帝国最強の女-7
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フラッグステージをコンプリートした俺たちは、新たに出現した退路フィールドへの出口を進み、数体のイーターを倒してセーブポイントへと帰ってきた。はじめてのミッションフィールドで興奮していた俺は、ブースで目覚めた時、まだ体が震えていた。ステーションのロビーに戻ると、ハルカが俺を出迎えてくれた。
「お疲れ様。いいミッションだったわ。」
ハルカの言葉に俺は安堵感を隠せず肩の力がフッと抜けた。
「ありがとうございました。いい経験になりました。」
素直な気持ちだった。俺の言葉にハルカは、
「所詮ゲームよ。楽しみなさい。でなきゃ、リョウのようになってしまうわ。」
と、少し寂しく言った。その言葉に違和感を覚えた俺の後頭部に突然痛みが走る。帰還したリョウの平手打ちだった。
「あんた、バカじゃないの!!フラッグステージで勝手に前に出て…!ヒデが援護しなかったら蜂の巣にされていたわよ!!だいたいあんたは…」
リョウの叱咤が浴びせられているが、覚悟のうえだ。ハルカがたしなめてくれているがリョウのお説教は続いている。俺はリョウの罵詈雑言を聞き流しながら、ヒデとダイキの帰りを待っていた。しばらくするとヒデとダイキがキャッシャーの方から歩いてきた。
「お待たせ。精算もすませたし、とりあえずスタバにでもいくか。」
ヒデの言葉に、
「私はもう戻るわ。開店の準備もあるし。今夜は私の店に来てよね。それが今日のミッションのご褒美。」
ハルカが笑顔ではにかんだ。
「わかっているよ。だから今日のミッションポイントは多めに現金にしてきたよ。」
ヒデが苦笑いで言うと、ダイキが横で嬉しそうな顔を見せている。
「じゃあ新人くんも後でね。」
ハルカが軽く手を挙げてステーションを後にすると、俺たちもスタバへと場所を移した。
「まず、今日はお疲れ様。」
スタバに到着してコーヒーを啜りながら今日のミッションの反省会が始まった。
「シーナ、はじめてのミッションとフラッグステージにしては凄くよかったよ!!」
ダイキが俺に労いの言葉をくれた。しかし、その直後にリョウが声を荒げた。
「冗談じゃないわ!だいたいB級フラッグにレベル1のフォワードを連れていくこと事態間違っているのよ!」
かなり怒っている。それにヒデが割って入る。
「まぁ落ち着けよリョウ。今回はシーナにフラッグを見せておきたかったんだよ。それにフラッグ戦の予備知識や戦い方を教えておかなかった俺の責任だし、ハルカもいたから、安心して自由に戦わせられた。これも経験だよ。リョウだってはじめてのフラッグ戦はパニクってたじゃないか。」
ヒデの言葉にリョウは黙った。リョウがパニクる!?なんだか俺の顔が緩む。
「なに笑ってるのよ!!」
リョウの叫びも可愛く思えた。
「シーナ、今日経験してみてある程度理解したかもしれないが、フラッグ戦はフィールド戦とは違う戦い方があるんだよ。パーティーでのポジショニングも重要だ。今日のように1人で突っ込んでいく戦い方はダメだってことはわかったな?」
ヒデの問いに俺は頷く。たしかにフラッグ戦の途中で俺がハイイーターの的になる状況があった。これはフラッグとハイイーターの関係に理由がある。ヒデに代わってダイキが俺に、フラッグ戦の特性を教えてくれた。
フラッグ戦の鉄則は、リベロを守る事が前提である。リベロを温存しながらハイイーターを倒して経験値を稼ぐ。だからリベロは、一番遠い場所で待機する。ハイイーターをある程度倒すまではリベロの出番はないのだ。だが今回のフィールドのフラッグはあまり動かないため自分たちの間合いで戦えたが、フラッグによってはリベロの周りを固めるポジショニングも必要になってくる。状況に応じた組織的な動きが要求されるのがフラッグ戦である。基本的にハイイーターはリベロを狙った攻撃を行ってくる。しかし一定のテリトリーを越えてくるプレイヤーには標準を変えてくる。俺が的になった理由はこれだ。この絶妙な間合いを測るのもフラッグ戦を制する技術のひとつである。これは経験を積む他にスキルアップはない。場数を踏んでいくことによって感覚で覚えていく戦い方なのだ。だが今回のミッションは俺の無知な行動が逆にハイイーターを引き付けることになり、リョウとダイキのアタックをスムーズに行える結果となった。もちろん俺を狙うハイイーターをヒデが確実に狙撃してくれた事が、リタイアせずにすんだのも忘れてはならない。とにかく経験を積む事の大切さを知ったミッションであった。さまざまなダメ出しをリョウから浴びせられた反省会は、ヒデのフォローで幕を閉じた。
「そろそろ行くか。」
ヒデの合図で一同席をたち、リョウは
「じゃあ。」
といい放ちスタバを後にした。
「やっぱりリョウは行かないか。」
ヒデが笑いながらそれを見送る。残された男三人はダイキの車に乗り込み、帝都一の繁華街である歌舞伎町へと向かった。
「ハルカにヘルプを頼むといつも高くつく。」
ヒデの言葉にダイキが、
「たまにはいいじゃない。」
と、嬉しそうに言う。
「シーナは時間を見て帰れよ。でなきゃオールナイトになっちまう。」
ヒデが俺に気づかいの言葉を言った。
「ハイ」
と返事をした俺だが、実は舞い上がっていた。歌舞伎町なんて初体験だ。普通の居酒屋からさまざまなマニアックプレイができる風俗店が集まる日本を代表する歓楽街。俺のようなガキンチョには怖いイメージしかない。しかし1人なら不安だが、ヒデやダイキも一緒だし、ハルカの店に行くわけだから、危ない目にあうことはないだろう。パーキングに車を入れ、大勢の人々が行き交うキラびやかな街を歩きながら、ヘタレのくせに好奇心だけは旺盛な俺は二人の後ろを心踊らせながら歩いていた。




