プロローグ
2120年
もう何年このステーションに通っているだろうか…。ほぼ毎日、ここから仮想空間へダイブしている。近代的なビルの中にある無数のブース。このブースは約2メートル四方の小さな薄暗い部屋。空調の静かな音しか聞こえない。その真ん中にリクライニングシートがあり、その横にはモニターが光る端末機器が繋がっている。俺はその端末にIDカードを差し込む。するとブースのドアから『カチッ』と音がし、ロックされたことを確認する。これで外の世界とは一切遮断された空間が出来上がった。羽織っていた上着を壁にあるフックにかけ、リクライニングに横たわる。俺は一連の作業を当たり前のようにこなして、仮想空間へ飛ぶために、端末からコードが伸びるヘッドギアとリストバンドを体に装着し目を閉じる。一瞬の混濁が襲い、体が宙に浮くような錯覚を感じる。そして目を開けると、そこは…戦場だ。
俺がダイブした場所は、FRONTIER(フロンティア)。
『ヘイ!!シーナ!!退路の確保は大丈夫だろうな!?』
インカムから自動通訳で聞こえてくるフランス人の怒号。
俺は、本来いるべきフォワード、いわゆる前衛ではなく退路の確保に当たっていた。3年間雇用されていたパーティーが解散。フリーの傭兵で生計をたて始めてから、最近はこんな仕事ばかりだった。
『シーナ!!撤退だ!!フォワードが二人ともリタイアしちまった!!セーブポイントまで誘導を頼む!!』
今回招聘されたパーティーのリーダーの焦った声が再びインカムから聞こえてきた。俺は暇潰しに『ニホントウ』でザコキャラを倒しながら、細かいポイント稼ぎをしていたが、パーティーリーダーの声でやっと本来のミッションタイムがやってきた事を知り、背中の鞘に刀を納めた。
(R-Bフィールドでこのザマとは。)
RがB(級)であるこのフィールド。
(フラッグにもたどり着けずに撤退か。)
ため息をひとつ漏らした俺は肩に掛けていたM4を構え、撤退してくる今日だけのパーティーの援護に回った。
『すまない。お前程のハイプレイヤーを招聘するからにはコンプリートしたかったんだが…。』
俺は軽く頷いてセーブポイントへ駆け込んだ。
目覚めた俺は、すぐにヘッドギアを取り、手首のリストバンドを無造作に外し、リクライニングシートから起き上がった。わずか2メートル四方の薄暗い個室にリクライニングシートがひとつ。現実の世界への帰還である。シート横のモニターには今回のミッションの経験値と報酬が映し出されていた。それを確認して端末機からIDカードを抜く。すると扉のロックが解除される。そして、掛けていた上着を羽織り外へ出た。まだ夜明け前の『ステーション』だが人がごった返している。俺の出た個室もすぐに端末待ちのプレイヤーが入り、扉の上にある接続中の赤いランプが光っていた。海外のパーティーと組む時は、大概この深夜の時間にステーションで過ごす事になる。
ロビー奥の何台も並ぶ銀行のATMのようなキャッシャーにIDカードを入れ、パスワードを入力。今回の経験値はパラメーターには使わず、弾の補給に充てる。
ミッション成功時のパーティーポイント25%が今回のミッションの報酬だ。
だがフランスのパーティーはミッション失敗に終わっているから、俺への報酬分がパーティーの資産からマイナスされるのだろう。このパーティーポイントは経験値化にも現金化にもでき、パーティーリーダーがメンバーに経験値を振り分けたり、次回の端末使用料など、その時々の判断で活用される。俺はキャッシャーから出てくる紙幣を無造作にジーンズのポケットに突っ込み、足早にステーションを後にした。
まだ薄暗い午前4時。帝都の電気街はまだ人通りはほとんどない。
むしろこの時間にこの辺りをうろついているのはFRONTIERのプレイヤーか路上生活者しかいないだろう。
俺はいつからこんな生活を送るようになったのか。
今から14年前に終結した第三次世界大戦。事の発端は、大韓民国と北朝鮮の第二次朝鮮戦争である。
戦時中、母を病気で亡くし、父は軍医として沖縄基地に派遣されていたが死亡が伝えられ、姉と俺は戦争遺児の集まる施設へと送られた。
2110年1月。アメリカが中国主要都市に核爆弾を5発投下。結果的に16年にも及んだ第三次世界大戦は北朝鮮と中国の降伏により終結した。
俺は一般高等学校に進み、この春、三流ながら大学に入学した。戦争遺児は成人(修学)するまであらゆる免除があり、学費や医療費は無料。月々給付金の
恩恵も受けられる。
俺がFRONTIERと出会ったのは中学を出てすぐだった。
主題歌
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作詞 泉水遊馬 作曲 Suno
【https://drive.google.com/file/d/17T3wXN1kGWafJSlxg-_W6_5IgMaycK_4/view?usp=drivesdk】




