七本目/オークさんとその奥さん~幸せ家族の図
オークは、ファンタジーのやられ役なんて誰が決めた。純愛ショートストーリーだ!
オーク。それは、どんな種族かって?
豚面の野蛮で、汚くて、下品で、貪欲な生物? いえいえ、そんなことは無いわ。昔は、蛮族としての歴史のあるオークも今では、獣人という種族の一つですもの。
オークという種族が誤解される理由は、きっと子供の生まれにあるのね。多種族と子どもを作る場合、とても低い確率だけど、オークとその種族の性質を受け継ぐことがあるわ。基本は、どちらかの種族になるわ。
オークが蛮族と呼ばれた時代に、両方の資質を持つ子は、忌子として生まれた直後に殺されていたそうだわ。
「ママ、ママ!」
「あらあら。どうしたの?」
三歳になる私の娘。白い肌に私譲りの金色の髪と青い瞳。そして、パパと同じピンクの可愛らしいお耳。娘のマールが生きていける時代で本当に良かったと思うわ。
「コルトくんが、ころんでケガしちゃったの!」
「大変ね。今行くわ」
私は、娘の手を引かれてお隣さんのコルトくんが転んだ所まで歩いていく。コルトくんは、膝と額をぶつけたみたいでピンク色の肌に赤い血を滲ませて、涙を堪えている。
「大丈夫よ。――【ヒール】」
「……いたくなくなった。ありがとう、マールのママ!」
「いいのよ」
「だいじょうぶ? コルトくん」
「うん。続きを遊ぼう!」
「うん!」
お隣さんのコルトくんと娘のマールがまた野原を掛け始める。私は、元の位置まで戻り、静かに午後の穏やかな時を過ごす。
そう言えば、オークという種族の話をしていましたわね。
そうですわ。忌子の話ですね。そうしたそれぞれの形質を受け継ぐ所謂――半獣人がオークには居なかったために長い時代、通常の猫や犬、狼や熊の獣人とは別の物として扱われていました。
現代では、オークという種族は様々な偉人を排出しました。
有名なのが、Dr.マルコーニ。彼は、オークの古い習慣である泥風呂という物を研究し、泥風呂には、保湿効果や泥に含む成分によって美肌効果があると学会に提唱した人物です。彼の功績は、死後に評価され、類似した研究テーマをエルフの研究者が発表したのを契機に脚光を浴びたそうです。
またポルコ=ボルコは、その優秀な鼻と巧みなサバイバル能力で様々な場所に趣き、食材を集めたそうです。彼の見つけた食材は、現在でも人気のある食材でこの村でも栽培がなされている程メジャーになりました。多くの王侯貴族など、美食を愛する者たちは、美味しい物を見つけ、調理し、世に広めたポルコを『真の美食屋』と呼んだそうです。
他にも、オークという種は、鍛え方によって様々な資質を有する万能な人を排出する種族でもあります。
私の娘は、ハーフビーストですが、獣人・半獣人に珍しい魔法の魔法の才能を持っています。獣人の魔法使いの割合は三百人に一人と言われていますが、オークの場合は、人間と同程度の百人前後。
また、お隣さんのコルトくんのお父さんは、優秀な鍛冶師・彫金師で村の日用品から町へと持ち込むアクセサリーなど手広く扱う器用な人です。またお母さんの方も優秀な仕立て屋で、娘のマールの服の殆どは彼女が作り上げた物です。少し母親として負けた気がしますが、そのほかで愛情をカバーするとしましょう。
そして、戦士として鍛え上げれば――
「おう、帰ったぞ」
「あら、あなた。お帰りなさい」
振り返ると私の旦那様が立っていました。
肩幅は細身の私の三倍はありそうながっちりとした体。顔つきはキリリと引き締まり闘争本能を今にも剥きだしそうな鋭い牙。
肩に担いだキコリの斧を軽々と持つ腕力。
醜悪なオークは、腹が出て肥え太ると悪し様に言われるがそんなことはない。脂肪の下にもしっかりと筋肉があり、見かけには少し小太りに見えるのが、愛嬌を誘う。私の愛しの旦那様。
「機嫌が良さそうだな。何を見ていたんだ」
「いえ、子どもたちを見ていました」
「隣んところの坊主か。全く、うちのマールに色目使いやがって」
「なんてこと言うんですか」
ふん、とオーク特有の鼻を鳴らして草原にどっしりと座り込む旦那様。きっと、可愛い娘が取られるのがそんなに嫌なのだろうと思い、クスクスと笑いが漏れてしまう。
それにしても――
「あのくらいの子は、可愛いわね」
「俺らも同じ年の頃は、あんなもんだったんだろうな。それが今じゃ肉達磨だぜ」
「あら、私は今のあなた。カッコ良くてステキだと思うわよ」
何言ってやがる、と呟きそっぽを向く旦那様。人間だったら顔が赤くなって分かり易いのだろうけど、オークのピンク色の肌ではそれは分からない。けど、彼の耳がしきりに動くのは、恥ずかしがっている証拠。それが何だかうれしくて小さく笑ってしまう。
「なんだか、こうしているととっても穏やかな気分になるわ」
「そうだな。マールが生まれる前なんて色々と大変だったからな」
「大変だったわね。あの時は――」
マールが生まれる前とは、四年前。
魔物の大発生現象が起こり、この村を含めた国の南部で魔物の襲撃があった。私は、癒し手として戦いに参加し、旦那様も村の義勇兵として戦闘に参加した。
こんな田舎の義勇兵。それもオークだったが、キコリの旦那様の切っている樹は、世にも珍しい抵抗する樹・ストーントレントだ。
魔物のランクに換算するとBランク。一般にストーントレントは、特別な施設の石材や高級な石細工に使われる。また、他にも抗う巨木・暴れる桂や火の吹く薬樹・竜炎樹などを相手にしている高給取りなキコリだ。
そんな彼は、一人大斧を振り回し、一騎当千の活躍し、【迅雷の戦斧】の異名を持つオークとして現代に生きる英雄となった。
「大変だったけど、またあなたと再会出来て嬉しいわ」
「ったく、お前死に掛けたのに呑気な事言ってられるな。それにオークなんて人間には見分けがつかねぇのに何で分かるんだか」
ボリボリと頭の後ろを掻く旦那様にもたれ掛る様に身体を預けると一瞬、緊張した様に体を硬直させる。ふふっ、夫婦になって四年も経つのに、まだこんな初々しい反応をしてくれると嬉しくなる。
旦那様と私は、幼馴染だ。私の父親が行商でそれに連れられ、この村にも寄った時、旦那様とよく遊んだ。その後、私に魔法の適性があると分かり、癒し手としての道を歩み、戦場のもっとも激しい場所に派遣された。
そこで孤立する部隊の救援に駆けつけ、増援が駆け付けるまで戦線を維持してくれた旦那様。
その時、何十年ぶりに再会した時は、最後にあった時の優しい瞳のままだったのだ。忘れもしないわ。
「愛しているわ。あなた」
「お、おれもだ」
もたれ掛ったまま私がそんな言葉を口にすると少し気恥ずかしそうに言いながら、肩に手を回し、抱き寄せる。その肩に触れる手に左手を重ねられればどんなに幸せか。
あの戦いに巻き込まれ、左腕を失った私。それでも愛してくれる旦那様の優しさに感謝してもしきれない。戦いの後、学院や学院経由での冒険者稼業も止めて、今では、周囲の村々を巡る癒し手としての仕事をしている。
「それに、本当に死にそうになったのは、私が救い出された後なのよ。あなたって加減を知らないんですもの。怪我から大分回復した後、初めて同士なのは仕方がないとしても」
「いや、その……本当にすまない」
「クスクス、夫婦生活だとこの話題でずっとあなたを弄れるわね」
「お前なぁ……」
「だって、生娘相手に、獣の様に際限なく襲ってくるんですもの」
「ううっ……」
夫婦間のからかい。子供には聞かせられないな、と思いながらも夫の耳元で囁く。
「そろそろ、二人目とか考えない?」
「っ!? それって!」
「最近、調子が良いの」
私が少し俯き加減で告げれば、嬉しそうな、驚いたような。そして純情な旦那様。彼は、私と対面するように優しいキスをしてくる。今度は、私の方が驚いて目を白黒させる。
「あー、パパとママがチューしてる!」
「マ、マール!? み、見ていたの!?」
「チューしてる。チューしてる!」
もう、この歳の子は、ちょっとした事ですぐに笑う。旦那様もどうしていいものかと視線を彷徨わしているが、決して私に触れた手を離さない。私よりも高い体温のぬくもりに幸せを感じる。
と言う事で、オークの旦那様とおくさま(若妻)の物語。
若妻さん目線のお話です。
普段、エロなニュアンスを含んだ台詞は、小説の中に込めない様に健全第一で進んでいる私ですが、偶にはこんな台詞もあるものを書いてみたい。と思って書きました。美女と野獣みたいな感じですね。