アッティーザ④
玲子と乾杯をして、ワインを1口飲んだ。私の苦手な赤ワイン特有の渋みがなく、飲みやすい。2人のグラスに注がれた後でも、ボトルには半分以上残っている。今日は深酒といっていい水準になるかも知れない。
「玲子の悩みは、なんなの?」
お互いに来た料理に手をつけながら会話をする。
「まだ酔ってないから言えない〜」
素面のくせに酔ったような甘ったるい声をだしてそんなことを言った。そもそもまだ2口しかワインの飲んでいないでしょ。私はあなたが、蟒蛇だということを知っているし。
「じゃあ、玲子、彼氏とかできたの?この際だから、玲子のプライベート聴かせてよ」
いつもは聞いても答えてくれないけれど、玲子の悩みが男関係だったらすんなり答えてくれるかも知れない。
「彼氏はいないわよ」
その答えは、大学1年の頃から何遍も聞いた。
「なんとなく気になる人とか、いい感じの人とかいないの?」
「それはいるにはいるけど、全部セックス•フレンドって感じ」
飲んでいたワインを戻しそうになった。素面のくせにとんでもないことをぶっちゃける。なんとなく男がいる匂いはしていたけど、予想の斜め上を行った。
「え〜と、そうなんだ。全部って何人くらいいるの?」
「今は4人かな。でも、1人とは連絡が途絶えちゃったから実質3人?」
私はため息をついた。
「自分のことなんだから、実質3人?なんて疑問系で質問に答えるのはやめなよ。いいの?それで?」
少し言葉がきつかったかもしれないと思ったけれど、玲子は平然としていた。
「私は、4人とも大好きよ。本当に愛しているわ」
「じゃあ、その4人は玲子のことを真剣に考えてくれているの?」
「そうよ」
玲子は私を見つめた。本当にきれいな顔立ちで透き通った目。その目は嘘を言っていないようだし、それにしても玲子は目力がある。ナチュラルなメイクでこれだけの目力があるのは、はっきりとした二重に、まつげが長いからだろうか。
「なんか良くわからない。その4人が玲子のことを本当に好きで、玲子が4人のことを本当に好きというのは、玲子に都合が良すぎると思う」
自分は自分で空になったグラスと玲子のほぼからになったグラスにワインを注ぐ。玲子は、グラスの半分を飲み干した。
「都合が良すぎることは自覚しているわ。本人達には、ちゃんと私は4人好きな人がいるということは伝えているわ」
「それで本人達は、どういっているの?」
「いつか自分だけを好きになってくれたら良いって言ってくれている。連絡が途絶えてしまった1人は、私の決めきらない態度に愛想を尽かして音信不通になってしまったけれど」
私は、玲子が自分が異性に好かれることをいいことに、男を手玉に取っていると思っていたけど、それは玲子のことを誤解していたかもしれない。
「ちなみにその4人は、どんな人、、、たち?」
私は、好きな人達、と複数形で聞くのは違和感しかない。私もグラスの半分を飲み干して、自分と玲子のグラスに注ぐ。
「全員社会人。誤解されないように言っておくけれど、全員独身よ。不倫の片棒を担いだりはしていないわ」
「それはそうでしょ。既婚者が、いつか自分だけを好きに、なんて言っていても説得力ないし、それをもし玲子が信じていたら、親友として騙されているって全力で忠告するよ」
自分の鼻息がすこし荒いかも知れない。少し酔ってきたのだろうか。
「ありがとう。乾杯しようか」
玲子が笑顔で微笑んでいる。グラスを手にとり、乾杯をする。
「それで、そろそろ悩みを打ち明けてくれない。お腹も膨れてきたし」
「お腹が膨れてきたのは、関係ないでしょ。ワインもまだ半分あるじゃない」
「その半分残ったワインを飲んで酔わないうちに聞いておきたいの」
「分かった。でも、本質的なことは、もう打ち明けちゃったも同然なの。私が4人をみんな好きと言っていることと同じなの。それは自分では分かっているのだけれど、どうすればいいか分からないの」
ワインを片手に下を向く玲子。だけれども私は玲子が何を悩んでいるのかが分からない。
「玲子は、何に悩んでいるの?」
玲子は、顔を上げて私を見つめる。
「有沙は知っていると思うけど、私はいままで小説を書き上げたことがないでしょ。今迄は書き上げられなくてもいいと思っていたのだけれどね。文芸部の部長として、卒業文集に取り組んでいるし、私が少なくとも一遍書かなければならないの。完結した物語を。だけどそれが書けないでいる。それが悩みよ」
読んでくださり、ありがとうございます。




