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7 中学生に殺してほしい、っていうような依頼があった場合はどうするの

 広間には誰もいなかったため、私たちは暖炉前のソファに腰掛けました。

「ありがとう」

 彼は言います。私はいいよ、と言って笑いました。


「入社おめでとう。私は君の上司だけど、敬語はもちろんいらないからね。私のことは、四番って呼んでくれると嬉しいな。私は二十番ってよぶから。呼び捨てで」

「呼び捨てね」

 ふ、と彼は笑いました。今さらになって、冗談のように思えてきたのでしょう。


「さっき言っていた、番号の意味って?」

 訊ねられ、今度は私が笑いました。

「ああ。こんな裏話みたいなことから教えるのもなんだけど、まいっか。与えられた番号には意味があってね、名誉な番号がいくつかあるの。新人にとって最高の番号が二十番なんだ。期待の新人って意味合いがある。館長からの、最高級の褒め言葉だよ。

 新顔だね、何番だって聞かれて、二十番って答えたときの相手の反応は面白いと思うよ。もう二年ぐらい出てないんじゃないかな」


「期待の新人ね……二年か。ねえ、四番は、いつからここにいるの?」

「プライベートのことは訊かない方がいいよ。マナーとしてね」

「そうなんだ、ごめん」


 いいよ、と私は言って、その後、黒路映画館のことを彼に話しました。

 黒路映画館は、可能な依頼ならなんでも受ける会社であり、金のような対価を支払えばだれでも利用できること。依頼主は、有名な人から小学生まで幅広いこと、などです。


 社員は、自身の正義に基づいて行動する人ばかりだということも説明しました。


 社員は、自分の正義に基づいた仕事を受ける人(イチサンのような人です)と、自分の正義のために対価として仕事をこなす人(上崎君はこれにあたります)の二種に分かれ、依頼に一番適した人を館長が選び、仕事として言い渡されること。


 仕事を成功すると、金や情報などの報酬が得られます。上崎君は、これから仕事をこなし、一定の仕事を成功させたら、褒美として殺人のおぜんだてを会社側がしてくれるはずです。


「会社側に犯人の割り出しを頼むこともできるの?」

 彼の質問に対する私の答えは、イエスでした。


「社内には腕利きの探偵もいるからね。その人に依頼するかたちになるよ。その分仕事をこなす必要があるけど」

「交渉は直接館長にすればいいのかな」

「うん、館長は、気軽に要望にこたえてくれる方だよ」


 うまくしないと、と彼は言いました。

 そのときは、そうだね、一緒に頑張ろうね、などと適当なことを言えたのですから、私も幸せ者です。


 休日の二日間を使用して、制服の採寸をとり、寄宿先を決め(彼は親戚の家に住んでいたようでしたが、黒路映画館の社員専用のアパートがあると知ると、すぐにそちらに移ってしまいました)、家具をそろえ、社内を案内し、挨拶をし……とうろうろしているうちに、 随分と幼い新社員がいるらしい、といううわさはあっというまに広がりました。


 どんなに素性を隠しても、見た目を隠せるのは館長以外にいません。私が(おそらく)中学生であることは、いつのまにか周知の事実になっていました。

 そんな私と共に行動しているのですから、二十番の彼も随分と若いはずだと、あちこちで言われていたようです。


 上崎君のうわさと同様、私に関する噂もちらほらと広まっていたようでした。四番が二十番を背負うにふさわしい新人をスカウトしてきた、ということもまた、驚くことだったようです。私たち二人が社内を歩いていると、必ずと言っていいほど声をかけられました。


 上崎君は、いたって冷静でした。にこにこと丁寧な対応をし、失礼な発言もせず、しかしおしゃべりでもありませんでした。


「親戚中をぐるぐるまわされてたから、大人に嫌われない態度を取ることには慣れてるんだよ」

 ということだそうです。私は、学校ではにこにことしていますが、社内では愛想よく振る舞ったことがないので、尊敬してしまいました。


「俺がさ、仕事として殺しをする場合はあるの」

 彼とは共にご飯を食べていましたが、その間も休むことなく、様々な質問をしてきました。日曜の昼食どきを少し過ぎた時間、食堂で私たちは話をしていました。私はパンをかじりながら、首を横に振ります。


「殺しは物理的には誰にでもできるけど、精神的には誰もができるわけじゃない。パソコンをいじって情報操作をするのが専門の人がいるように、殺す専門の人がいるんだよ。だから、そこは心配しなくていい。最初は誰でもできるような仕事を任せられて、どんどん適性を見極められていくから……まあ、私たちは年齢という特殊性があるから、ってはなしは、館長からあったよね」


「なるほどね。でもさ、中学生に殺してほしい、っていうような依頼があった場合はどうするの」


 仮面越しにでも、彼の表情が読める気がしました。これは、誘導なのでしょう。彼は、きっと私の答えを分かっているのです。


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