8 ロードクロサイト
食堂の一番隅にあるテーブルに座ると、彼は手にしていたプリントを私の目の前に広げました。プリントは三枚あり、すべて図書館の本を印刷したものでした。
一枚目のプリントには、カラーで花が印刷されていました。その中の黄色い花を指差し、彼は言います。
「これはルドベキア。大判言草ともいう」
「オオハンゴウソウ」
「そう。それは和名。まあそれはいいんだけど、この花、中心から、綺麗に放射状に花びらが伸びてるだろ。誰にでも平等にってことから、花言葉は正義なんだって」
「正義……」
私は、ルドベキアと呼ばれたその花をじっと見つめました。真ん中は茶色く、黄色の花弁が綺麗に開き、円を描いています。中心部は少しだけオレンジがかっており、とても素敵な花だと感じました。
「この花、どこかで見たことない」
「え?」
私はもう一度写真を見かえします。この花を、私は見た記憶がありませんでした。
「黄色い花は、館長の好きな花だからよく目にとまるけど、この花はないよ」
「館長が好きな花っていうのがヒントだよ。じらすつもりはないから言うね。これ、多分仮面についてる花なんだよ。館長の左目。二十番の仮面にも、ふたつついてるでしょ」
「あぁ……あの花、ただの黄色い花じゃなかったんだ。私はてっきり、館長が好きだからつけてるんだと思ってた。花言葉があったんだね」
「そう。館長は意図的にこの花を仮面につけているんだ。正義っていうのはこの会社で重要な言葉だろ。それで、次に俺はこれを調べた」
上崎君はそう言うと、自分がつけている仮面の左上を指差しました。ピンク色の宝石です。
「宝石言葉っていうのもあるんだよ。知ってた?」
「知らない。というか、この宝石の名前も知らない」
「うん、俺も分かんなくって、少し苦労した」
別のプリントには、ピンク色の宝石の写真がありました。インカローズ、と書かれています。確かにこの宝石は、埋め込まれている宝石と同じ色をしていました。
「インカローズっていうんだね、この宝石」
「うん、たぶん間違いないと思った。でも、この宝石の言葉は正義じゃない」
「そうなの」
「そう。ここで一旦行き詰ったんだけど、宝石って奥が深いね。インカローズの中でも透明度の高いものは、異なる意味を持ってたんだ。その意味が」
「正義だった?」
そう、と上崎君は言いました。へえ、と私はため息に近い相槌を打ちました。
「よくそこまで調べたね」
「必死だったからね。何冊か見た後やっと見つけたよ。というかね、ひどいんだ。同じ宝石でも呼び名がいくつかある。透明度の高いインカローズは、インカローズって書かれていないんだ」
そう言った後、彼はそのプリントの下の方を示しました。写真はなく、そこだけ字体が異なります。きっと他の本の一部を取ったのでしょう。そこにはロードクロサイトと書かれていました。
「ロードクロサイト」
「うん。インカローズは別名ロードクロサイト。その中でも透明度の高いもの、これの宝石言葉が正義。ここまできたら、もう答えは出ているんだ」
「えっ」
「黒路映画館と、比べて見みて」




