三本目/VRMMOの制作者のログアウト不可ゲーム
『さあ、皆はこの異変に気が付いているのだろう』
私はスクリーンに投影された姿をバーチャルの世界に映しだす。
姿は、純白のマントにフルフェイスの仮面。全身がこのVRMMO【シリカ】の世界観で存在する最強装備の一つ【白侯爵シリーズ】をモチーフにした服装。
『既にメニュー画面で、ログアウトの項目が消えているだろう。あれは私の仕業だ』
音声が町中に居るジャスト一千万のプレイヤーたちのざわめきを拾う。だが、なおも私――ゲーム制作者・本元譲が語る。
『都市伝説である。ログアウト不可。そう、このゲームはログアウトが出来ない。この場に居る一千万人のプレイヤーたちには、ゲームからの脱出を試みて貰う』
何人かが、悲鳴に似た声を上げる。それが伝播し、死にたくない、生きていた。現実に戻せ、俺達を閉じ込めて! と怒声などが私に向けられる。
『安心してくれ。このゲームはデスゲームではない。死んだら、肉体は死にはしない。むしろ、君たちは、ゲームでも蘇る』
淡々と告げる私の声に皆が水を打ったように静かになる。
『私の考えでは、デスゲームなんてナンセンスだ! ゲームは楽しむものだ。死んだら楽しいゲームも苦痛でしかない! 皆は、一度は考えたことがあるだろう? ああ、なんで時間が足りないんだ、ここさえ抜ければ、一区切りつく、何時までもゲームをやっていたい! そう言う欲望を! なら、このゲームで叶えれば良い! ゲーマーの理想郷だ!』
誰かがふざけるな、という。一つのゲームばっか出来ない。現実ではどうなるんだ。との事。
『安心したまえ。クロックアップ。それが軍の学習法として確立している現在。君たちもそれが適応されている。ここでの一日は現実の一分にも満たない。一日では、千四百四十日。四年弱。それだけの時間が君たちにはある。
さあ、死はない、現実には憂いはない。私はこれだけお膳立てをした。君たちは、ゲームのクリアを求めて貰う』
そう、クロックアップがあるから私はこの計画をした。
ここまでお膳立てをして、多くの者がやる気になる。
『だが、私もお膳立てして、そしてクリア条件を提示したのでは、痛みは双方にない。よって、皆にはクリア条件をなしで励んで貰おう!』
その一言に多くの場所で不満が起きる。だが、私は気にしない。
このゲームは、私の最高傑作。楽しみ方は千差万別。最短攻略組なんて存在は要らない。さあ、楽しめ、楽しめ、楽しめ。
『皆に検討を祈る!』
そう言って私の姿は、スクリーンから消えた。
現実世界の私は、一息ついて、マスクとマントを外す。
「お疲れ様です。チーフ」
「うん。御影さんもお疲れ。それじゃあ、また言ってくるからそしたら、クロックアップよろしく」
「はい」
そうして、私はカプセルの中に入り、ログインする。
さ、プレイヤーたち。君たちだけ痛みは与えないよ。私も共に分かち合おう。ゲームでの痛みを。
楽しもう、ゲームを。心行くまで。
こうして、本元譲は――グラークとして世界に降り立った。
ただ唯一ゲームのクリア条件を知りつつ、全く別の行動をとる。
後に『転僧』『呪い姫』『破城鎚』などの二つ名プレイヤーの中に彼の名前があった。
一言『変人』と。
デスゲームって不安がある状態のゲームって怖いですよね。まあ、スリルを楽しむのも良いかもしれません。