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待っている  作者: 池田瑛
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帰り道

 キッチンでカップとポットを洗う。洗った後は、きれいに拭いて食器棚に戻しておく。今日は、私が初めてということで登美子さんは、カップとポットを食器棚から事前に出してテーブルに置いてくれたようだと玲子が説明してくれた。カップとポットを収納する場所も覚えたし、明日からも問題ないだろう。


 ボーン、ボーンという鐘のような音がなった。おそらく6時の時報だろうか。


「6時ね。有沙、初バイトお疲れ様」


「あ、やっぱり6時なんだ。食器もしまったし、この後どうするの」


「登美子さんに挨拶して、有沙のお目当てのバイト代を受け取って、帰るのよ」


「バイト代って、現金でもらえるんだ。そういえば振込口座とか聞かれてないもんね」


「バイト代は都度払いよ」


「それはうれしいな。前のバイトは、15日〆の翌月末支払いだったから、月末が苦しくってさ」


「きっとあなたが就職しても、同じことを言っていることでしょうね。給料日前が苦しいって。ご利用は計画的にね」


「分かってますよ」


「給与天引きで貯金するようにしなさいね」


「ちゃんと分かってますよ」


「サラ金に手を出したらだめよ」


「はいはい、分かってますよ」


「保証人にだけは頼まれてもなってはだめよ」


「あ〜、わかってますよ。お母さんと同じことを言わないで」


「あと、バイト代もらったからって、すぐに使ってはだめよ。卒業旅行の資金をためるというのが、目的でしょ」


「もちろん、分かってるよ」


 確かにバイトの帰りに札幌駅で買い物をしてしまい、その日のバイト代を使い切ってしまうということはあり得るかもしれない。明日のバイト代を残せばいいや、今日のバイト代は使っちゃえ、というような悪魔のささやきが予想される。


「わかったのであれば、登美子さんのところへ行きましょう」


 私たちはキッチンを出た。登美子さんの部屋は、2階応接室をさらに奥に進んだところだった。途中にはトイレがあり、バイト中に用を足したかったら、ここですれば良いと玲子が教えてくれた。


 登美子さんの部屋の前につき、玲子がノックをする。


 はい、と登美子さんの返事が聞こえ、扉が開いた。


「加藤さん、佐々木さん、お疲れさまでした。では、お見送りしますわ」


 登美子さんは部屋から出てきて玄関まで同行してくれた。


「加藤さん、小説の執筆が終わりましたら、私にも是非読ませてくださいね。またお時間があるときは、是非佐々木さんといらしてくださいね。佐々木さん、これからもよろしくお願いしますね。これは今日の分です。お2人ともご苦労様でした」


 そう言って、登美子さんは封筒を私と玲子に手渡した。封筒を登美子さんから受け取るとき、封筒には明らかにコインが入っている重みがあった。封筒にはフルネームと金額が書いてある。綺麗な字だ。筆ペンで書かれているようだが、登美子さんは達筆なようだ。金額は、5,400円と交通費が上乗せされていた。ラッキー。


 玲子もバイト代もらえるのか、玲子は何もしていないのにな、と思う反面私が何をしたのかといえば、大して何もしていない。2人にバイト代をくれるというのであれば、ありがたく受け取っておこう。


「それでは失礼致します」


 私たちは、噴水の横を通り、出口に向かう。来たときは余裕がなくて気づかなかったけれど、この道には、雪が積もっていなかった。ロードヒーティングがあるのだろう。もしロードヒィーティングがなかったら、おおよそ幅10メートル、長さ30メートル、300平方メートルの面積の雪かきをしなければならない。大木さんや登美子さんのようなご高齢の方にはきつい作業だろう。それにしてもこの面積をヒーティングするのに、どれくらいの光熱費が掛かるのだろうか。また、屋敷の中も、暖かかった。あれだけ広い屋敷を常に暖かくしておくのも膨大な費用が掛かるだろう。大きな家に住むのはいいが、維持費も大変だ。


「この道、ロードヒーティングするだけで、毎月どれくらいお金がいるんだろうね」


 玲子に尋ねてみた。


「見当も付かないわ。道もアスファルトではなくて、洋館に合わせて、煉瓦模様のステンシルコンクリート使っているようだし、施工費用も高額、維持費も膨大」


「たしかに普通はアスファルトのヒーティングだよね。お金をかけるところが違うね。噴水も止まっているみたいでけど、温水式で冬でも噴水が出るような仕組みになっていたりするのかな」


「この気温で温水なんて出したら、湯気しかでないわよ。噴水というより、水蒸気発生装置みたいになってしまうのではないかしら」


 確かに、気温と水温の差で湯気が出てきてしまうだろう。それはそれで綺麗かも知れないけれど。


「そうかもね。冬に噴水を見たことないかも」


「私も、見たことないわね。どこかにあるかも知れないけれど。真冬の時期なんか、夜に噴水を止めてしまったら、夜の間に水道管の中の水が凍ってしまって、破裂してしまわないかしら」


「確かに。冬の間、毎日水道管の水抜きするのも大変だしね。冬は噴水を止めるのが賢いのかもね」


「だから、この噴水も止まっているのかもね。夏のこの噴水は綺麗よ。噴水とその背後の館がすごく良い雰囲気をだしているわ」


「私も見たかったな。夏にここに来る機会はたぶんないだろうし」


 鉄格子の門を抜けて、私たちは駅へと向かう。薄暗くなった下り道は少しやっかい。登りのように息があがるといったことはないけれど、滑りやすいから神経を使う。私を重力が引っ張り、早く歩かせようとする。その力に無抵抗でいると、足を取られ転ぶことになってしまう。


 玲子に聞きたいことがたくさんあるのに、お互い足下に意識が集中してしまうから、無言になる。


 駅が見えてきた。一度通ったことのある道は、一度も通ったことのない時と比べ、距離は同じなのに感覚的に時間が短く感じるのはどうしてだろう。


読んでくださってありがとうございます。

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