VANDAL HEARTS -5
アキラのジョブは、PYGMALIO (ピグマリオ)。
このジョブは、ハイランダー(スピード値の上昇)やジェネラス(命中率の上昇)のように攻撃力をアップさせるものでもなければ、ドラグナー(装備重量の増加)のようなスキルに付加させるものではない。FRONTIERの各アバターサイズに4つあるジョブの中で唯一フィジカル系の能力のみを上げるものである。フィジカル系の経験値の上限がなくなるのだ。回避率やボディー強化などを無限に上昇させ、リタイア率を超人的に下げるジョブである。頭を吹き飛ばされない限り、よほどの被弾でなければリタイアする事がない無敵のボディーを手に入れられるにも関わらず、このジョブを選ぶプレイヤーは少ない。初心者のプレイヤーならば、もしかするとメリットの大きなジョブに思うかもしれない。しかしハイプレイヤーまで上がった者ならば、このジョブのデメリットが理解できるはずである。リタイア率を下げるということは、逆にリタイアできないという事になる。リタイアはしないが被弾した激痛は変わることなく、その痛みを感じたままプレイを続行しなくてはならないからだ。このジョブを選ぶ者は、強い精神力が求められる。選択を誤ると大きな後悔を招くジョブなのだ。
「シュウは完璧なリーダーだった。しかし、アキラほど完璧なプレイヤーを俺は他に知らない…。」
ヒュウガが呟く。俺は意外だった。喧嘩別れした二人は、俺が想像もつかないジレンマを抱えながら、お互いを認めつつも『別れなければならない』状況にまで追い詰められていたのかもしれない。
「アキラがピグマリオを選んだ時に、あいつの覚悟が痛いほど伝わったよ。」
ヒデの言葉が切なく聞こえた。FRONTIERとはパーティープレイを前提につくられたゲームである。どんなに傷つき激痛に身体中を侵されても、必ずセーブポイントへたどり着く…これかピグマリオの本当の姿である。しかし、これは高い理想の中で意義をなし、ピグマリオを選択したプレイヤーのほとんどは、被弾した後にミッション半ばで撤退(プラグアウトし帰還)してしまう。どんなに傷つき身体中を弾丸に貫かれても、アキラは最後までミッションを続ける。どんな状況でも退路ルートで殿を努めるのは常にアキラなのだ。
ハルカがその後の戦況を話す。
「退路で殿を私が引き受けたわ。このフィールドでリベロがセーブポイントへたどり着くにはパーティーのリスクが高い。3人を逃がし今度は私が残った。でもアキラの負傷がひどくて結局2人で追手の道をふさぐことになったわ。その作業で私はリタイア。往路よりイーターの数が多くなってるんだもの。ハイプレイヤーの身分だからね・・・恥ずかしくて人には言えない殺され方をされたわ。」
話すハルカの額にリアルダメージの後が見える。過酷・・・なんて過酷なミッションなんだ。普通のミッションならば1時間程度でコンプリートできる。しかしこのトライアルは2時間を越える時間を極限の緊張感の中で戦わなければならない。身だけではなく心まで削られながらコンプリートを目指す。
リョウ・・・大丈夫だろうか?心配だ・・・。
仲間がこんな戦場にいるという現実に、俺の心まで削れていた。
すると突然、
「ナギサとリョウはまだだな?」
と声が聞こえる。アキラだ。足を引きずりながらアキラが帰還してきた。
「アキラ!」
ヒデが駆け寄り肩を貸す。それを囲む様に俺たちもアキラに手を貸した。
「最後は膝撃ちされて動けなくなっちまった。」
アキラはベンチに座ると右膝をさする仕草を見せた。
このゲーム内でリタイアよりも屈辱といえるのが膝撃ちである。致命傷にはならないためリタイアできず、動きを止められる。この状況で、この後イーター達からどんな酷いリンチを受けるか想像できるだろう。
「俺は2人を援護しながら退路を進んだが、あえなく頭を潰されてリタイアだ。しかし2人はまだセーブポイント前にいる多数のイーターらを相手にせねばならん。キツイぞ・・・。これはキツイ。俺が最後に囮になるつもりだったが・・・あそこをたった2人で抜けるのは不可能だ・・。」
苦渋の表情を露にするアキラ。ヒュウガが続く。
「レイニーデイズの時は、俺とアキラで囮になりシュウをセーブさせることができたんだ。それでもギリギリだった。」
「大丈夫だよ・・・。」
突然アサミがつぶやく。一同の視線がアサミに集中する。
「リョウがいるんだもん!私たちのリョウが負けるわけないもん!」
この言葉に興奮状態だった俺たちは冷静さを取り戻した。ハルカがアサミの肩を抱く。
「そうよ。アサミちゃんの言う通り。リョウとナギサを信じましょう。本当は2人を引っ張らなくてはいけない元レイニーデイズが揃ってリタイア。もうゴチャゴチャ言う資格はないわ。それにあの2人ならきっとやり遂げてくれる。待ちましょう、二人の帰還を。」
アキラの表情が緩む。
「ああ、待とう。」
と一言呟きベンチに腰掛けた。




