16本目/チート量販店・チィアマート
「いらっしゃいませ! 世界の狭間。輪廻転生の中間点――チート量販店・チィアマート。略してチィートとでもお呼びください。わたくし、ここの店主のティアマトです」
チートとマート。そして、私、ティアマトの名前を書けたチート量販店チィアマート。
その美人で素敵な女店主のティアマトは、多くの化け物や神を生み出した母と言う存在で、自分の子供にチート能力を授けて世に生み落したりした人です。
今は、異世界転生専門店を開いて、ご希望にあったチートをとある対価と一緒に頂きます。
「こちらは、様々なチート能力を扱っております。ささ、魔法系から異能系、更には、ステータス系などご覧ください」
そう言って、通されるのは光るガラス玉が並べられたショーケース。
その値段のしたには『ポイント』と書かれている。
「このお店では、あなた様が連綿と続く輪廻で積み重ねた得をポイントに換算して、通貨の代わりに使用できます。例えば――」
身体強化――2000ポイント
魔力強化――2000ポイント
不老長寿――10000ポイント
などなどとずらっと並ぶチート商品の数々。
「このお店のチートは、入荷予定が不定期なので、早い者勝ちですよ。それに、お店自体は、高級志向。ある一定のポイントを所持していないとこのお店には入店できません。最低でも一万ポイントは必要なんです。おおっ! あなたは凄いですね。10万ポイントですか」
今回のお客様は、中々にポイントを溜め込んだ人のようだ。
その人は、前世の記憶を保持したまま転生ができることを知り、ウキウキ気分で店の中を歩き回る。
ハーレム希望、英雄希望、最強希望とその要望に合わせて商品を買い込んでいく。溜め込んだポイントの全てを吐き出す勢いの転生者は、きっかり10万ポイント分の能力を購入して転生を果たす。
「ふふふっ、今まで魂が溜め込んだ得をあんなに吐き出すなんて。まぁ、魂が保持している能力は、次の代には劣化するし、持っている得によって転生先が変わるからね」
さっき言った、高級志向は確かにそうだが、ポイントを持つのは何も人間だけでは無い。魔物や植物にだってポイントはある。
そして、人間種などの知的生命体に転生する最低ラインがこのお店の入店基準でもある。
「あはははっ! 今回の人生は英雄として楽しみ。次の人生は劣化した英雄の能力を刻んだ魂がゴブリンにでも転生するのかしら!」
そうなると、強い力で人間を攫う、人間種の災厄になる。化け物を生み出す母と呼ばれるティアマトは、舌を舐めて、うっとりとした様子でその未来を幻視する。
性悪と言うなかれ、これがティアマトの本質だ。
神でもなく化け物の母。そこでどんな力を持とうと、英雄と評されるか、化け物と蔑まれるかの過程を見て楽しむ。
数多の転生者を送り出したチート量販店・チィアマートの店主の今のお気に入りは、ポイントを殆ど消費せずに、神の座まで辿り着いた男だ。もう、この店には辿り着くことはないが、今は神々の闘争に巻き込まれ、それを楽しませて貰っている。
もう一人の転生者は、完全に引き籠り、完全にその世界とは隔絶した技術と価値観の一人だけの箱庭を作っていた。これ一つが外の世界に流出したら大変な騒ぎになるビックリ箱を作り続ける男に、その解放の瞬間を楽しみに待っている。
前々からタイトルだけ考えていたネタ。折角なので、三十分の即興書きでゴールデンウィークの楽しみの提供。気分転換の意味を込めて