応接室にて①
呼び鈴を押してからしばらくして、扉が開いた。扉を開いたのは、頭に白髪が混じった女性だった。たぶん、家政婦をしている登美子さんという方だろう。
「こんにちは、加藤さん。こちらのお嬢さんは、新しく働いてくださる子ね。始めまして。私は、太田登美子と申します」
登美子さんは、深々とお辞儀をした。私もお辞儀をして、自己紹介をした。
「初めまして。私は、佐々木有沙と申します。加藤さんの大学の同級生で、本日はバイトの面接に参りました」
「佐々木さんね。よろしくお願いしますわ。さあ、お入りになって」
そう言いながら登美子さんは、左手で扉を支えながら、右手を屋敷の中に向け、私たちを屋敷に入るように促した。
玲子が、お邪魔いたしますといいながら屋敷に入り、私も後を追うように中に入った。
案内されるがまま、エントランスを抜けて階段を上った。吹き抜けになっている天井からつるされているシャンデリアは、巨大だった。私の家の照明器具が天井から落ちてきても頭にこぶができるくらいだろうが、あの大きさのさのシャンデリアが落ちてきたら確実に潰れて死んでしまうだろう。オペラ座でシャンデリアを落とした怪人が、遠い空想の世界から私の住む現実に足を一歩踏み入れてきた。
案内されたのは、応接室だった。登美子さんはお茶を用意すると言って、部屋から出ていった。
「本当にすごい家だね。ヨーロッパの貴族の館みたいだよ」
興奮気味の私は、隣に座っている玲子に話しかけた。ちなみに私たちが座っているソファーは、ふかふかだと思いきや、意外と弾力があり堅かった。
「私も、最初にこの家に来たとき、そう思ったわ。こんな所に住める人もいるんだなぁって」
「私もびっくりだよ。円山はお金持ちが住む場所ってのは知っていたけど、これほどとは思わなかったよ」
「円山の中でも、トップクラスの資産家だと思うわ」
「円山オブ円山!一生遊んで暮らせそう」
「相続税を勘案しても、孫くらいまで、財産の食いつぶしだけで、裕福な暮らしができるのではないかしら」
「ごめん、相続税制の講義は途中で挫折したからその例え、意味が分からない。どれほどの金持ち?」
「推定の資産と現状の相続税、そして平均の生涯年収から逆算するとね、、、」
カッ、トカン、カッ、トントン。
扉をノックする音が聞こえた。
「お待たせしました。紅茶を入れました」
登美子さんがお盆にティーポットとカップを載せて部屋に入ってきた。
「いつもすみません」
玲子がソファーから立ち上がった。慌てて私も立ち上がる。
「お掛けになってください」
そう言って、私たちに座ることを促し、手際よく紅茶を淹れてくれた。
「玲子さんも、もう卒業になるのね。さびしくなるわね。2年近く大変お世話になりました」
「こちらこそ、長い間、大変お世話になりました。後任の佐々木さんも卒業するまでの間で2ヶ月弱と期間は限られていますので、それまでに責任を持って、後任をお探し致します」
玲子はそう言って、深々と頭を下げた。私が期間限定でバイトをすることをフォローしてくれたのだろう。一方で、卒業したら当然、このバイトを辞めるつもりでいたが、自分の代わりの後任を探すことまでは考えていなかった。
「本当に歴代の文藝部の方々には助けられていますわ」
私は、文藝部ではないのだけれどと思いながら玲子の方を見ると、玲子も私を見ていた。玲子は私を一瞬だけ合わせたと、すぐさま登美子さんの方を向いた。
「すみません。佐々木さんは、文藝部ではないんです。彼女は私の同級生です」
登美子さんは少し驚いたようだが、すぐに微笑んだ。
「それは大変失礼いたしました。文藝部の方とばっかり思っておりました」
「私は、12月に引退をするまで、ラクロスをしておりました」
慌ててて私は自己紹介を始めた。なぜ私が文藝部という風に思われたのだろうか。
「私は早とちりをしていたようですわね。ところで、ラクロスというのは?」
登美子さんは、少し首を傾げた。
「ラクロスというのは、球技です。大学生の間で人気となっているスポーツです」
玲子が補足説明をしてくれたことはありがたいが、球技という説明は、あまりにもおおざっぱすぎるのではないかとも思った。
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