帝国最強の女-4
三人でステーションに入り、いつもの待ち合わせ場所である喫煙室の前に行った。リョウは先に来ていたようで、艶っぽい大人の女と談笑していた。
「ハルカさん…!?」
ダイキが驚いたように呟いた。二人はこちらに気づいたようで女が手を振る。
「悪かったな、突然呼び出して。」
ヒデがその女に詫びる。
「いいわよ、久しぶりにリョウと話したかったから。ダイキもご無沙汰ね。」
女は笑顔で答えた。ハルカと呼ばれた女。伝説のパーティーレイニーデイズの一員、リベロのハルカである。
大日本帝国の女性プレイヤーの頂点に位置する最強の女。現実の彼女は俺より少し小さな身長と華奢な印象。ヒデと同年代にしては大分若く見える。
「今日、アサミのピンチヒッターをハルカに頼んだんだよ。」
ヒデの言葉の後にダイキが凄い笑顔になった。
「うわ~。ハルカさんとミッションなんて久しぶりですね!今日も勉強させてもらいますよ!」
ダイキの弾けた声に笑顔で応えたハルカは次に俺に視線を合わせた。
「あなたが新人くんね。あら、かわいい顔してるじゃない。だいぶリョウに気に入られてるみたいよ~。」
屈託なく言うハルカの言葉にリョウが真っ赤な顔をして反論した。
「ハルカさん!!何言ってるんですか!?こんな奴使えないって言ったんです!!」
「あらムキになって。あんた昔から本当にわかりやすい性格。凄く可愛いわよ。」
ハルカに軽くあしらわれるリョウを見て、俺は少し胸がすかっとした。
「ハルカ、今日の報酬だがミッション・コンプリート時に25%でいいか?」
ヒデがハルカに聞いた。今日のハルカは外部枠になるため傭兵と同じく契約によりミッションに参加する。少し考えたハルカは、
「報酬設定は無しでいいわ。ミッション後に個人的にご褒美を貰うから。」
と、はにかみながら言った。それを聞いたヒデはため息をはきながら了解し、呆れ顔のリョウのその横でダイキが笑顔で頷いていた。よく状況が読めない俺だったが、なんだか居心地の良さを感じている自分に気づいた。誰かと仲間なんて空気を感じることなく今まで生きてきた俺は、その空気の輪にいる事が気持ち良く、自分がこのFRONTIERの世界に入った選択に間違いがなかったと確信できた。
「よし、じゃあ行こう。」
ヒデの掛け声に続くパーティーの中にいる俺と言う存在。このままずっとここにいたい…。ノルマのレベル3に向かって、俺は気を引き締めブースに向かった。
『みんなダイブしたか?いつもの場所で落ち合おう。ハルカ、中央広場はわかるな?シーナ、とにかく道なりに進め。』
インカムからヒデの声が聞こえてきた。俺は言われた通りまっすぐ道なりに進む。まるで大昔のウェスタン映画の舞台のような町並み。しばらく進むと広めの空間が現れ、そこに多くの人だかりが見えた。ここが中央広場と確信した俺は、仲間達を探した。
広場に入った俺は、ハルカを見つけた。それがハルカと確認した訳じゃない。だがハルカに間違いないと確信していた。そしてこの人だかりはハルカが作ったものであり、30人程の人だかりは全てハルカに視線を送っている。ハルカのその姿は、当たり前だが現実世界とはまったく掛け離れた大きな体。アイアンスーツの重装備に全身を包み、一際目立つのは背中から空に向かって伸びる長く太い筒。いわゆるバズーカと呼ばれる重火器が明らかに異彩を放っていた。俺は自分の肩に手をやり、コマンドを出しパーティーステイタスを選択した。
HARUKA
レベル11 HIGH PLAYER
【JOB】GRANDIA
アバターサイズL
装備1:FAL T48
装備2:モスバーグM500
装備3:SRS99D
装備4:FGM-148
グランディアは発動型のジョブで、ミッションフィールドのオールマッピングが付加されていて、全てのフィールドの地理地形、設置された敵の兵器などを掌握できる能力である。司令塔に向いたジョブであり、ヒデのヴァースのような能力上昇型よりパーティープレイに必要な戦略的属性を強く持っている。
アバターLのジョブは、VERSE能力上昇型、スピードの限界能力が上がり、アバターLでありがら前線での戦いが可能になる攻撃系ジョブ。
GRANDIA発動型、すべてのミッションフィールドの地理地形や敵戦力などの情報が把握できる戦略系ジョブ。
CORNELIUS能力上昇型、スピード、命中率、クリティカル率、フィジカル系など、パラメーター上限が平均的にアップする。
ALFONS戦力強化型、アバターLの装備武器数は4つだが、ひとつ追加し5つにできる。
以上の4つである。
「あんな大きなジャベリン(FGM-148)を背負ってたら、さすがに目立つわね。」
俺の背後からリョウの声が聞こえた。ジャベリンとは対戦車ミサイルの事で、携帯型重火器の中では格段に大きい。そしてジャベリンはアバターLのハイプレイヤーにしか装備できない制限アイテムでもある。
振り向いた俺にリョウは、
「とりあえず行きましょう。」
と促し、ハルカの元へ移動した。五人集まりミッションフィールドへと移動を始めたが、やはりハルカは目立つ
ハイプレイヤーのリベロを二人も要する俺達パーティーは、R-BフィールドNO26に入った。けたたましい乱射音が鳴り響き、すでにダイブしている他のパーティーが戦闘を開始していた。本来、俺のようなレベル1のプレイヤーがダイブしてはならないB級フィールド。イーター(敵)も強い。緊張感が増してくる。
「わたしたち以外に5パーティーってとこね。」
ハルカがジョブ能力のフィールド情報をインカム越しに伝える。距離は近いのだが辺りの乱射音で声が聞こえないからインカムが役に立つ。
同じフィールドに複数のパーティーがいる時に気をつけなければならない事は、流れ弾に当たらない事。
故意や事故に問わず、被弾した時点でリタイアだ。
「ちょっと待って…コリアンのパーティーが混じってる。やっかいね。」
ハルカの声にヒデが、
「大丈夫だろう。行こう。」
と答えた。
E~C級フィールドは各国のカントリー・サーバーでダイブするため、海外のパーティーと一緒になることはないが、B級フィールドからインターナショナル・サーバーになり、海外のパーティーと同じフィールドで戦う事になる。この際、問題となるのが民族の文化の壁である。特にコリアン(大韓民国)のプレイヤーは世界中から敬遠されがちで、ダイブしたフィールドにコリアンのパーティーが存在していたらミッションフィールドを変更する選択もよく見られる。いわゆるプレイヤーキルをまるでオフィシャルの如く行い、フィールド内にいる自分達パーティー以外はすべて敵だと見る傾向がある。このFRONTIER内で暗黙のルールが多数存在していて、例えば『狭い路地戦では先にダイブしていたパーティーに道を譲る』、『後方のパーティーは前方のパーティーが前進してフィールドチェンジするまで待機する』などのマナーとモラルがコリアンプレイヤーにはない。この概念がないのだからトラブルが後を絶たない。だから敬遠して回避するしかないのだ。FRONTIERとは基本的に自由であり制限が少ない。この自由さがいわゆるコリアントラブルの原因になっている。
FRONTIERで決められているフィールド内での事項は、パーティーの人数の上限、アバターサイズによる武器規制だけである。パーティーの人数の上限が5人という事だけで一人でも二人でもパーティーとして成立するし、パーティープレイを前提とされているがパーティーに所属しなくてもプレイできる。ミッション・コンプリートを目的にゲームを進めるのがオフィシャルではあるが、ミッションに参加しなくてもオープンフィールドで楽しむ事が可能。そしてこのゲームは禁止という事項がない。だからペナルティーの類が一切ないのだ。システム内での行動がプレイヤーの意思で自由に行えるのである。だからこそ暗黙のルールが存在してくる。まさに現実世界と同じ人間と人間の関係が生まれるのだ。自由性が上がる事で人間の本質が浮き彫りになる。ここに人種の特性がはっきりと出てくる。コリアンの大きな特徴である『世界で最も優れた民族』という勘違いを引き起こす結果となった。だがこれはコリアンの性質に問題があるのではなく、FRONTIER運営側のはっきりとした悪意が見える。このようなトラブルもすべて『想定内』であるに違いないのだ。
あえて禁止事項を無くす事でプレイヤー間でタブーを作らせ秩序を成立させる。これをオフィシャルではない任意のルールとして規準のラインを引き違反者を煽るのだ。例を挙げるなら、『プレイヤーキル』と言うタブーを犯してもペナルティーは発生しない。むしろ相手の経験値をすべて奪う事ができる。『プレイヤーキルをしない者』はモラルに従順するかわりにミッションに支障が生じるケースもある。ゲームと言う概念で言えば前者がこの仮想空間での生き方に向いていると言える。禁止されていないプレイヤーキルはオフィシャルであると考えるコリアンはFRONTIER内では正しいのである。まさにFRONTIER運営サイドの意図はここにあると考える。様々な人種が武器を持ち『本来の性質』で集わせる事により、第三次世界大戦の縮図を再現させているのだ。




