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3 「君は、殺したいんだろう」

 私は、十歳のころ、飲酒運転による交通事故で姉を亡くしました。

 幼いころに、両親を亡くしており、親戚とも疎遠だった私にとって、彼女だけが唯一の家族でした。


 その家族を失ったのです。

 死には死を。どうしてそう思うことが間違っているのでしょうか。


 私はどうしても、死刑にならなかったその犯人が許せませんでした。姉は死にました。彼も死ねばいいのです。ひとつの命を消した罪は、ひとつの命で償えばいいのです。


 テレビにさらされ、不幸の少女として報道され続けましたが、私の心はいつも、犯人の死だけを考えていました。


 そんなある日、私についての放送を見た一人の男性がいました。それが、十三番、イチサンです。彼は、私を迎えにきてくれました。


「君は、殺したいんだろう」

 会って早々、彼はこう言いました。驚きましたが、そのとおりだったので、私はすぐに心を許してしまいました。彼は、私の理解者である、と思ったのです。


 イチサンは黒路映画館という彼の所属している会社のことを教えてくれました。そこで働けば、報酬として犯人を殺すことができるだろう、と教えてくれたのです。


 私はすぐに黒路映画館に入社し、私の正義を館長に誓いました。


「私の姉を殺した犯人を殺す。このためだったら、何でもします。これが私の正義です」


 館長は、その後私に様々な仕事をくれました。イチサンは、黒路映画館の決まりごとから、体術、武術、勉強、料理なども教えてくれた、私の師匠です。


 報酬としてのお金は、必要最低限の額しかもらいませんでした。たくさんの仕事をこなさないと、犯人を殺すという報酬を得ることはできないのです。


 殺しの仕事はありませんでした。イチサン曰く、殺しの仕事をする人は、殺しをすることに対し正義の誓いを立てている人だから、ということです。


 黒路映画館に殺しの仕事の依頼が来た際に、その人を殺せる正義を持つ人が社員にいたら、その仕事を受ける、という仕組みなのです。


 私の場合、殺しは報酬でした。それをもみ消してくれる労力を、黒路映画館側が担ってくれた、というわけです。


 十一歳と半年、黒路映画館に入社して八カ月目で、私は私の正義を実行できました。


 そこには、イチサンが同行してくれました。飲酒運転の犯人の腹を、ナイフで縦に切り裂きました。私の姉は、内臓を損傷して大量出血をしたため、亡くなったのです。


 姉が喜ばないとか、家族が悲しむとか、そういったことは、館長にさんざん言われました。


 そうではないのです。

 それだけ言うと、館長は理解してくれました。それこそが信念であると、言ってくださったものです。


 ためらいはありませんでした。


 犯人を殺害した後、イチサンは黙って、私を抱きしめてくれました。涙は出ませんでした。息があがり、血でべたついた右手は、がたがたとみっともないくらいに震えていたのを覚えています。


 その後、結局私は黒路映画館に残ることに決めました。


 イチサンと私は、私が犯人を殺害した後にまたいろいろとあり、イチサンが仕事をする際には私と行動を共にするようになったのですが、過去の話ばかりでも何ですので、この話はまた少し後でしようと思います。

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