3 「私の正義に基づいて」
この声は、おそらく館長の声ではありませんが、館長の意思であることは確かです。
館長は、声さえも私たちに教えてはくれません。会うたびに、機械の向こう側の声は変化しています。館長の声を担当している方が何人いるのかも、よく知りません。
イチサン曰く、この会社の最重要秘密事項のひとつ、だそうです。
私の横で、イチサンが返事の代わりに頭を下げました。私も、少し遅れて頭を下げます。
二人が顔を上げたタイミングで、館長の顔が少し斜めに揺れました。
「今日の仕事を」
その言葉を合図に、部屋の奥から人が出てきました。背の高い女性です。私は彼女から、紙を受けとりました。すぐに目を通せるほど、内容は簡潔です。
仕事の内容は、指定された人物の殺害。人物は三人。写真と名前が載っていました。それと、罪の内容も。依頼人は、どこかで見たことのある有名な人物でした。
「その三人、十三番さんの正義の対象なんだよ」
正義の対象、という言葉に反応したのでしょう。イチサンは少しだけ眉を吊り上げました。
「偶然ですか?」
「偶然だね」
館長が頷きます。偶然、という言葉に、イチサンはふふ、と笑いました。
「私の正義に基づいて、仕事を遂行させていただきます」
「その調子で。なるべくスマートにね」
最後の言葉は、館長(の声を担当している方)なりのジョークのようでした。イチサンの仕事は、いつも派手なのです。スマートという言葉には程遠い景色が、今日は見られることと思います。
「四番さん。君も、いつものようにお願いできるね?」
はい、と私は頷きました。そうして、決まり文句のようなこの台詞を言うのです。
「私の正義に基づいて」




