帝国最強の女-6
『はい、みんなお疲れ様。やっと出番ね。』
インカムからハルカの声が聞こえて振り向くと、ジャングルから姿を現し俺達と合流した。
「めんどうな役目で悪かったな。」
ヒデがハルカに詫びる。
めんどうな役目?
俺は意味がわからず佇んでいたが、次のリョウの言葉でさらに戸惑った。
「で?誰が抜ける?もちろんシーナよね?」
これは非常に重要な事であった。フラッグステージに入れば後戻りができない。フラッグをクリアするか全員リタイアする以外ミッションを終えれないのだ。フラッグ戦で弾を消費し、状況によってはリタイア者を出した後にセーブポイントへと戻らなくてはならない。そこで一人退路確保と言う役割が必要となってくる。他のメンバーがフラッグステージへと入った後に、退路ルートであらかじめ余計なイーターを排除しておきスムーズにセーブポイントへと誘導する重要な仕事である。退路ルートはここまで来た往路とは別に復路が存在し、フラッグステージをクリアしたパーティーはその退路側の出口から帰ってくる。だから退路確保者はこの場でパーティーと別れ横道をそれて退路ルートへフィールドチェンジする必要がある。リョウが言った『誰が抜ける』かとは『誰が残る』のかと言う意味なのである。
ミッション中にリタイア者を出した場合、残ったメンバー全員でフラッグステージへ進む選択もあるが、本来退路確保の任務はフォワード(アバターサイズS)が行う。言い換えるならフォワードの役目はここで終了なのだ。フラッグステージで重要なのは征圧力で、重火器を操れるアバターサイズLのリベロとMのスナイパーである。傭兵を雇っていた場合も退路確保に回されるのは確実で、一番危険な前線アタックを散々やらされた末にフラッグへは行けないジレンマがフォワードにはあるのだ。
「今回は全員でフラッグステージへ入る。シーナも経験しておけ。」
ヒデが皆に告げる。
「ちょっとヒデ…。いくらなんでも甘すぎるわ。」
リョウが不満げに言う。なだめるようにハルカがリョウに、
「大丈夫でしょ。ハイプレイヤーが二人もいるのよ。B級フラッグぐらいで退路戦力を失う事もないわ。」
と。ハルカの言葉にリョウの反論はない。
「よし、シーナ行こう!」
ダイキが俺に歩み寄り肩を叩いた。
リョウが、
「あんたはハルカさんとヒデの後ろにいなさい。チョロチョロ邪魔しないでよ。」
と、釘を刺す。
「さぁ、気を引き締めろ。」
ヒデの声と共に、俺達はフラッグステージへとフィールドチェンジした。
5
フラッグステージへ入った瞬間、リョウとダイキがすぐさま前進を始めた。俺はリョウから言われた通りヒデの後ろについていた。辺りはジャングルに囲まれた広いスペースで前方には黒い戦車が見える。それを囲むように数人のイーターが銃を構え、すでにこちらに連射を開始していた。
『シーナ。フラッグ(戦車)を護衛しているのがハイイーターだ。しぶとくて強敵だかその分経験値が高い。フラッグはリベロの役目だが、あれはお前でも倒せる。行くか?』
ヒデのインカムからの声に俺は躊躇なく前進を始めた。しかしリョウの後ろについた時、ダイキ側に行かなかった事を後悔した。リョウから激しい叱責を受ける事が明らかだからだ。
『ったく…チョロチョロするなと言ったのに…』
やはりリョウのストレスがインカムから聞こえてきた。だがここまで来たら引き返せない。俺はハイイーターに照準を合わせた。
『ハイイーターを全滅後にフラッグにアタックする!』
ヒデの指令にリョウが一気にハイイーターへと飛び掛かり、ダイキが連射を開始した。
このフラッグ戦では、迅速にハイイーターを全滅させる事が重要になる。長期戦となれば状況不利は明らかで、リベロを失う状況や所持弾切れなどのケースに陥る事に繋がる。もちろんハイイーターを無視し、リベロの重火器の一発で終わる事も可能ではある。だがハイイーターを無視できない幾つかの理由が存在する。最大の理由ははフラッグステージ内のハイイーター撃墜時の取得経験値が異常に高いという点。
通常のイーターの三倍のポイントが手に入るのだ。レベルアップを迅速に行う為には各ステージでのハイイーターは絶対に無視できない存在なのである。
フラッグを先に倒してしまった場合、ハイイーターは撤退して消えてしまう。だから『まずハイイーターを倒す』という事がセオリーなのだ。
ハイイーターを倒して高いポイントを手にする事がパーティー全体のレベルアップを生むため、スナイパーに討伐させる選択を選ばざるをえないのである。
『シーナ!!とにかくハイイーターを狙って撃ちまくれ!!』
ダイキの声がインカムから聞こえてきた。俺は右側から回り込むように移動をしながら連射を開始した。リョウとダイキは、確実にハイイーターを撃ち倒していく。対するハイイーターは、ハルカへの集中攻撃に徹していた。しかし俺の弾がハイイーターを一体倒した瞬間、数体のハイイーターが銃口を俺へと向けた。
『バカ!!前に出すぎ!!とにかく動いて逃げなさい!!』
リョウの怒号がインカムから聞こえた次の瞬間、俺に対してハイイーターの攻撃が始まった。
『シーナの援護は俺がする!!二人はそのままアタックだ!!』
ヒデの指示でリョウとダイキはジワジワ前進を続ける。俺は必死に逃げながら連射をハイイーターに向けた。ある程度距離をとると、ハイイーターの攻撃が弱まり、戦況を広い視野で見る事ができた。ハルカは一番遠い場所で攻撃をかわしながら最後のタイミングを待っていた。ヒデは一体一体を確実に狙撃して数を減らしている。リョウとダイキも両翼に広がり、なれたようにハイイーターを倒していく。俺はもう一度アサルトライフルを構え、ハイイーターへ攻撃を再開した。
距離を保ちながらハイイーターへの攻撃を続ける俺は、7体を撃ち倒した。ハイイーターはフラッグから離れない。言い換えれば、こちらの間合いで戦える事がわかった。フラッグも大きな主砲で撃ち込んでくるが、戦車の軌道は分かりやすく動きながら回避できる。
『そろそろだな。ハルカ頼む!!』
ヒデの声にハルカがジャベリンを構える。それは激しい爆音を発して火花を吹いた。あまりにもあっけなくフラッグは大爆発とともに消えた。同時に残っていたハイイーターも姿を消し、不思議なほど静かな空間がそこに残った。
『まぁ、B級フラッグならこんなものね。』
ハルカの言葉で戦いの終わりを実感した俺は銃を下ろし深く息を吐き出した。
『あんた、勝手に前に出て…』
リョウの怒りがインカムから聞こえてきた。もちろん俺に対してだ。だけど…俺は…楽しかった!!スリリングで、なんて爽快な気分なんだろう。きっと帰還後にリョウにからメチャメチャ怒られるだろう。でもいいんだ…。俺は今まで感じた事のない達成感に体が震えていた。




