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【40万PV達成❤️】絶望のFRONTIER  作者: 泉水遊馬
VANDAL HEARTS 
28/108

VANDAL HEARTS -6

それからさらに15分が過ぎても2人はまだ帰還してこない。

「苦戦しているか・・・?」

アキラのつぶやきに、

「がんばっているのよ。」

とハルカが言う。俺は携帯端末を開きFRONTIERの公式サイトに飛んだ。まだコンプリートの速報はでない。

「そういえばウィザードも明日、【デッド・タワー】に挑戦するってな。」

ヒュウガが場を解そうと口を開いた。

WIZARDウィザードとはイギリスのパーティーで、アメリカのマッド・マックスと並んで世界的に有名なパーティーだ。【虐殺の門】への挑戦4回。もちろんすべて失敗に終わっているが、前回のトライで一人を門へとくぐらせた実績がある有力パーティーだ。

「ウィザード、マッド・マックス、ロンバルディア、タスマニアデビル・・・。

世界の有力パーティーにヴァンダルハーツが割り込めば、世界の縮図がまた変化する。」

ヒデの言葉に一同頷く。大日本帝国で過去にS級パーティーとなったのは3パーティーのみ。【虐殺の門】を経験しているのはレイニーデイズただひとつだ。残りの2パーティーは自然消滅という形で姿を消した。他国に比べてS級パーティーが極端に少ない我が国は、FRONTIER後進国と言われている。

「地球連邦軍のパーティーリーダーだったツバサが、新しくパーティーを作っては解散、それを何度も繰り返していたよ。腕は落ちていないが、今はミッションにも出ていないようでステーションにも顔を出さなくなった。あいつは『時代についていけていけなかった』。」

ヒュウガが同じステーションの顔なじみであった旧友の近況を話す。地球連邦軍とは先に述べた自然消滅したS級パーティーである。FRONTIERのシステムはアップロードを繰り返し、年々進化し続ける。それに対応できなければツバサのようなハイプレイヤーをも苦しめる。こういう世界で生きていくには大日本帝国の国民性では難しい。A級やB級あたりが我が国のプレイヤーは、一番楽しめるのである。

ブースに続く廊下の奥にあるエレベーターからナギサが出てきた。その表情はいつものように喜怒哀楽を表現していない。が、近づくにつれその顔が疲弊感で溢れていることがわかった。

「どうだった。」

アキラの問いに大きく深呼吸をしたナギサが、自分が通ってきたエレベーターの方を指差す。開かれた扉からリョウも帰還。その瞬間、ロビーにあるモニターすべてが、

ヴァンダルハーツ、トライアルミッションコンプリート!

と表示された。歓声に沸くロビー。我が国のパーティーで、レイニーデイズ以来4年ぶりの【虐殺の門】への挑戦が決まったのだ。よたよた歩くリョウへ真っ先に駆け寄る俺とアサミとダイキ。ダイキと俺が両腕を支え、アサミが歓喜の声を出す。プライドの高いリョウが何もいわずに俺たちに体を預けることが、このミッションの過酷さを物語っていた。

「やりやがったな!」

ヒデがヒュウガと抱き合い喜びを露にしている。ハルカもナギサを優しく抱きしめた。

「とりあえず、場所変えるぞ。」

アキラが混乱状態にあるロビーから皆を外に出して、ステーションから少し離れたカフェへと誘導した。


「とりあえず…よくやった。」

アキラが二人を労う。疲労感を露にする二人だが笑顔で応えた。

「どうやってあの難所をこえたんだ?」

ヒュウガがリョウを見ながら聞いた。

「あのポイントの直前でナギサさんと目が合ったんです。『もう行くしかない』ってお互い確認できました。策なんてないんだから、真っ正面から突っ込んでいきました。そこから先は…実はよく覚えていないんです。」

ナギサがそれに続く。

「私も同じ。あの時の状況が記憶にないの。覚えているなら白。視界が真っ白でなにも見えない。でも体は勝手に動いて前進していることはわかった。で、気がついたらリョウちゃんとセーブポイントにいた。」

リョウか大きく頷く。

「それって…バーサーカー状態じゃないか!?シュウも昔、似たような状況になったぞ。」

ヒデが驚愕の表情でいった。俺は困った時のダイキの如く「バーサーカー状態」って何?と聞いたが、ダイキも首を傾げた。ハルカが口を開く。

「あの時…R-SフィールドNO.9でシュウがイーターに囲まれて絶体絶命の危機に直面したの。でも、シュウは突然超人的な速さでそれを脱し、殲滅してみせた。その時のことをシュウは覚えていないと言ったわ。気がついたらイーターがいなくなっていたとね。」

アキラが続く。

「その時のあいつの撃った弾が俺に当たった。完全に周りが見えていないのが明らかだった。あの超人的な動きと狂ったような乱射から、敬意と恨みを込めて狂戦士バーサーカー状態と俺達が名付けた。」

なぜ二人がシュウと同じバーサーカー状態になってしまったのだろうか?

「まぁ、とりあえずコンプリートおめでとう!!」

ヒデが深い詮索を逃れて無理やり話を進めた。たしかにこの議論は解決策が見当たらない。早めに切り上げた方が懸命だ。ふと隣を見るとダイキが端末にバーサーカー状態とメモしている。彼なりに調べるつもりだろう。たしかに興味深い話である。シュウの時や今日の二人の時のように絶体絶命の時に発動するシステム上のバグなのかもしれない。いかにもダイキが好きそうなテーマである。俺はリョウを見た。アサミに腕を組まれ笑顔で応えるリョウの姿。バーサーカー状態…リョウが心配になったが、ひとまず無事の帰還にほっとした。

「で、【虐殺の門】へのトライはいつ?」

ハルカがアキラに問う。少しの沈黙の後、

「2週間後だ。」

とアキラは静かに言った。その表情にはなにやら迷いが見える。2週間後とは大分先だなと俺は思った。明日、ウィザードがトライアルに挑みクリアすれば、【虐殺の門】への挑戦権を得る。もしラストフィールドをコンプリートされようものなら、初制覇の名誉を先越される事になる。世界中のFRONTIERプレイヤーから最大の賞賛と希望をもたらす偉業に、1日も早くトライをするのが重要なのではないか?

「パーティー構成に時間がいるな?」

ヒデの言葉にアキラが、

「ああ。本番は新しい構成で挑まなくてはならない。メンバー選定と招聘に少し時間が必要だ。」

と眉間にシワを寄せながら答えた。ヒュウガが続く。

「今日、俺とリョウの枠にスピード特化のプレイヤーを入れないとな。残念ながらリョウはまだ【虐殺の門】へは早いようだ。俺もミスキャストだ。援護ポジションは不要だからな。」

そういう事か…。【虐殺の門】は、パーティーメンバーの半分がくぐらなければならない。ナギサと他に、もう二人をアタック隊として招聘しなくてはならないから2週間程度の時間が必要になるのだ。これは極めて慎重な人選と決断が迫られる。

「海外のプレイヤーも視野にいれて厳選したい。」

アキラは自分の人脈をすべて使い招聘作業に入る。最後にアキラが、

「今日はみんなよくやった。必ず【虐殺の門】をコンプリートする。」

との強い決意でその場を締めた。

「シーナ、リョウを送ってやれ。」

ヒデの指示で俺はリョウの護衛の役となった。ダイキは大学に戻ると言いパーキングへと足早に去った。研修が忙しいとは聞いていたが、今日は無理して時間を作ったのだろう。アサミも仕事らしく駅へ走る。ていうか…アサミってなんの仕事しているのだろう?頑なに内密にされている事に、俺は聞くのが怖くなっていた。

「じゃあ、今日はハルカの店で祝勝会だな!」

ヒュウガがアキラとヒデの肩を組み無理やり進路をとった。久しぶりに昔の仲間で飲もうという意図であろう。レイニーデイズの四人とナギサを見送り、リョウと二人きりとなった。

「私は大丈夫だから、あんたもみんなと一緒に行きなさい。今夜も仕事なんでしょ。」

リョウが俺を促すが、

「いや、パーティーリーダーからミッションを言い渡されていますから。」

とリョウを誘導しながら言った。柔らかな表情になったリョウは、

「じゃあ、腕を貸しなさい。」

と俺の腕にしがみつき体重をかける。リョウの疲労は見てわかるほどであり、一人では帰せないと思っていたのが本音だ。それだけ過酷なミッションであったのだろう。俺は腕に感じるリョウの胸の膨らみを感じながら、緊張感を覚えつつ歩き出し駅へと向かった。

二人で電車に乗り並んで座ると、よほど疲れているのかリョウが俺の肩にもたれかかった。

「タフなミッションだったわ。それにしてもナギサって女は底が見えない。あんな絶望的な状況でもクールにやりこなすなんて私にはできないわ。それに闘い方も無駄な動きがない。残念ながら今のところ彼女が何枚も上。いい勉強になったわ。」

リョウが静かな声でつぶやいた。俺はリョウの話を聞きながら、今の状況にドキドキしていた。周りからはどんな関係に見られているのだろう?

リョウは美人だ。大概の男は必ず振り返る。年齢より大人びて見える容姿。まるで恋人同士のような今の状況。ある意味、心地いい時間に俺は酔いしれていた。

「あんた…他人事だと思っているでしょ?」

リョウの言葉に我に帰る。

「なにがですか?」

俺のぼやけた回答に、

「あんたもいつかはこの過酷なミッションに挑むのよ。覚悟していなさい。」

とリョウが強い口調で言う。

そうなのだ。俺達エンドオブザワールドの最終目標は言うまでもなく【虐殺の門】である。パーティーがランクを上げ、俺のレベルが上がればトライアルに挑む時がくる。他人事ではない。

「いい?必ず一緒に【虐殺の門】にいくわよ。約束忘れないでよ。」

リョウの言葉に俺は再び思い出す。正式にパーティーに入れてもらう条件を。世田谷につき、リョウの自宅前まで無事に到着。それにしても凄い豪邸だ…。

「今日はしっかり休んでくださいね。」

俺の言葉にリョウは、

「ありがと。あんたも仕事がんばってね。じゃあ、また明日ステーションで。」

と軽く手を挙げ要塞のような家に入って行った。リョウの姿が消え一人になった俺はふと思った。

いつか…きっと近い未来、リョウと一緒に【虐殺の門】に行きたい。約束とかじゃなくて…リョウと一緒にいたい。


ん?


あ…。


俺はリョウの事が好きなんだ…。


この一ヶ月半、ほぼ毎日一緒に過ごす中で、師弟を超えた感情が生まれてしまった。でも…きっとこの気持ちは成就しない。だからリョウと一緒にいるためにはレベルを上げ、パーティーに雇用され続けるしかないのだ。俺は意識を変えた。リョウを守ろう。リョウの望む事をやり遂げよう。そして必ず【虐殺の門】へ行こう…と。



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