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ウチのパンダは実家住まいです。

 ある夜、リビングに集まったあたしと龍龍とエテマルは食後に、レンタルショップで借りてきた映画のDVDを観ていた。

 家で留守番をしていた女の子が動物園から脱走してきたパンダの父子と出会い、家族になる短編映画だ。

 龍龍はこの映画がお気に入りで、年に一回はこの映画を観るのが恒例になっている。

 あたしとエテマルはもう飽きているが龍龍はそうではないらしい。


「う…うぅ…!うぉぉぉぉぉん!!!」


「…うるさいなぁ」


「ウキー…」


 隣の嗚咽にあたしとエテマルはため息をつく。

 お行儀よくソファに座っているパンダが号泣していた。


「あんたって、ホントにこの映画好きなのね」


「そらそうや!女の子と仔パンダを助けるために父親パンダが水門を閉じる時なんかはハラハラや、そんで助かった時はバンザイや!ほんで、ほんで…ラストの二頭と女の子が手を繋いで一緒に家に帰るシーンなんかもう……なぁぁぁけぇぇぇぇるぅぅぅぅぅでぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」


 また泣いた。

 というかクマ科のあんたがそのセリフ言うといろんな方面に謝らなきゃいけないからやめれ。○映とか、石○森プロとか。

 あ、ティッシュ無くなった。


「お母さーん!また龍龍がティッシュ使い果たしたー!」


「はいはーい」


 あたしがキッチンに声を掛けるとお母さんの声が返ってくる。

 少し経って、ティッシュ箱を持ったお母さんが入ってきた。

 ウチのお母さんは本当に若々しい。

 いや、実年齢34歳だから当然っちゃ当然なのだが。

 それでも見た目は22,3歳位にしか見えない。

 お母さん曰く、「若さの秘訣は動物への変わらない愛情よ☆」だそうだ。

 ☆ってなんだ☆って。

 そんな年齢詐称のお母さんが龍龍の隣に座り、ティッシュを手渡す。


「ほーらロンちゃん、泣かない泣かない」


「うっぐぅ…すまんな、ばあちゃん…ズビィィィィィィッ!!」


 ティッシュを数枚前足に取って鼻をかむ。

 お母さんはそんな龍龍の頭を撫でながら苦笑していた。

 龍龍はお父さんとお母さんをじいちゃんばあちゃん呼びしているが、お父さんもお母さんも別にその呼称に怒ったりはしていない。オカン(あたし)の両親なので当たり前だと思っている様だ。

 お母さんみたいなキャラの人だと普通はキレそうなもんだけど、人間わからないもんだ。


「ぐず…ばあちゃんおおきにな…もう落ち着いたわ…」


「よしよーし、お風呂に入ってスッキリしましょーね」


 ぐずる龍龍をあやしながらお母さんはそう提案する。

 こうして見ると本当に孫と祖母に見えてくるのが不思議なものだ。

 ………絵面はおっさんパンダと見た目二十代実年齢三十代の人間だけどね。


「それじゃ卯月、ロンちゃんのお風呂お願いね」


「はいはい。龍龍、エテマル、行くよ」


「おう…ぐすん」


「ウキ」







 お風呂に入ってまずすることは龍龍の身体を洗うこと。

 あたしは大きな湯船から洗面器で龍龍の身体にお湯を掛けた。


「はい、シャンプーするから目ー閉じて」


「おう、頼むわ」


 あたしは水分を吸ってぺったりした龍龍の毛にノミ取りシャンプーを振りかける。

 そのまま手を伸ばして重くなった毛を持ち上げながら毛並みに逆らうように龍龍の巨体を撫で付けた。

 あたしの手がワシャワシャと白黒の毛並みを泡だらけにしていく。


「龍龍、痒いトコ無い?」


「おー、丁度ええわ。やっぱオカンに任すんが一番ええな」


 気持ち良さそうに声を上げる龍龍。

 当たり前でしょ。この七年あんたを面倒見てきたの誰だと思ってんのよ。

 お尻の方から始め、後ろ足と股座を洗う。オスのアレなんて人間以外は慣れた。

 続いて背中から胴回りを洗う。横に寝かせて腹も忘れずに。

 前足から首元へ。そろそろ腕が疲れてきた。

 耳の後ろから頭に指を梳き、口元や鼻先、目の周りを避けて洗う。この辺りは結構難しい。

 そうして洗い終えた後、シャワーからお湯を出して温度を確かめる。

 ………うん、このぐらいの熱さでいいか。


「龍龍、お湯掛けるよ」


「ん」


 顔から後ろへ指を梳きながらシャンプーを振りかける。

 毛の量が多いので全部洗い流すのが一苦労だがもう慣れた。

 シャンプーのぬめりが取れたら次はトリートメント。

 龍龍の拘りから「PANDANE(パンダーン)」一択だ。

 一度のトリートメントでボトル半分位使うのがちょっと痛い出費だが、あたしもお父さんもお母さんも特に何も言わない。

 ………まあ、大事な家族の拘りにどうこう言ったらダメじゃないかな、と。

 そ、閑話休題それはともかくっ!

 あたしは龍龍にトリートメントを塗りたくってしばらくぺたぺたと撫で付け続ける。

 馴染んだら再びシャワー。先程の動作を繰り返す。


「………よし、おしまい!」


「おおきに!」


 ぶるぶると水を飛ばし、湯船に足を運ぶ龍龍。

 ……よくよく考えると、パンダって水浴びはしてもお風呂は入らないよね。


「エテマル、隣ええか?」


「ウキー」


 既に自分の身体を洗い終えて湯船に浸かっていたエテマルに声を掛け、龍龍は湯船に身体を沈める。

 ………お風呂に入るオナガザルとパンダ……本当にシュールだ…。

 あたしがそんなことを考えながら身体を洗っていると、龍龍がじっとこっちを見てる。


「………何よ?」


「………ホンマ、ええ身体しとんのに、なんでオカンにはつがいがおらへんのやろか?」


 …………このバカパンダ…。

 あたしは洗面器を構える。


「いい加減にしろセクハラパンダぁっ!」


「ぶぱっ!?」


 そして龍龍に洗面器の底を叩きつけた。






 しゃこしゃこ、しゃこしゃこ。

 あたしも龍龍もエテマルも洗面所で歯磨き中。

 あたしは普通の歯ブラシでエテマルは子供用のを使っている。

 そして龍龍は特注の特大歯ブラシで器用に歯を磨いていた。

 本当に人間臭いパンダだ。

 そんな時、お父さんも歯磨きの為に洗面所に入ってきた。


「おお、みんなも歯磨きかい」


「うん」「ウキ」「せや」


「はっはっはっ、相変わらず仲良しだね」


 同時に返事をしたあたし達を見てお父さんがそう言った。


「龍龍、良かったな。お母さんに身体洗ってもらえて」


「おう、じいちゃんもしてもらったらどうや?」


「おお、それはいいねー。ぼくも今度頼もうかな?」


「おいおっさん二人」


 歯を磨きながら娘であり母親であるあたしへのセクハラ発言をし始めたおっさん共。

 龍龍はともかくお父さんよ、それでいいのか。

 あたしは肩のエテマルと一緒にため息をついた。






 あたしの部屋…というよりあたしと龍龍とエテマルの部屋。

 ひとりと一匹と一頭が川の字で大きなベッドに川の字で横になっている。


「ほんじゃオカン、エテマル、おやすみや」


「うん、おやすみ」


「ウキー」


 そうして一緒にまぶたを閉じる。

 明日もこのバカ息子パンダに振り回されるんだろうなぁ。

 ……………楽しいからいいけどね。

 そんなことを思いながら、あたしは眠りについた。

唐突な今までの登場人(?)物紹介。


龍龍(ロンロン):七歳、オス

この物語の主人公。見た目はパンダ、頭脳はおっさん。

パンダだが日本語(関西弁)ペラペラ。無駄に器用。パンダなのに調理師免許所持。

産みの親のパンダが育児放棄したため卯月に育てられた。

神野動物園のボス。なんやかんやで動物園の一番人気。


神野卯月(カンノウヅキ):17歳、女

神野動物園園長の娘であり、龍龍の育ての母。この物語の狂言回し。

基本的にツッコミ担当。でもたまにボケる。

ツリ目、ポニテ、あと巨乳。あと巨乳。大事なことなので二回言いました。

なんやかんやで龍龍の事は大事に思っている。ツンデレ。


エテマル:10歳、オス

金毛のオマキザル。卯月の親友。

言葉は話せないが卯月と意思疎通出来るくらい知能が高い。

卯月の肩が定位置。


神野虎児(カンノトラジ):38歳、男

卯月の父にして神野動物園園長。動物大好き。

20歳の時に妻の千鶴と出会い翌日に婚姻届を出す行動派。

経営は妻任せで専ら動物の世話に精を出している。


神野千鶴(カンノチヅル):34歳、女

神野動物園園長秘書。卯月の母。

16歳で虎児と出会い翌日に婚姻届を出す行動派。

卓越した経営手腕で神野動物園を盛り立てている。


ツッキー:15歳、男

卯月の後輩。目付きが悪い以外は普通な容姿。

学業は最低限で他の知識ばかりをかき集める変人。


シノ:15歳、男

卯月の後輩。やたら背が高い。

基本的にノリで行動するバカ。ツッキーの担任に猛アタックをかけているらしい。

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