異世界よりやってきた魔王 中編
カインと甲冑の男が戦いを始めて数分後、
『どうした、カイストラルバーン! 貴様の実力はその程度か!?』
『ふんっ! 奴の騎士とは言え少しは出来るようだな!』
ついさっきまで平和な公園だったのが一転して、戦場地と呼ぶに相応しいほど周囲が荒れ果てていた。
それもその筈。カインの両手から放たれる魔法を甲冑の男がかわしたり、長刀で弾き飛ばしてる事によって、それが周囲に当たって破壊されているからだ。ブランコやジャングルジム、すべり台や砂場などが無残な姿になっている。
因みにカインと甲冑の男は互いに空を飛んでいての空中戦をしていた。空まで飛べるなんて何でもありなんだな、カインの住むエルファウストって言う異世界は。
「カインの奴、この世界では本来の力が出し切れていないと言ってたが、それでもこの威力かよ……」
二人から離れて戦いを見ている俺はカインの魔法を見て驚くばかりだ。カインが使う魔法である火や氷、雷や魔力弾をバカスカと撃ちまくっている事に、俺は内心アイツは手加減していたんだと分かった。
カインが本当に魔王なら、ただの人間である俺が避けきれる訳がない。実際、今アイツが甲冑の男に撃っている魔法は以前見た時と比べ物にならない位に速くて威力もある。
「もしアイツが本気で俺を殺そうとするなら、いつでも瞬殺出来るという訳か」
俺とカインでは大きな力の差がありすぎると、目の前の戦いを見て強く実感させられる。
しかし分からない。この一週間に俺はアイツに色々無礼な事をしていたと言うのにも拘らず、アイツは俺を殺そうとする気が無かったと言う事が。カインはこれまで普通に怒って俺と口喧嘩するだけで、その後からは何も発展せず収まっていた。時折口喧嘩が終わった後は密かに笑みを浮かべている事もあった。
「アイツは一体何を考えて――」
『しまった!』
『いかんカズヤ! そこから逃げろ~!!』
「え? ……げっ!」
疑問に思ってる最中、甲冑の男が焦った声を出し、カインが俺に大声で叫んだのを見ると魔力弾らしき物がこっちに向かって来た。
それを見た俺は咄嗟に『疾足』を使って避けると、
ドガァァァンッ!!!
「うおっ!」
さっきまでいたところが魔力弾に激突した瞬間に爆発した。
しかし爆風までは避けきれずに吹っ飛ばされる俺だったが、空中で何とか体勢を整えながら地面に着地する。
「あ、危なかった……。あと少し反応が遅れていたら死ぬところだった……!」
魔力弾が当たったところを見てみると、そこはかなり大きめの穴が出来ていた。もしあの魔力弾に当たっていたら、俺の肉体は木っ端微塵になっていただろう。
そう思っていると、さっきまで甲冑の男と空中戦を繰り広げていたカインが心配そうに俺の所に来る。
「カズヤよ、大丈夫か!?」
「あ、ああ。何とか無事だ……」
「そうか。それは何よりだ」
俺の返答を聞いてカインは物凄く安堵した顔になっている。
「………カイン。俺の事を心配してくれるのは嬉しいが、今は戦いに専念した方が良いと思うぞ」
「なっ! だ、誰がお前の心配などするか!! よ、余は単に家臣であるお前に今死なれては困るだけだ! もしお前が死んだらあの別荘に住めなくなるからな!」
…………コイツ、ひょっとしてツンデレ? 魔王がツンデレって……凄い違和感があり過ぎるんだが……。
魔王なのに結構人間臭い奴なんだなと不謹慎に思いつつも、一先ずは戦いを集中させる事にした。
「分かったから早く行け。でないとあの甲冑の男がこっちに仕掛けてくるぞ」
「ぐっ……。……カズヤよ! 余は断じてお前の心配などしておらんからな!」
「はいはい」
捨て台詞を言ったと同時にカインは再び空を飛んで、甲冑の男がいる所へと向かった。カインが向かってる最中に俺も甲冑の男を見てみると、奴は何故か攻撃を仕掛ける様子が無かった。しかも武器を構えてる様子も見受けられない。
(どう言う事だ? カインはさっきまで隙だらけだったと言うのに、奴は攻撃を仕掛けるどころか黙って見ているなんて……)
さっきまでの戦いでカインを殺そうと攻撃していた奴が全く動かずに待っていた。まるで攻撃する意思は無いと言う感じで。
あの甲冑の男が騎士道精神を持っているから不意を突くような事をしたくないだけか……いや違う。あれは騎士道精神じゃなく、本当に攻撃する気が一切無い感じだ。それに気のせいか、あの甲冑の男は何故かジッと俺を見ている。兜を被っていて表情が分からないが、それでも何故か気に掛けているような様子だ。
「アイツは一体……?」
甲冑の男の行動が全く分からない俺は疑問を抱き続けるばかりだった。
~カイン視点~
全くカズヤの奴め! 余はただ安否の確認をしただけだと言うのに、家臣の分際で何だあの言い草は! 魔王である余が心配などしとらんわ! 戯けた事を言ったカズヤには、余が直々に仕置きをせねば! 魔王たる余が威厳を見せんと付け上がるからな!
だがその前に………余の家臣であるカズヤに下らん事を仕出かした奴を始末してからだ!
「おい貴様! さっきはよくもやってくれたな!」
「………………」
「ヴォルガードの騎士風情が、余の家臣に攻撃するとは万死に値するぞ!」
「………………」
「最早貴様は塵一つ残さず滅してくれる! 覚悟しろ!」
「……………アイツが無事で良かった(ボソッ)」
「おい貴様! 聞いとるのか!? コッチを見んか!」
「………………ああ、それは悪かった。では続けようか」
「こ、この……! ヴォルガードの騎士風情が……!」
何なのだコイツの態度は!? 余を無視した挙句、まるで今気付いたと言わんばかりな台詞をほざきながら構えおって! ヴォルガードの阿呆は一体コヤツにどう言う教育をしてる! 無礼極まりないぞ!
「……ふうっ。いかんいかん。いつまでも怒っていてはいかんな」
「ほう? てっきり頭に血が上って襲い掛かると思っていたが、意外と冷静だな」
「はっ。感情に流されて攻撃する奴など三流のやることだ。余を甘く見ないでもらおう」
「それは失礼した」
此奴……本当に滅してやろうか? いくら余が敵とは言え、ここまで失礼な態度を見せる奴は今までいなかったぞ。
だが今はそんな事はどうでもいい。さっきから気になる事があるからな。
「しかし貴様、余がカズヤと話してる時に何故攻撃をしなかった? いや、余が貴様に背中を向けた時点で攻撃が出来た筈だ。余を殺すのが目的であれば、さっきのは絶好の機会だったと思うが?」
「…………」
仮に仕掛けたとしても、すぐ対応出来るように余の得意魔法の一つである地獄の業火を喰らわせる予定だったが。
「ふんっ。いくら貴様を殺すのが目的とは言え、背中を斬るのは騎士として恥ずべき行為だから敢えてしなかった。ただそれだけだ」
「本当にそうか? 先程までやたらとカズヤを気に掛けるように見ていただけでなく、余を無視してた時にも小声でカズヤを安堵してた台詞も言っておったが?」
「……………」
余の指摘にヴォルガードの騎士は黙った。いや、言い返せないと言った方が正しいか。
あくまで余の推測に過ぎぬが、此奴はもしやカズヤの事を知っているのではないと思う。何故かその様な気がする。
どうやら此奴を始末する前にやる事が出来た。此奴が何者であるかと言う素性を知る事を、な。
「答えたくは無いか。ならば貴様をボロ雑巾にした後に再度聞くとしよう」
「私をボロ雑巾にするだと? やれるものならやってみろ。本来の力を出し切れない貴様が出来ればの話だが」
むぅ……。やはり余が全力を出せてない事に気付いておったか。それなりに出来る奴だとは思っていたが、まさかそこまで気付くとは。アイツの騎士にしては中々やるではないか。
エルファウストにいれば此奴を一瞬で葬る事は出来るが、この世界ではそれが出来なかった。此処では本来の力の十分の一程度しか出せていない。何しろ此処は余の力の源であるマナが余りにも薄すぎる。何とか余の魔力だけで押してはいるが、それでもやや分が悪い。かと言って強力な魔法を使おうにも、範囲が広すぎて下手をすればカズヤまでもが巻き添えを喰らってしまう。いっそ此処で真の姿になって倒す事は出来るが、そんな事をすれば奴が張った結界が壊れて、カズヤ以外の人間まで巻き込んでしまうから却下だ。
仕方ない。取り敢えず今の余の全力で此奴を撃破する他はなさそうだ。それに家臣であるカズヤが見ておるのに無様な姿は見せられん。
「はっ。貴様など本気を出さずとも簡単に葬ることなど造作も無い。故に今のままで充分よ!」
「そうか。では貴様が本気を出される前に早々に始末するとしよう。ヴォルガード様との修行で編み出した技を使って」
「何……?」
ヴォルガードの騎士の台詞に余は疑問に思ってる中、奴は持ってる武器を構えた。
あのヴォルガードが此奴に修行だと? 一体何の冗談だ? そもそも大抵は家臣任せのヴォルガードが側近を差し置いて、騎士程度の此奴に修行を施すなどあり得ん。奴め、一体何を考えている?
「喰らえカイストラルバーン! これが私の奥義――」
「!」
そう言って奴が武器を振り上げたのを見て、余は何か危険な感じがして下がりながら防護壁を展開する。
「次元斬!」
ザシュッ!
「うぐっ!」
だがヴォルガードの騎士が武器を一気に振り下ろした直後、余とはかなり距離があり、防護壁を張ったにも拘らずに何故か体が斬られた。
「ふっ。油断したな、カイストラルバーン」
「き、貴様っ……! 騎士風情が何故ヴォルガードの技を……! アレは奴しか使えぬ筈だ……!」
「言っただろう? 私はヴォルガード様との修行で編み出したと。とは言え、まだ連続で使用する事は出来ないがな」
「何…だと?」
では此奴はその気になれば、隙あらば次元斬を使っていたと言うのか。くっ、抜かった! まさか此奴がヴォルガードの次元斬を使うとは完全に予想外だった。
こ、これは不味い……!
「どうやら思ったより重傷で、私が使った技が予想外のようだ。残念だったな。しかしいくら貴様が重傷とは言っても手は抜かん。魔王である貴様相手にそんな事をしたら返り討ちにあってしまうからな」
「くっ……」
ヴォルガードの騎士は勝利を確信しているが、それでも一切油断する様子が無かった。あれは最後まで気を抜かない奴のようだ。
くそっ。余とした事が無様だ。カズヤが見ておると言うのに……。
傷を負った箇所を手で押さえながら地上に降りていると、奴も一緒に降りる。
「カイストラルバーン、せめてもの情けだ。死ぬ前に何か言い残す事はあるか?」
「た、戯けた事を……。貴様如きに殺される余ではないわ!」
「そうか……ならば死ねい!」
ヴォルガードの騎士は突撃して余に攻撃を仕掛けようとするので、余は魔法で反撃しようとしたが、
ギンッ!!
「ぬっ! こ、これは!?」
突然ヴォルガードの騎士の動きが急に止まった。
あれはまさか……!
「カインをやらせるかよ!!」
「カズヤ!!」
「き、貴様!」
カズヤが横から攻撃を仕掛けることに、余だけでなくヴォルガードの騎士までもが驚愕していた。
あの馬鹿者! あれほど余が手を出すなと言ったのに! それにあのヴォルガードの騎士が止まったのは、以前余に使った『睨み殺し』と言う奴か! あんなの此奴には無意味だ!
「止めろカズヤ! 逃げろ!」
「調子に乗るなぁ! 人間がぁ!」
予想通りヴォルガードの騎士はもう動ける状態になってカズヤに攻撃を仕掛けて仕留めようとする。
フッ!
「何ッ!?」
「そんな突き、師匠の攻撃に比べたら遅いんだよ!」
何とカズヤは奴の攻撃をかわしたどころか懐に入った。何て奴じゃ!
「喰らえこの野郎!」
そう言ってカズヤは妙な構えをした後、
「『砕牙・零式』」
ズドンッ!
「ぐっ!」
ヴォルガードの騎士の顔面目掛けて正拳突きを喰らわした。それにより奴は一気に吹っ飛んでしまった。
余りの出来事に余は言葉を失うばかりであった。
後編で終わらせる予定でしたが、中編になってしまいました。
次回で必ず終わらせますので、もう少しお付き合いお願いします。
あと出来れば感想もお待ちしています。