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8 深い意味は無かったような、あるような


 広間を出て、食堂で私たちは考えました。私たちは、というより、彼が考えているのを私が聞いていた、と言った方が正しいかもしれません。


「俺が使えるのは図書館とパソコンのみ。俺はまだ新入社員なのに、黒路映画館の意味を調べろっていう指令が出た。おそらくだけど、これは少し考えれば誰でも解けるなぞなぞなんだよ」

「そうなの?」


「そう。例えば、館長がただ好きな言葉を並べただけ、とか、そういった可能性は低い。それはクイズとは言わないしね。

 誰かが知っていて、その人に辿りつくまでのクイズって可能性もあるけど、そうだったら、わざわざ俺が使える施設のみ使用可能、とは書かないと思うんだよね。調べて分かるような内容の可能性が高い、って思うよ」

「すごいなあ」


 私の反応に、彼はにこりと嘘臭い笑みを浮かべました。

「こうやって出題者の意図を考えると、テストでいい点がとれるようになるんだよ」

「そんな器用なことできません」


 くるくるとシャープペンシルをまわして、彼は話を元に戻しました。

「まあでも、人に聞くのが正解の道って可能性も無いわけじゃない。その場合、対象となる人はいつもこの会社にいる人だろうね。社員の中には、週一出勤の人とかもいるんだろ?」

「うん。むしろ毎日いる方がレアかな。仕事があるときだけ出社の人もたくさんいる」

「なるほど。だとしたら絞られるよね。よし、手分けしよう」

「手分け?」

「そう。四番の方が社員については詳しいだろ。いつもこの会社にる人に、訊いてみてよ。俺は図書館にいって、映画館の歴史でも調べてみる。つまり、手がかりになりそうなものを探すってこと」


 頭がいいなあ、と感心しながら、私はその提案にのりました。とりあえず三時間後に図書館前で、という約束をして、私たちは別れました。


 結局、一時間足らずで、彼は答えを見つけてしまいました。その一時間の間、私はというと、七人に黒路映画館の意味を問い、知らないなあ、といった答えしか見つけ出せませんでした。

 伝達室にいる七十二番さんから何の情報も得られず、その部屋を出ようとしたとき、タイミング良く上崎君が入ってきたのです。


「あ、いたいた」

 私を見ると、彼はにこりと笑いました。持っていた数枚のプリントを、胸の前で数度振ります。


「分かったよ、黒路映画館の意味」

 えっ、と私が声をあげたのと同時に、後ろで七十二番さんが教えて、と言いました。


「合ってるかどうか分かりませんから、答えあわせしてきます」

 上崎君は七十二番さんにそう言うと、伝達室を出ました。誰もいない廊下で、しかし私は小声で彼に聞きます。


「分かったってっほんと?」

「本当。深い意味は無かったような、あるような」

「どういうこと?」

「多分正解だと思うけど、一応四番に聞いてもらってから、館長に伝えに行こうと思って」

 私の質問に答えず、彼は食堂で話そうと提案してきました。


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