表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/51

8 とても自然な流れで、私は彼に、嘘をついたのでした。

 黒路映画館、と呟きながら、ロードクロサイトの文字を見つめますが、さっぱりわかりません。

「クロって言葉が入っていることしか、共通点が見つからないけど」

 私の呟きに、そうだよ、と上崎君は身を乗りだします。

「黒とクロ。二十番、あってるよ。あとは英語の問題、ロードは?」

「ロードは……道か!」

「そう。この会社では路上の路の字を使ってるけどね。ロードクロ、まではいった。あとはサイト。これは、俺も知らなかった」


 上崎君は、そういうと三枚目の紙を見せてくれました。よく見ると紙の一番下にアドレスが書いてあります。ウェブページを印刷したのでしょう、映画館のデータに関するもののようでした。印刷されていたのはグラフでした。日本の映画館についてのデータのようです。その中に、サイト数、という文字が見えました。私があ、と声を出すと、ね、と上崎君が言いました。


「映画館の数を、サイト数って言うんだって。黒路映画館は、ロードクロサイトの文字を入れ替えて、和風にしてたんだよ。言葉遊びだったんだ」


 きっと、仮面の下の上崎君の目はきらきらとしていたことでしょう。爛々とした表情に、私も嬉しくなってしまいました。

「絶対にあってる。早速報告に行こう」




 館長室にて、クイズの答えを上崎君が言い終えると、館長は満足そうに頷きました。

「その通りだよ。分かるとくだらない言葉遊び、でも、楽しかったろ?」


 館長の声は、お爺さんの声です。上崎君は、はい、と笑顔で答えました。


「しかし、はやかったね。うちで働いている人の中でね、賢いだろうな、という人にはときどきこのクイズを出すんだ。最速記録に並ぶよ、君はいい脳みそを持っている。発想も、知識も、根気も必要なクイズだからね。予測だが、ほぼ二十番さんが解いてしまったのではないかな」


 私は、はい、と小さく返事をしました。

「私は何もしていません。彼は、このクイズが解けてから、私を探し、私に説明してくれました」


 そこまで言うと、館長は嬉しそうにはは、と笑いました。私の言いたいことをすぐに汲みとってくれたようです。


「じゃあ、間違いなく最速記録だろうね。まあ、手分けをしたようだけれど……二十番さんの行動が正解に近かったのだとしたら、運もあるね」

 よろしい、と館長は手をたたきました。


「仕事終了、お疲れさまでした。四番さんは報酬、ふりこんでおくからね。二十番さんとは、報酬の話や、今後の詳しい仕事内容を話しあおう。四番さん、退出を願えるかな?」

 私は素直に頷くと、失礼致しますと言って部屋を出ました。


 これから、本格的に上崎君の仕事が始まり、いつか彼は、彼のお姉さんを殺した人までたどりつくのでしょう。


 広間で、私は少しだけ考えました。上崎君に、いろいろと話さなければならないことがあるのです。その言い方として、どのようなものが最適かを、私はうんうんと考えました。


 三十分ほど暖炉の前で考えましたが、結局、遠回しに言うと混乱を招きかねないので、そのまま私の考えを彼に伝えることにしました。

 館長室を出てきた彼を暖炉の前に呼び、私は言いました。


「私は、ずっとここの社員でいるって決めている。二十番、君がいつか犯人を殺すとき、私も同席させてほしい」

「どうして」

 彼は前かがみになって聞きました。暖炉の中の薪が燃えている音が、やけに耳につきます。


「私が殺したとき、イチサンが近くにいてくれた。それだけで、随分私は救われたの。私が救いになるかどうかは分からないけど、二十番が一人なのは心配」

「心配すること無いよ」

「二十番は人を殺したことがある?」


 私の質問に、彼は答えませんでした。仮面の向こう側の表情が読めません。いったいどんな気持ちで、彼は私を見つめているのでしょう。


「私はあるよ」


 続けると、二十番はうん、と素直に頷きました。


「分かった。じゃあ、犯人を殺すときは、絶対に四番に同行してもらう」

「絶対にね」

「大丈夫。館長に伝えておいてよ、俺からも、伝えておくけど。そうしたら安心でしょ」

「ありがとう」


 上崎君は肩をすくめ、唇をへの字に曲げました。

「お礼を言われるようなことじゃないよ」



 よし、と心の中で、私は拳を握りました。

 とても自然な流れです。



 とても自然な流れで、私は彼に、嘘をついたのでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ