2回目のバイト②
自習室での3度寝をから起き、マーケティングの講義がある軍艦棟に向かう。教室は、前の授業から引き続き受講する人が多いのか、半分くらいの席は埋まっていた。講壇から見て右側、教室の前から二番目の左端に玲子が座っているのを見つけた。
「おはよう玲子、昨日無事に帰れた?」
「有沙、おはよう。普通に帰れたわよ。今日もバイト行くんでしょ?」
「行くわよ。卒業旅行のお金貯めなきゃいけないしね。昨日のバイト代は全部使ってしまったしね」
「そうね。ちょっと贅沢をし過ぎたかしらね。昨日はありがとうね。いろいろと相談に乗ってくれて。彼氏の件は、昨日メールをしてこの週末にお互いに話し合うわ。小説の件は、現在鋭意執筆中といったところかしらね。新しい小説を書き始めて、それを完結させるつもりよ」
「そっか。彼氏は機会があったら紹介してね。二人で撮った写真は必ず見せてね。あと、隣空いてる?」
「席は空いているわよ」
玲子は座っている席の隣に置いていた自分の鞄を持ち上げ、奥に詰めてくれた。
「ありがとう、玲子」
席を着き、先ほど寝てしまってまだ読み終えていない今日の授業部分の教科書を読んでいると予鈴がなり、教授もやって来て授業が始まった。まあ案の定、というか私自身のことではあるのだけれどまた居眠りをしてしまって、気付いたら授業は終わっていた。
「おはよう、有沙。授業はとっくに終わっているわよ」
そういって、私の肩を誰かが揺さぶる。伏せていた顔をあげる。玲子が私を起こしてくれたようだ。
「あら、おでこが紅くなっているわよ。だいぶ爆睡をしていたようね」
私ははっと額に手を当てる。私の寝方だと、額の部分が真っ赤になってしまうのはいつものことだが、花も恥じらう乙女としては、あまりよろしくない状況だ。
「また、寝ちゃったよ。どうしてこんなに眠くなるんだろうね」
「頭を働かせていないからでしょ。お昼だけど、ご飯どうするの?」
「食べよっか。今日は学食に行く?」
「いいわよ」
私たちは学食に向かった。空は雲1つなく青々としている。このままの天候であれば、夜はかなり冷えるだろう。
「外はやっぱり寒いね。教室って、暖房で暖かいのはいいのだけれど、暖かすぎなんじゃない?」
「さっきまで座っていた席は、暖房のすぐ近くだから、余計に暖かかったわね。廊下側に座れば、ちょうど良かったかも知れないわ。だからって講義中寝てしまってよいという訳ではないけれどね」
「自分が寝た事を正当化しようとしているのではないのだけれどね。原因が何かを考察しているの」
「原因は、外部環境にはないと思うわよ。有沙自身が、頭を働かせていない、マーケティングに対して興味がない、授業についてこれる知能がない、寝ないで授業を受けようとする意思がない、授業中に寝るという礼儀がない、授業料を払っていてくれている親に対しての感謝がない、新しい知識を身につけようとする上昇志向がない」
「あ〜わかったよ。もうこの話はおしまいにしましょう」
「あら、わかったわ。最後にもう1つ。原因を分析して改善しようとする意思もない」
「もう虐めないでよ。今日は、何を食べようかな」
中央食堂は、入り口が既に混雑しており、たくさんの学生が並んでいた。学部のうちでもっとも学生数が多い工学部の隣に位置しているため、学食の需要も多い。食堂は、麺類、丼もの、おかずなどのブースに別れ、そこから自分の食べたいものを取っていくシステムになっている。
「私は、月見うどんにするわ」
「私は長崎ちゃんぽんかな」
「あら?長崎ちゃんぽんなんて、いつからメニューに加わったの?」
「最近できたんだよ。ちゃんぽんの中に入っているイカがすごくおいしくて、最近はまっているのんだ」
「私もちゃんぽんにするわ。去年、小説の題材探しに長崎に行ったとき以来食べていないし」
「長崎に旅行いつ行ったの?知らなかったな」
「ふと思い立って夏休みに行ったからね」
「1人で?」
「もちろん一人よ、取材旅行だもの。観光ならみんなで行ってもと思うのだけれど、取材旅行だと気の向くままにという感じだし。」
私たちは、麺コーナーに並んだ。麺物は、揚げ物などのように作り置きができない分、列に並ぶ時間は必然的に長くなってしまう。注文をして、列に二人で並ぶ。
「気の向くままにどこに行ったの?」
「ほとんどが観光地だったけれど、その他にも無人島に行ったわ」
「無人島?無人島に1人で行くなんて、The 玲子って感じ。独自路線だね」
「漁船での往復だし、他の人達もいたから純粋に1人という訳ではないけれどね」
「他の人もいたんだ。なんの取材だったの?」
「もともと旅行の予定にはなかったのだけれどね。敢えていうなら廃墟の取材かしら」
「廃墟?建物が放棄されて荒廃した場所?」
「その廃墟よ。日本で初めての鉄筋コンクリートのマンションが建てられた島よ」
「私には、気の向くままに廃墟に行く心境が分からないのだけれどね」
「まったくの偶然よ。たまたま前日に長崎原爆資料館で知り合った人達が、明日行くというからお願いして同行させてもらったのよ」
「旅行先で偶然知り合った人と、次の日無人島に一緒に行った?」
「そうよ。旅行先で偶然知り合った人と、次の日無人島に一緒に行ったわ。あなたの言い方だと、ラブロマンスを期待している?」
「うん、大いに期待しているのだけれど」
「それはないわ。50歳くらいの女性4人組だったもの」
「がっかり。島はどうだったの?」
「あちこち崩れているのだけれど、廃墟ビルの中に入って見学をしたわ。決まったコース以外は、危ないので入れなかったけれどね。海底炭坑が昔栄えたけれど、廃坑になって今は無人なの」
「住み着く人とかはいないの?」
「いないと思うわよ。真水がない島だし。生きていくには過酷な環境だと思ったわ。私たちの長崎ちゃんぽんできたみたいね」
「水がないと厳しいね。農業もできない。長崎ちゃんぱんは380円だよ」
「値段は知っているわ。そこのメニュー表に書いてあるもの」
「それは失礼。私は、生協カードにお金チャージしてなかったから現金レジに並ぶね」
「わかったわ。私の方が会計だろうから先に席を探しておくわ」
「お願いね」
私は、現金レジに並んだ。現金レジは、現金のやり取りが行われる分、時間がかかってしまう。カードに現金をチャージしておくと便利なのだけれど、1万円などまとまった金額をチャージする余裕もないし、逆に千円など小まめにチャージするのも逆に手間に感じてしまい、つい現金での支払いになってしまう。お昼のように混雑している時間帯は、列に並ぶ時間が増えて、不便なのだけれど仕方がないと思っている。
レジを出て、食堂を見渡していると、玲子が先に私を見つけて手を振ってくれた。
読んでくださり、ありがとうございます。この小説も終盤に突入しております。




