UNDEAD -アンデッド--3
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「真琴。元気?がんばってる?」
姉の言葉にうまく反応できない俺のかわりにハルカが答える。
「この子、がんばってるよ。すごくね。」
ハルカと姉は1度だけ面識がある。里親制度執行日に姉がハルカに挨拶をしに施設に来たのだ。俺はそれ以来、姉には連絡をしていない。
「今日は・・・どうしたの?」
俺は戸惑いながら聞いた。
「真琴の顔が見たくなったから・・・。ごめんね。急に。」
姉は静かに言った。
「ちょっと買出し行ってくるから。」
と、ハルカが気を利かせて店を出た。俺はカウンターに周り姉と向かい合った。
「ご飯ちゃんと食べてる?」
7才上の姉は昔から心配性だった。そしていつも俺のことを見守ってくれていた。
「うん。ここの一階の中華料理店と、この店がまかない契約しているから食べるには苦労しないよ。」
姉は俺の言葉に安堵の表情を見せた。両親を亡くして姉が母のような存在になった。その姉と疎遠になったのは姉の性格に原因があった。看護士として立派な職業に就いている姉だが、何かに依存しなければ生きていけない性格を持っている。幼い時は俺がいた。だから俺を母の代わりに育てることで、その性格は落ち着いていた。しかし、施設を出た姉は、厳しい社会の中で男に依存し溺れていった。退役者で、働きもせず姉に手を上げるろくでもない男。だが姉は、こんな男を食わし養っている。姉がこの男に酷いドメスティック・バイオレンスを受けたとき、俺は男に飛び掛った。結果、半殺しにあった俺を、姉は一瞥しただけで男に媚び謝っていた。その時から俺は姉との距離をとり始めた。
「真琴・・・。私のこと軽蔑しているでしょ?」
突然、姉が静かに呟いた。俺はハッと息を飲んだ。
「ごめんね真琴。こんなんじゃ嫌われてもしょうがないよね・・・。」
姉の独白に言葉が出ない。違う!軽蔑なんてしてない!嫌いじゃない!心の中で叫んでいるが伝える言葉が思いつかない。
「あの男とは、まだ一緒なの?」
やっと出てきた言葉がこれだった。姉は静かに首を横に振る。
俺は精一杯の答えを言った。
「また姉さんと一緒に暮らしたい。今はまだガキだけど…。俺が自立できるまで待ってて・・・。」
素直な気持ちだった。姉は涙を浮かべて頷いた。俺は姉と近いうちにまた会う約束をして表通りまで見送った。人混みに消えるその背中を見ながら、深いため息をついた。男に捨てられ依存対象物をなくした姉。きっと俺の大好きな姉には戻らない。また新しい依存対象物を探すのだろう。今日は少し寄り道で俺に会いに来ただけだ。でも俺と姉は似ている。孤独なのだ。姉は孤独の中、精一杯生きている。
自分の居場所を探すために二人とも別々だけど生きていかなくてはいけないんだ。
「姉さん・・・大好きだよ・・・。」
俺はすでに見えなくなった姉の背中に呟いた。




