った。
翌日、約束の時間にステーションへと向かったアキラは、そこでレイニーデイズと合流。そのメンバーを見て驚いた。シュウの他にガタイのいい長身の男と、それとは逆に華奢な女。なにより驚いたのが、三人とも帝都では一番の偏差値を誇る私立高校のブレザーを着ている。
「あんたらいくつ?」
アキラの問いに、
「高三。同級生でパーティー組んだんだよ。」
とシュウが笑顔で答える。
(ひとつ下か。)
アキラは少しがっかりした。こいつらも所詮遊びかと。
「あ、あと一人ヘルプ頼んでいるからちょっと待ってくれる。あの人時間通り来たことないんだ。」
シュウの言葉でしばらく自己紹介の時間となった。ガタイのいい男はヒデと名乗り、女はハルカと言った。三人は同じ私立高校の同級生で、幼馴染らしい。
「アキラさんは?」
シュウがアキラに求める。
「ああ、俺は大学の一年だ。あんたらと一緒で兵役免除の未成年さ。あと、アキラでいい。さん付けはやめてくれ。」
と、簡単に言った。
「OK、アキラ。」
シュウは軽く了承し最近のミッションをいろいろ語りだした。
兵役免除とは、志願兵以外の未成年者への兵役を免除するというものだ。第三次世界大戦の戦況が長引き若年層の人口が減少傾向になり急遽とられた法案であった。これによってシュウらの世代は戦場に行く事を逃れることができた。
「D級のフラッグは火器系が多いから退屈だったんだよね。」
シュウが一人で話し続けるのを黙って聞くアキラ。しかし頷く点が多くあり、それを攻略した方法などアキラを大いに納得させた。
「なぜリベロが2人も必要なんだ?」
アキラがヒデとハルカを見ながら疑問をぶつけた。シュウは満面の笑みをして答える。
「うん、リベロなんてひとりいればそれで事足りる。だけど来年開放されるS級フィールドって未だ謎だらけ。様々な状況を想定してリベロを2人にしたんだ。
前線戦力はアキラのような兵を招聘すればいいけど、もしS級のフラッグに重火器対応のやつが何体も出てくる状況だったらリベロが2人ぐらいいてもいいじゃない。それにヒデはスピード重視でパラ振りしているからバックアップポジションもできる。アバターLだからってみんなフラッグ温存型の成長をさせる必要はないと思うんだ。」
アキラは体に震えを感じた。
S級だって!?
もちろん最上級ランクのS級が来年オープンすることは知っていた。しかしそんな先のプランまで考えているパーティーはこの国にはまだいないだろう。スカイウォーカーですらS級なんて意識していないし、アキラ自身もまだそこまでを現実的には考えていなかった。
(こいつらマジじゃないか・・・!?)
簡単にS級を連呼する年下のシュウに、アキラは一気に惹かれていった。
「いやぁ悪い悪い!遅れちまったな!」
ひとりの男が近寄り大声で遅刻を詫びた。
「いつものことだから慣れてるよ。ヒュウガ。」
シュウがヒュウガの肩を叩きながら笑顔で迎える。
「この人はヒュウガ。最近よくヘルプを頼んでいる横浜愚連隊のスナイパー。」
シュウがアキラにヒュウガを紹介する。
「おお、あんたスカイウォーカーのアキラだろ?今日は有名人と一緒にミッションできるって聞いたから楽しみにしてたんだ!よろしくな!」
アキラはヒュウガの顔を見て思い出した。
(横浜愚連隊か・・・たしか2ヶ月前にパーティーバトルしたやつらだ。その中に凄腕のスナイパーがいたがこいつだったか・・・。)
「さぁ、みんな揃ったし行こう!」
シュウの掛け声で一斉にブースへと向かった。
R-CフィールドNO31。C級フィールドで多くある廃墟ミッションだ。
ドイツあたりの古城だろうか、その中をひたすら進む。
『俺とアキラが前衛、ヒュウガは援護を!ヒデとハルカはその後方で後ろを警戒!』
シュウの指示で一同各ポジショニングをする。狭い空間の中でイーターを殲滅していくシュウとアキラ。ヒュウガもピンポイント狙撃でイーターらの足を止める。後方ではヒデとハルカの乱射音が響き360度に敵だらけのフィールドが廃墟ミッションの特徴だ。
(シュウ・・・やるじゃないか!!)
アキラはシュウの素早い動きと無駄のない射撃能力に感心していた。
(それにヒュウガ・・・確実に一発で仕留める狙撃能力。あれはパラメーターだけじゃない。あいつの素のスキルもある。)
ヒュウガの狙撃能力にも驚いていた。
『シュウ!後ろは殲滅した!進め!』
ヒデの声がインカムを響かせる。
(それにヒデってでかいやつ。視野が広い。後方から背中の前衛まで見えている。状況分析に長けてやがる。)
ヒデの声で一斉に前進を強めるパーティー。アキラは熱いものを胸に感じた。
(くそ・・・楽しませてくれるぜ・・・!)
フラッグへの最終関門、ガトリング部隊にさしかかりパーティーは一旦足を止めた。
『どうするシュウ?』
アキラは試すようにシュウに聞いた。
『ハルカ!』
シュウの指示でハルカがRPGを構える。
『おいおい!マジか!?』
アキラの声と同時にハルカのRPGは火を噴き、3台のガトリングは大破。シュウがアキラに言う。
『リベロが2人ってのも便利でしょ?』
アキラは心底楽しくなっていた。マニュアル通りのミッションしかしてこなかったスカイウォーカーでの戦いがまるで子供の遊びにしか思えなくなる。
『さぁ!フラッグだ!』
シュウは先頭でフラッグステージへフィールドチェンジし、それに一同続いた。
フラッグステージには、城の中庭のような広いスペースに多数のハイイーターと黒い飛行物体が見えた。フラッグは飛行系コブラ。アメリカ産の攻撃ヘリで、ベトナム戦争や湾岸戦争で活躍した。機首下に装備された20MM機関砲がこちらに向けてスタンバイしており、一歩でも動けばフラッグ戦スタートである。
『ヒュウガはコクピットを、ヒデは後部ローターを狙え!アキラとハルカは俺とハイイーター殲滅!素早いコンプリートを目指せ!』
シュウはそういうとハイイーターをバラけさせるため右方向へスピードで展開。アキラは左方向へと連射しながら進んだ。それをハルカが援護する。
(あのハルカって女もなかなかの射撃能力だ。あいつの連射でハイイーターが俺たちとの距離を詰めれないでいる!)
数々のパーティーとバトルし、ヘルプにも参加したアキラだったが、こんなにも組織的な動きのできるパーティーは初めてだった。所詮、サバイバルゲームとしか認識していないこの国のプレイヤーがさらに上を目指すに一番必要なのは、この組織的なポジショニングにあるとアキラは痛感した。
『さすがだよアキラ!その制圧力は噂以上だね!』
シュウがアキラの戦いを称えた。
『おいシュウ!お前ら本当にS級狙ってんのか!?』
アキラが連射を強めながらシュウに聞く。
『あたりまえじゃないか!アキラはS級興味ないの?』
シュウが問い返す。
『・・・お前ら気に入ったぜ!』
アキラのアサルトライフルが唸るなか大きな爆発音が響いた。コブラが旋回しながら地に堕ち爆発したのだ。
『ヒデか!?』
シュウが叫ぶ。旋回しながら堕ちるということは後部ローターへのダメージだ。
『ちくしょう!でかい経験値を逃しちまった!』
ヒュウガは悔しがっている。
ハイイーターたちも姿を消し、辺りは静寂となった。
『じゃあ、次は退路戦だ。全員で帰還するぞ!』
シュウが皆を誘導する。そこへアキラが口を開く。
『殿には俺がつく。今日はたいした働きをしていない。それに年上らしいとこを見せておかないとな。』
そこへヒュウガも加わる。
『じゃあ俺も一緒にケツを持とう。あんたと同じ歳だからな。』
シュウはコクリと頷いて退路フィールドへと向かった。
ブースで目を覚ましたアキラはリクライニング横のモニターにミッションボーナス20%獲得の文字を確認してIDカードを抜いた。ロビーに戻るとヒデとハルカが待っていた。
「さすがスカイウォーカーのアキラ。見事な誘導だったわ。わたしたちのパーティーは退路戦が弱点なの。」
ハルカがアキラを労う。リベロを2人も擁するこのパーティーは迅速な撤退が原則の退路戦では不利になることがアキラでも予想できた。
「やっぱりアキラを招聘してよかった。」
背後からシュウの声。ヒュウガと共に帰還してきた。
「アキラとヒュウガには20%ずつ報酬が入っているはずだ。また今度ヘルプするからよろしくたのむよ。」
シュウの言葉にアキラが反応する。
「ヘルプにパーティーポイント40%も払ったら、残りは60%。それだけじゃあリベロ2人も養えないだろう?」
アキラの指摘にシュウは頭を掻いた。
「まあね、正直厳しいね。」
素直な言葉だった。
「・・・俺を正規雇用しろ。」
アキラの言葉にシュウの顔が引き締まる。
「引き抜きはご法度だ。」
とシュウ。
「引き抜きじゃない。俺が自ら志願して入るんだ。」
とアキラ。
「なんで?」
とシュウ。
「俺が入ればパーティーポイントに無駄がなくなる。それに・・・S級ってやつを見たくなった。
だから俺を入れろ。使えないと判断したらすぐに解雇してもらってかまわん。」
アキラの真剣な眼差しにシュウは笑顔になった。
「OK、アキラ。うちはステーションでは孤立気味のパーティーだ。多少のご法度なんて関係ない。パーティーへの参加申請を出してくれ。すぐに承認するよ。」
アキラのレイニーデイズ参加が決まった。
7
「まあ、そういう経緯だ。」
アキラがそう締めた。俺はひとつ疑問に思ったことがある。なぜいきなりシュウのことを信用できたのだろうか?S級に行くなんて誰でも言いそうなことだ。確かにまだS級が存在しない時代だったかもしれない。だがアキラがシュウに惹かれた理由がわからなかった。
「あの時、シュウの目は本気だった。いつもはにやけたツラしてやがるが、あの時の目は今も忘れない。」
アキラは遠くを見るような目をして言った。目か・・・。なんかそれは分かる気がする。人は目で語ることがある。人を見分ける手段に目を見るということもある。ハルカが続く。
「それから何度かヒュウガにヘルプを頼んで、横浜愚連隊から正式に引き抜いた。」
酔い潰れたヒュウガを指差してヒデが口を開く。
「こいつがシュウに引き抜けって言ったんだ。横浜愚連隊は絆を大事にしていたから脱退なんてできなかった。だからバトルで勝って抜けさせたんだ。」
ハルカが少し反論。
「シュウもヒュウガが欲しいって言ってたわ。だからバトルをやってでもヒュウガを手に入れたかったのよ。」
「わかってるよ。」
ヒデが引いたことでヒュウガの面目は保たれた。
「で?こいつどうする?」
アキラがヒュウガを指差す。全員の視線が俺へと向けられた。




