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14本目/エリート魔法学園の落ちこぼれは、卒業後に……


「こんにちわー。今日もよろしくお願いします」

「あー、はいはい。どうも、エレニアちゃん。今日もお願いね」

「はい。腰痛はどうですか?」

「ええ、貰った湿布薬と魔法治療で大分よくなりましたよ」

「それはよかった」


 王都の中層。商人や町人が数多くいるこの町で私は、町の魔法使いをしています。

 お仕事の内容は、簡易治療や町の困り事の解決、魔法の必要な相談事などだ。

 私は、王都の中層に【クレディア魔法店】のお店に住んでいる。だが、魔法店の店主ではなく、ただの住み込みの人で、野良の何でも屋だ。


「エレニアちゃんがこの地域の担当になってからお仕事が丁寧だ。ってみんな喜んでいるわよ。優秀な魔法使いさんね。って」

「そんな。私なんて、魔法学園じゃ落ちこぼれですよ」

「それじゃあ、学園は見る目が無かったんだね」


 腰痛持ちのアリステルお婆ちゃんが、治療を受けながら、くすくすと笑い声を上げる。


「はい。それじゃあ、今日の治療は終わりました。それと何時もの湿布薬です」

「いつもすまないね。また、ギルドの方に依頼を出しておくよ」

「ありがとうございます。また、よろしくお願いします」


 そう言って、次のお仕事へ向かうために、ギルドへの道を歩いていく。


 私のような落ちこぼれ魔法使いは、町の魔法使いとして働いているが、その実、町の魔法使いの商売は人気取りなのだ。

 そんな人気があり、実力のある魔法使いは、貴族や商人からお仕事が舞い込み、高い報酬や予約制など、かなりの高給取りだ。

 私が住んでいる魔法店の店主も町の魔法使いなのだが、海外の依頼で数年に渡り家を空けるので、その間に私が家の管理を任されることになっている。

 店主が高給取りな一方で、私のような落ちこぼれ魔法使いは、冒険者ギルドの処理要員として登録して月々のお給料を貰っている。

 ギルドで処理されないような依頼。主に常時依頼は、常に需要がある一方で安いのだ。それが残ってしまっている場合には、ギルドから処理要員が出向いて、代わりに行う。冒険者とギルド職員の中間。いわゆる、契約社員的な感じだ。


「こんにちはー、ギルド登録処理要員のエレニアです」

「やぁ、エレニアさん。アリステルさんのところの依頼だったんだよね」

「はい。それで次の依頼を受けようと思いまして」

「なら、何時ものこの二件がいいんじゃないかな? トイレの汲み取りと商品の運搬。二つとも何時ものところだから」

「わかりました。終わり次第、戻ってきます」


 ギルドの裏口から入れば、裏方仕事の男性ギルド職員であるブラスさんだ。中年のぽっこりお腹で柔和な雰囲気を醸し出す妻子持ちの人だ。たまに、奥さんや子どもの惚気話をするのだが、結婚とか家庭が非常に羨ましく感じる。


「ああ、そうだ。今日の仕事が終わったら、ギルドで頼みたい事があるんだ。だから少し時間を貰ってもいいかな?」

「? はい。大丈夫だと思いますが」


 何か、お話だろうか。と首を傾げ、頼まれたお仕事に向かう。

 お仕事は、鍛冶屋のニワさんのところで取引先からの鉱石の運搬。

 もう一つは役所からで町の公衆衛生のためのトイレの汲み取り。どちらも女の子の仕事ではないが、魔法を使えばそれほど労力なく扱える。

 鉱石の運搬は、女の子の私の両手に抱えきれない程の量であるが、台車に【軽量化】の魔法を使えば、スイスイを引いていける。

 トイレの汲み取りは、かなり臭うが、【消臭】と【分解】と【加熱】で汚物処理して、人糞肥料に変えて、【浮遊】の魔法で持ち上げて、指定された区域に置いていく。こうすることで役場と契約している郊外の農家が買い取りしてくれるそうだ。


「はぁ、どれも下級魔法なんですよね。トホホ……」


 【軽量化】や【浮遊】は、重力魔法。【消臭】は風魔法。【分解】は、土魔法。【加熱】は火魔法。

 他にも、水や無属性、精霊魔法や儀式魔法、魔法薬学など、幅広い魔法を使い、状況に合わせて依頼を熟すが、その全てが下級魔法。いや、攻撃性がないので下級以下の生活魔法と言える。

 私がエリートで知られる魔法学園に入学できて、落ちこぼれになったのかと言えば、この多様な魔法属性だ。

 適正で言えば、幅広い魔法適性を持っており、将来性を買われたのだ。だが、その実、適正はあるけれど、魔法使いに必要な魔力の放出量という点で私は、大きなハンデを背負っていた。


 下級の攻撃魔法であるファイアーボールを撃つのに、魔力が10必要だとすると、私は、その半分の5くらいしか放出することができなかった。その反対に魔力量だけは、人並み以上にあるために、欠陥魔法使いとして落ちこぼれの道を歩み始める。


 最初は何とか攻撃魔法が使えるように魔力の消費削減を目指して、ファイアーボールを一発撃てるようになったのだが、結局はそこまでだ。

 10の魔力を必要な魔法を半分にすることはできた。だがそれ以上はどうだろうか?

 50必要な中級は? 100必要な上級は、200必要な最上級は……そもそも、手数が必要な並列魔法にだって放出量が決まっている。

 100のリソースがある人なら、10の魔力の魔法を十発撃てる。魔力の消費効率を高めれば、その数が増える。

 だが、元々の戦闘力リソースが5のゴミである私は、それ以上の魔力の消費効率を高めることを諦めて、使える手数を増やすことにした。

 魔法の理論学、魔法自然融合論、精霊魔法講座、魔法の生活活用術、魔道具作成講座。

 初級が辛うじて使える私でも魔道具にして持ち歩けば、それ以上の魔法を使えるのだが、私には魔道具作成の適正はなく、強くない手数だけが増えてしまった。

 そのために、魔道具職人として、生活魔道具を作るという生き方もない。


「生活費や学費を稼ぐために、当時は大変だったなぁ」


 こうした魔力だけは大きいので、田舎から送り出してくれた両親の期待に応えるために、校内での様々なバイトを行った。

 実験用の魔石の補充、冒険者ギルドへの短期依頼、教授のお手伝いなど。

 学内バイトは、特待生や事情のある勤労学生向けの仕事で、これを一定数熟すと学費が割り引かれたりする制度や、休日はギルドへの依頼で薬草採取に出て、自分が使うための物を集めたりする。その時、魔法店の店主とも出会った。

 教授のお手伝いは、攻撃魔法系の授業で一切の単位が取れないために、そうした単位を補うために、授業料が掛らなくて単位の出る方法の一つだった。


「器用貧乏って、友人たちから言われたなぁ。教授たちも卒業後は学園に残って、魔法研究をしたらどうだ? って言ってたけど、パシリが欲しいんだよね」


 はぁぁぁっ、と盛大な溜息を吐き出す。

 学園を卒業したエリート魔法使いは、研究職に進んだり、国の魔法騎士になったり、冒険者になったり。私は、学生時代に作ったコネで引退する町の魔法使いさんからお店の管理を任され、そのままそのギルドの担当地域に入り込む形で就職だ。


「こんにちは。ただいま帰りました」

「お帰り。ちょっと話があるから待っててね」

「じゃあ、ギルドの方で食べ物でも食べて待ってます」


 ブラスさんに声を掛けて、裏手の方からギルドの方へと挨拶をしながら移動する。

 ギルドに併設されたカウンターで軽食のサンドイッチを注文しながら、知り合い冒険者たちに挨拶して、最近の依頼の傾向や外部での冒険のお話なんかを聞きながら待つ。


 冒険者の方々のお話に耳を傾け、相槌を打つ。色々なお話を聞かせて貰った俺に、冒険返りで軽い打ち身や擦り傷を負った冒険者には、手当て(治療というほどの魔法ではないは使えないので)を行ったり、軽い汚れ落としの生活魔法を使ってあげる。


 やれ、オーガの目撃をした。とか、町中では、郊外の牧場が魔物に襲われたなどの話や冒険譚。それから依頼された魔法薬の素材についての相談だ。


「エレ嬢。じつは、うちに指名依頼が来てるんだ。鬼蜘蛛熊の肝の採取依頼なんだが。これは何に使うんだ?」

「えっと、その魔物は、確か魔物学で学びました。熊系の魔物の肝は、滋養強壮によく効きますからその使い道は大体……その」

「おい、Bランク冒険者が何セクハラしてるのよ」


 同じ女性冒険者が軽く非難の声を上げるが目の前の男性は、軽く首を傾げて何か変な事を言ったのか、悩んでいる。


「その、大丈夫です。使い道は、精力剤です」

「その……すまん」

「いえ、ですが使い道としては、その、ソッチの方向じゃなくて、戦場で鼓舞するために服用するケースもあります」


 ただし、使った後で戦場での血の匂いや生命の危機からの生殖本能の刺激と薬の効果によって、一層激しくなる。という話だ。何が、とは言わない。

 そうして、冒険者たちの挨拶が終わり、人の集まりが散ったところで一人の少女がこちらに歩いてくる。

 金髪に魔法使いのローブと分かる格好の少女。ローブには学園の卒業生のみが着れるものであり、同年代の少女は、覚えている。


「あら、見知った顔を見たと思えば、【落ちこぼれ】ですのね」

「あっ、えっと……セレスさん」

「なにをしているんですの? まさか、攻撃魔法の使えないあなたが冒険者を」

「その……ギルドの処理要員でここにいます」

「なら、Fランク程度の実力ですわね。精々、頑張ってくださいな。【落ちこぼれ】で」


 高笑いでもしそうな様子でギルドに依頼報告を終えて、報酬を受け取るセレス。ずっしりと重たそうな袋に入った報酬を見せつけるように一度軽く振って去っていく。


「ありゃ、貴族出身の冒険者だよな」「ああ、最近のルーキーで現在Cランクの魔法使いだ」「火の魔法が得意だとかな」


 魔法使いの冒険者は、圧倒的な攻撃力を持つので、同じCランクでも魔法使いと言うだけでまた一段高く見られる。あと、私は、ギルドランクは、F級の依頼しか受けてないので、現在はEランクですから。それも、Eの依頼を一度も受けてないです。


「おや、どうしましたか?」

「ブラスさん……いえ、なんでもないです」

「そうですか。それでは、実はエレニアさんにお願いがあるんです」

「お願いですか?」

「はい、私の息子が今度ギルド職員の見習いになるのです。その時、ギルドの外回りの仕事を覚えさせるために、エレニアさんの仕事に同行をお願いしたいのです」

「はぁ、分かりました」


 今までも同じようなことがあったり、仕事がまるっきりない時は、ギルドの仕事を手伝わされたこともある。町の魔法使いの仕事と待っているだけではこないための営業だ。


「それとエレニアさんには、ギルドの職員に就職してほしいという意見があります」

「すみません。私としては、今の状況が好きなので……」

「ふぅ、給料がいいのですが、断られましたね」


 いつものやり取りをブラスさんとする私。そうして、私はお店に帰り、一日を終える。これが私の一日だ。


 学園時代では、落ちこぼれと言われたが、それは狭い世界での話で私の働ける場所は、色々な所にある。

 私は、落ちこぼれだけど、楽しく生きることはできている。

 

魔法店の店主(22歳)……海外の貴族からの依頼でお店を留守にするので、エレニアの卒業と共に店の管理を任せる。得意な魔法は、呪詛返しと守りの結界。現在、王族の王位継承争いの護衛を務める。

中年ギルド職員ブラス……息子(16歳)がこの度ギルド職員見習いで就職するので、あわよくば、エレニアと親しくなって嫁にでもと考えている。

学園の教授連中……エレニアの多才な魔法属性と研究職に必要な真面目な姿勢やコツコツと同じ作業を繰り返すところから魔法学の基礎分野の研究者になって貰いたかったが、本人との教授との能力評価の食い違いからスカウトを失敗する。一番の若手教授(20歳)がたまに、思い出したように声を掛ける。

Bランク冒険者(26歳)……二十代でBランクという実力のある冒険者。預貯金ありでそろそろ家庭でも持ちたいと思っているが、いつ死ぬかも分からない冒険者では自身の死後も妻子が野垂れ死ぬのを回避するために生活力があり、そこそこ自分で稼げる能力のある女性を探しているところ、エレニアを見つけ、密かにアプローチを繰り返す。


 どこの乙女ゲーの逆ハーな状況だ! と自分自身に突っ込む。

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