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2話「ユカとシュウジ」

《登場人物》

ユカ

シュウジ

 平日の夕暮れ時。


 ファミリーレストラン『パリス』には、若いカップルから家族連れなどが席を埋めていた。


 あと三週間足らずでクリスマス。入り口に貼られたメニューのポスターにはそれらしい雰囲気のラインナップが揃っている。


「いらっしゃいませ。お二人様ですね?お席は喫煙、禁煙どちらになさいますか?」


「ちょっと、待って」


 店内を案内しようと出てきた中年の女店員を手で制し、ユカは店内を一通り見渡した。


 ここには知った顔はいない。確認すると、ユカは女店員に言った。


「禁煙席でお願い」


「かしこまりました」


「禁煙はじめたの?まぁ、俺はどっちにしろ吸わないからいいけど」


「シュウジ。あのね。あとで…話があるんだけど」


「話?いいけど。あ、ドリンクもってこようか?」


 テーブルの上、ピンクの携帯が振動する。画面には県内市外局番の固定電話番号が表示されている。ユカは、席を立ったシュウジを見送ると通話ボタンを押した。


「もしもし」


「安積智彦さんのご家族の方ですか?こちら刈間警察署の伊藤と申します。申し上げにくいのですが、智弘さんが、さきほど鉄道の人身事故に巻き込まれまして…。搬送先の病院で、お亡くなりになられました。ご遺体の確認をお願いできませんか?つきましては…」


 ユカは、あっけにとられた表情でしばらく、固まっていた。


「あの、本当に主人でしょうか」


「ええ。持ち物から見てほぼ間違いありません。署の方でお待ちしています」


 シュウジがコーラと、ウーロン茶の入ったグラスを持って席につく。通話終了ボタンを押し、一方を見つめたままのユカに、どうしたのと声をかけてきた。


「あの人が」


 ユカは嗚咽し、口を手で塞いだ。シュウジは、テーブルごしに、その肩に右手を乗せたが、ドリンクのグラスに肘が当たりそうになり、すぐに引っ込めた。


「どうしたの。何があったの?」


 ユカは、ようやくシュウジの目を見つめた。心配そうなその顔を見て、頭を抱えだし、独り言のような小さな声で、ごめんなさい、と言った。


「しゅ、主人が…電車の人身事故で亡くなったって。さっきのは、警察からの電話」


 痙攣したように嗚咽する。言葉を続けようとしたが喉の奥から形にならない声が漏れるだけだった。


「実はね…私、昨日、弁護士さんのところに行ってきたの。今日、シュウジにその事を伝えてから、主人にも切り出そうかって思ってたんだけど…その…離婚のこと」


 ユカが泣き崩れ落ちるのを、シュウジは呆然と見つめていた。


「こんなことになるなんて」


 ユカは繰り返した。不協和音が静かにユカの鼓膜を揺らす。見つめた先―シュウジの表情がぐにゃりと歪んだように見えた。


「それに…」


「それに、なに?」


「私、たぶん、シュウジの子供を妊娠してる」

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