帝国最強の女-3
朝早く携帯端末のけたたましい機械音が鳴り響く。ベッドから飛び起きた俺は急いでその音を消した。昨夜はもらったばかりの携帯端末で夜遅くまで遊んでいた。あらかじめ聞いていたパーティーメンバーの端末にもメールで連絡先を送ったりして携帯端末を堪能していた。眠たい目を擦りながら端末の画面を見る。ダイキからのメールであった。
『迎えにいくよ。あと30分ぐらいでつく。準備しておいてくれ』
ダイキは優しい。つくづくそう思う。準備が完了した俺は施設を出て、表通りでダイキを待つ事にした。
しばらくしてダイキが車で現れ、合流。
「シーナ。リョウとはうまくいってるか?」
「それなりには……」
「リョウは絶対的に自分を信じている人種だ。だから他人の価値観を受け入れられない。シーナも自分を信じて諦めずにがんばれよ」
俺は前から疑問に思っていた事がある。リョウとダイキの折り合いの悪さだ。事あるごとに二人は衝突する。絶対に折り合うことなく最後はヒデが決断を下しそれに従うという展開がいつもだ。戦場ではリョウを後方からサポートしているダイキ。二人の間にはある程度の信頼関係はあるに違いない。
「ダイキさんはリョウさんと仲悪いんですか?」
俺は思い切って聞いてみた。
「仲が悪いわけじゃないんだ。きっとリョウにとって僕だけじゃなく誰にも負けたくないんだよ。たまたま近くに僕がいるから、対象が僕なんだ。リョウは聖サイモンだろ。僕は帝都大。国立ってだけで帝都が上に見られるけど、聖サイモンもかなりの秀才学校なんだよ。ただのお嬢様学校じゃない。エスカレーター方式って言っても進学するたびに振るいにかけられる競争率の激しい学校なんだ。リョウはすごく努力しているよ。だけど聖サイモンのイメージがお金持ちのお嬢様が通う学校ってしか印象を残さないんだ。たしかにリョウの家は老舗の不動産業で、都心にも大きな物件を抱える大企業だ。帝都不動産って聞いた事あるだろ?大企業だ。おそらく将来的にはリョウの婿さんがあの企業を継ぐんだろう。リョウには一人兄貴がいるんだけど、アンデッドしてしまって今は病院で寝たきりだ。だからリョウは周りに認めてもらうために必死なんだ。そしてリョウには勉学もFRONTIERも才能がある。もしかするとリョウ自身が企業を継ぐかもしれないな。」
帝都不動産って…すごい企業じゃないか…。俺はそこの娘と毎日一緒にいるのか…。
「でもダイキさんもリョウさんとFRONTIERでは同じレベルだし、やっぱり帝都大学はすごいですよ。」
俺はお世辞でもなく素直に言った。
「いや、FRONTIERの中のリョウは別格なんだ。リョウは僕より一年後にFRONTIERを始めていて同じレベルだからね。それにアバターのパラメーターはあくまでも動ける上限にすぎない。だけどリョウは常にパラメーター通りの動きができる。いや、パラメーターの数値を自由自在に使いこなせるって言った方が正確かもしれない。これは凄い事なんだ。現実世界での鍛練もある。元々剣道有段者だから剣術に長けているのも大きいな。
大日本帝国で唯一のS級パーティー『VANDAL HEARTS』から声がかかるぐらいさ。元々はヴァンダルハーツのパーティーリーダーのアキラさんとリョウの兄貴、そしてヒデはRAINY DAYS (レイニーデイズ)の一員でね、四年前に解散するまで一緒にミッションを行っていたんだ。大日本帝国で初めてR-SフィールドNO1に挑んだ伝説のパーティーだ。その時のミッションでリョウの兄貴はアンデッドしちまったんだけどね…」
と、ダイキは一気に話した。
レイニーデイズについては俺も施設にあるパソコンで調べた。戦歴から見てもまさに伝説のパーティーである。FRONTIER草々の時代に生まれたレイニーデイズは、結成わずか三年でS級まで駆け上がった。フルメンバーで全員がハイプレイヤー。
パーティーリーダーのシュウを中心とした完璧な作戦で、次々とミッションをコンプリートしていくレイニーデイズは世界的にも名を挙げて大日本帝国を代表するパーティーになっていった。
メンバーはリョウの兄であるパーティーリーダー
シュウ アバターサイズMレベル11
ジョブHIGHLANDER
現S級パーティーVANDAL HEARTSパーティーリーダー
アキラ アバターサイズMレベル11
ジョブPYGMALIO (ピグマリオ)
現在A級パーティーであるSLUM DOGSパーティーリーダー
ヒュウガ アバターサイズMレベル11
ジョブGENEROUS
紅一点で現ヴァンダルハーツのリベロ
ハルカ アバターサイズLレベル11
ジョブGRANDIA
現B級パーティーエンドオブザワールドパーティーリーダー
ヒデ アバターサイズLレベル11
ジョブVERSE
アンデッドしたシュウ以外は今もFRONTIERで戦い続けている。
ダイキの話によれば、失敗に終わったR-SフィールドNO1に挑戦した四年前のミッションで、シュウがアンデッドした後パーティーは空中分裂を始めた。全員がハイプレイヤーという実力者揃いのパーティーは、シュウと言うカリスマで繋がれていたのだ。リベロを同時に二人もハイプレイヤーに育て養うことができたのもシュウのパーティー運営力を物語っている。
ダイキが話を続ける。
「エンドオブザワールドを結成したはじめの一年は本当に遊びだったよ。でもリョウが入ってからヒデが本格的にパーティー運営を始めたんだ。リョウとヒデには共通の目的があってね。『R-SフィールドNO1へシュウを迎えに行く』。あの二人はこの一点にまっすぐ向かっているんだ。」
リョウの執念とも言うべきR-SフィールドNO1への想いはここにあったのだ。だが俺にひとつの疑問が浮かぶ。
迎えに行くって…?
R-SフィールドNO1でアンデッドしたシュウは、意識を取り戻さないままホスピスのベッドで四年も眠り続けている。もちろんプラグアウトした状態でだ。ダイキに聞くと、
「僕も同じ疑問にぶつかったよ。リョウ曰く『今もシュウは戦い続けている』らしい。しかしその根拠はあってね、ベッドで寝ているシュウの体に時々青いアザが出るらしいんだ。これはリアルダメージの症状ではないかってね。もちろんR-SフィールドNO1でアンデッドしたシュウを目撃した人はいないだろう。R-SフィールドNO1はフラッグのみのステージで、通称【虐殺の門】の先にシュウは今もいるとリョウは考えているらしい。」
と半信半疑な顔で答えた。
ダイキと様々な話をしながら車はあっという間に電気街へと到着。少し早く到着した為、二人で駅前の牛丼屋に入った。
「貧乏学生だからこんなもんしかおごれないけど。」
とダイキが俺の分も払ってくれた。俺は、いつもダイキの優しさが本当に嬉しい。世間から忌み嫌われる存在である戦争遺児同士の連帯感がそこにあった。施設で一緒だったやつらとはこんな関係を築けなかったのに、ダイキとは本当の兄弟のような錯覚に陥ってしまう。
俺はふと姉を思い出した。俺を慈しみ育ててくれた姉。弟のひいき目でもあるが、姉は綺麗な女だ。美人で評判だった姉だが、あるとき付き合っている男に顔の形が変わるぐらい殴られた。それを知った俺は怒りのままその男に飛び掛かった。結果、俺も半殺しにされ玉砕となった。姉は今もその男と一緒にいる。仕事もしていないろくでなしの男を食わしている。『私がいないとダメだから…』とか言って…。たまに姉から施設に連絡がくるけどしばらく会っていない。
「じゃあいこうか」
とダイキに促され牛丼屋を出てステーションへ向かう途中、ヒデを見つけ合流。
「今日アサミ欠席。昨日、また酔って手首を切りやがった。」
ヒデの言葉に俺はひどく驚いたが、「またか……」とダイキはいたって冷静だった。




