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9 「二十番に、殺人の現場を見せたいんです」

 私と上崎君は、共に登校し、休み時間にはよく話し、共に下校する、という生活を送りました。


「つきあってるんだよね」

 と言われるたびに、皆色恋が好きだなあ本当に、という感想しか浮かびませんでした。

「そうだと思うんならそうでいいよ、もう」

 という返答が一番楽だと上崎君に言われたため、そのように返答すると、友人は「照れちゃってる」と笑いました。なるほど、嘘は言っていないのに向こうが勝手に解釈をしてくれるのです。


「頭いいね」

 私が言うと、上崎君はいつもこう返してくるのでした。

「よく言われる」



 上崎君は、順調に仕事をこなしていました。社内での雑務は彼一人でしていたため、館長や他の人から聞いただけでしたが、作業が早く飲みこみもいいので、助かっているとのことでした。


 社外の仕事では、彼のボディーガードとして私も同行しました。彼はとてもスムーズに仕事をこなしていました。治安の悪い所に赴いても、少しも顔に恐怖の色を浮かべずに歩いているのには驚きました。


「目的が明確だと、多少の恐怖は緩和されるんだよ」

 そう言う彼は、にこにこと笑っていました。上崎君はこんなによく笑う人だっけ、と思いました。


 それは、私だけでは無かったようです。学校内でも、上崎君は明るくなったということがよく話題にのぼりました。もちろん、私が聞いている範囲内でその話が出ると、必ず

「あんずのおかげだよね」

 とも言われました。あたらずとも遠からず、です。私はえへへ、と微妙な笑顔を返すほか無いのでした。



 上崎君が働き始めて二カ月、寒さが少し和らいできたころ、彼は犯罪資料を見ることができるようになりました。これは異様な早さだということです。どうしてそんなに早いのかを訊ねると、上崎君はけろっと言うのでした。


「できるだけ早く見れるようになりたいので、どんどん仕事をまわしてくださいって言っただけ」


 目的のために、館長にそう言う人間は数多くいるでしょう。彼は、随分と仕事ができる社員なのだろうな、と思いました。犯人を殺してやる、という同じ動機で働いていた私は、その資料を見られるようになるまでに彼の三倍の時間を費やしたのです。


 私が無能な可能性も否めませんが、きっと彼が優秀なのでしょう。

 上崎君が夜遅くまで犯罪資料を見るようになり、もう三日が経ちました。


 私は、どのくらいまで情報が集まったかとか、そう言った類のことを、詳しくはききませんでした。彼はまるで恋するように、資料を読みあさり、睡眠時間を削りに削って調べ物をしていたためです。彼も、私に多くを語ろうとはしませんでした。


 黒路映画館では、犯罪資料室で犯罪者の過去を調べられるだけでなく、最新の情報を調べることができるのです。その情報のおかげで、私はすぐに犯人に目星をつけ、殺害をすることに成功したのでした。

 てっきり彼も、すぐに犯人を見つけ、殺害のプランを立てたうえで、その許可がおりるまで仕事をするものだと思っていたのですが、どうやらうまくいってはいないようでした。


 犯人が見つからないのか、殺害方法が決まらないのかは分かりません。とにかく彼は、資料室に通っては、浮かない顔で出る日々を過ごしていたのでした。


 彼が犯罪資料室にこもるようになって四日目の夕方、私は館長に頼みごとをしに行きました。


「二十番に、殺人の現場を見せたいんです」

 ふうん、と優しいおばさまの声をした館長は、興味深げな相槌を打ちました。


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