3 「イチサン」 私が呼ぶと、彼はふいと顔をあげ 「ヨーちゃん」 と私の名前を呼びました。
「今日は、指令が出ていますよ」
七十二番さんに言われ、うぐ、と唸ってしまいました。天気のいい日に、血を見る確率が高くなってしまったためです。
七十二番さんは、ガラスの隙間から、私に紙を渡しました。私は静かに受けとりました。そこには、こう記されていました。
番号:4
伝達時刻:18:00
補足事項:仕事は13と共に行う
補足事項を読んで、私は目を丸くしました。ゴーグルをつけていて本当によかったと思います。その表情は、きっととても間抜けだったでしょうから。
久々に、一緒の仕事です。
ありがとうございますと七十二番さんに告げ、紙を返しました。七十二番さんは頷くと、その紙を部屋の隅にあったアロマのろうそくに近づけ、燃やしてしまいました。
紙が燃えつきるのを見届けないまま、私は伝達室を出ました。
はやく、彼に会いたいのです。
部屋を出て、廊下を全速力で走りました。
隅にある「広間」と書かれた扉の前で、私は一度止まり、深呼吸をしました。心臓が、深呼吸を無視して高鳴ります。ドアノブに手を伸ばし、ゆっくりと扉を開きました。
広間は、ワイン色のカーペットがしかれ、黒い壁で覆われた、ゴシック調の部屋です。部屋の真ん中にはシャンデリアがあり、部屋を淡いオレンジ色の光で照らしています。
部屋には本棚やピアノ、ソファが置いてあり、くつろげるようになっていますが、そこを好んで使う人はいませんでした。
なぜなら、広間に入って正面にある大きな扉の向こうは「館長室」であるためです。
広間、というのは名ばかりで、ここは館長室の前にある待機室なのです。
館長に呼び出された人は、誰でも物凄く緊張します。そのため、この部屋の空気はぴりぴりと張りつめていることが多いのです。
私は、部屋の左端にある暖炉に目をやりました。そこの近くにあるソファで本を読んでいる人物を見つけ、思わず息を飲んでしまいました。
久々に見る彼は、特に変わった様子はありませんでした。オールバックにした黒髪から、ひとまとまりだけ触角のように伸びている髪の毛が、左目の前を通って顎のあたりまで伸びています。
それがファッションなのだと、彼はあるとき私に話してくれました。
両耳には、大きな四角いピアスをつけています。目元を隠しているサングラスと同様、黒い色をしているそのピアスが、暖炉の火の光に照らされ、きらりと光りました。
「イチサン」
私が呼ぶと、彼はふいと顔をあげ
「ヨーちゃん」
と私の名前を呼びました。




