6 人を殺したいの?
噂をされているのは分かっていても、私は上崎君を諦めることができませんでした。
頭のいい彼は、絶対に黒路映画館にとってプラスになる、という確信があったのです。
上崎君をスカウトすることができたのなら、きっと館長も喜んでくれると思いました。
加えて、同級生の社員がほしかったのも事実です。
しかし、どうやって彼の奥底の部分を、つまりは、彼の信念や正義についてを知ることができるのでしょう。直接聞くのが一番でしょうが、私にはその方法をどうしても思いつくことができませんでした。
その日は、休日の最終日でした。館長には、いい人がいるけれど私が誘うことはどうしてもできなかったため、他の人をスカウトにまわしてくれないか、という旨を伝えようと思っていました。
私の中での最高のプランは、上崎君が私以外の人から黒路映画館について聞き、入社し、入社後に私と出会う、というものでした。
もちろんその私は、雅あんずとしての私ではなく、四番としての私です。声や背恰好で彼が気がつくかもしれませんが、私はしらんぷりをしておけばいいのです。
よくよく考えれば、私が誘ってしまったら、私が彼の面倒を見なければならないのです。おまけに、私の正体もばれてしまいます。それは、とてもリスキーなことに思えました。
自己中心的で、保守的な考えです。しかし、それが一番、安心できるプランでした。
結論としては、そのプランはただの絵空事で終了してしまいました。
上崎君がいつものように勉強をしている際、私がとんでもないことに気がついてしまったためです。
初めて彼に話しかけたときに、彼が何の勉強をしていたか、皆さんは覚えていますか。あどけない声で、彼は言ったのです。
落下速度、ひゅーん。
その次は何だったでしょう。彼は、科学の勉強をしていました。混ぜたら危険な薬品について、彼とお話したのです。その日が金曜。私は彼が屋上にいることに気がつき、彼と親しくなりました。
土日をはさんで、月曜、火曜と、彼は人体について勉強していました。
「どんな内容?」
と訊くと、彼は
「内臓の箇所とか、役割とか」
と答えました。
火曜日には、
「昨日は内臓についてだったから、今日は血液についてだよ」
と言っていました。
水曜は、またも落下速度についてです。また落下速度? と訊ねると、彼はいろいろなバリエーションがあるんだよ、と言っていました。
「落下速度と衝撃について。葉っぱと石が物凄く高いところから落としたとき、葉っぱはふわりと地上に落ちるけれど、石は粉々に砕け散る。そういうこと」
木曜、つまり昨日は、食事についてです。
「人がどういう食事をとったら、どういう影響が出るのか。これって生活の上でも、とても大切なことなんだよね」
と彼は楽しそうに話していました。
そして今日、金曜日です。
「今日は歴史だよ」
目の前の彼は言いました。
「どんな歴史?」
「人体実験」
眉をひそめ、少しつらそうにしながら、彼は言います。
「こういう歴史を学ぶのには勇気がいるけど、決して目をそらしちゃいけないよね」
「そうだね」
内容が内容ですから、きっと彼は感情移入して辛くなっているのだと、最初は思いました。そこで私は彼の気持ちを察した気になり、黙って彼の勉強する姿を見つめていたのです。
黙っているときに、考えてしまったのです。彼の勉強内容について。それは、並べてみると突然、とんでもない羅列になってしまうことに気がついてしまいました。
落下速度、毒薬、人の内臓と血液について、落下速度と物体破壊、人体実験。
なんて物騒なのでしょう。
本当は、その場ですぐに問いつめたかったのです。しかし、教室には人がいました。私は無表情のまま、彼といつものように屋上にいきました。
そのことを訊くのに、ためらいはありませんでした。
なぜか。
私の正義に、関係しているためです。
屋上の扉が閉まってすぐ、私は単刀直入に聞きました。
「間違ってたらごめん。不快に思っても、ごめん。上崎君」
彼は振り向き、不思議そうに首をかしげました。
「どしたの?」
「上崎君、人を殺したいの?」




