10 明後日。ロッカールームで、私は声を殺して泣きました。明後日。明後日。明後日が、
その日以降、私は上崎君とも、イチサンとも会わない日々が続きました。イチサンとは、元々頻繁に会ってはいませんでしたが、上崎君とも会わなくなってしまったのは、予想外でした。
「別れてしまったの」
と興味半分で訊いてくる友人に、そんなことはない、元々つきあってはいないと返事をするのですが、私の声はそのたびに震えてしまいました。現実が、暗闇の中に隠れた刃のように私を狙ってくるのです。
私の傷心に気を使ってか、友人たちはすぐに、上崎君の話をしないようになりました。
上崎君は、学校にも来ずに働いてばかりの毎日を送っているようでした。館長からは、彼の安否のみを聞いていました。彼が生きているのなら、私はもう何でもよかったのです。
何もしないと考えごとばかりをしてしまいますから、私は学校にいる間は熱心に勉強をしました。上崎君がのりうつっている、と周りで噂されるほど、私は勉学に打ちこみました。楽しさも苦しさも感じず、ただ機会的に黙々とペンを走らせていきました。
仕事に対する態度は、今までと同じくまっすぐだったと自負しています。私は与えられた仕事を淡々とこなしました。三週間で人を二人殺しました。
いつもは一カ月に一人殺せば多い方でしたので、少しだけ驚きましたが、殺したときに何かを考えたりはしませんでした。殺しをした際に、私の心が動いたのは、最初の殺しのときだけです。
殺しをするたびに、私の脳内にはイチサンの言葉が浮かぶようになっていました。
ただの終わりのひとつ。
はたして、イチサンが死んでしまっても、私はそうやって彼の死を受け入れることができるのかは分かりませんでした。
しかし、確実に、そのときは近づいているのでした。
時間はいつも均等に流れているはずなのに、私はその日までの時間が物凄く長く感じられました。バーでの仕事から、二カ月と一週間が経ったある日、私は館長に呼び出されました。太陽が元気な季節になったころでした。
「そろそろなんだ」
館長は、開口一番そう言いました。その声は、小さな男の子の声でしたが、やけに重く私の心にのしかかりました。
「十三番さんと、話すことはあるかな」
「いえ」
即答でした。私は、まっすぐに館長を見つめます。
「彼は、私に伝えられるすべてのことを伝えてくれました。彼から教わることは教わりました。もちろん、教わりきれないことはありますが、それはきっと永遠に続くのです」
私の返答に、ふふ、と館長は笑います。
「十三番さんも同じようなことを言っていたよ。本当に、すばらしい子弟だね」
館長は、顔を少しだけ上に向けると、はっきりと言いました。
「二十番さんと十三番さんの対決の日は、明後日の真夜中、十一時半から、この場所で行ってもらう」
「ここですか」
「そうだ。もちろん、私は同席しないよ。君と、十三番さんと、二十番さんのみだ」
「かしこまりました」
「君の正義が、実行できることを祈っているよ」
私は、思わず言ってしまいました。
「十三番さんにも、二十番にも、同じことを言っているのでしょう」
あはは、と館長は楽しそうに笑いました。
「ばれたか」
何年もの付きあいなはずなのに、いまだに得体のしれない館長にぞっとしながら、私は部屋を出ました。
明後日。
ロッカールームで、私は声を殺して泣きました。
明後日。
明後日。
明後日が、イチサンの命が終わる日なのです。




