2 上崎君。下の名前は、確か優斗君だったかと思います。
もちろん、学校での私は、黒路映画館のときと同様、面白いと思ったときに笑いますし、おかしいと思ったら悩みます。勉強もちゃんとします。テストも受けます。
しかし、黒路映画館でのことを周りに話しません。
そのため、私は先ほど述べたような、「雅あんず」を演じていると思ってしまうことがあります。本当の自分を、完全にさらけ出していないと感じるためです。
皆、本当の自分を隠しているのでしょうか。それは私には分かりません。
しかし、少なくとも私の後ろの席に座っている男子は、自分の姿を私よりかは周囲にさらけだしている気はします。
上崎君。下の名前は、確か優斗君だったかと思います。
体育後の、国語の授業。うとうととする人が多い中、彼は必死にノートを取っていました。
一度気がつくと、シャーペンの芯がノートを叩くようなその音が気になって仕方がありません。
一昨日に席変えがあり、彼が私の席の後ろにいるようになってからはじめて、このクラスにこんな勉強家がいたことを知りました。
彼は休むことなく、常にシャーペンを動かしています。
休み時間であっても常に机に向かっていることは知っていましたが、まさか、ずっと勉強しているとは思いもしませんでした。
つい先ほどのことです。体育の授業が終わった後、着替えを済ませ、私が教室に戻ると、彼はすでに勉強をしていました。
何の教科かは分かりませんでしたが、ちらりと見たところ、問題集を解いていたようでした。
もう一月ですが、上崎君と話したことはありません。
上崎君は、女子とあまり話しているイメージがありませんが、男子の友達は多いようです。
机に向かいながらも、彼は話しかけられれば答えています。勉強をしながら、会話をすることができる。器用な人です。もしかしたら、クラスの男子も、それが面白くて彼に話しかけているのかもしれません。
今日の昼休み、彼に話しかけてみようと決意しました。自分をさらけ出しているように見える彼に、興味が沸いていたためです。
国語の先生が難しい言葉の意味について、難しい言葉で説明しています。
私は理解するのを諦め、わくわくしながら、窓の外に目をやりました。
空を縫うように、鳥が飛んでいくのが見えました。




