九本目/乙女ゲーって何だろう。造形師になり、好き勝手生きたい
めんどくさい、実にめんどくさい。
何がめんどくさいか? だって――
簡単に言えば、生前やっていたゲームに転生した。だ。
ゲームのタイトルも一応正式名称があったりするが、どうせ分かる人も居ない。また、あんなこてこてなタイトルを言うくらいなら『らぶ学』と略した名前が良いだろう。
それで、自分のポジションはどこか。うん。いわゆる悪役ポジションなのだが、一つ言っておきたい。
このゲームは計画当初、男性向けのギャルゲーと女性向けの乙女ゲーの主人公の性別選択式のゲームになる予定だった。
だが、フルボイスという豪華な仕様のために音源の容量が足りずに、シナリオ追加しての男性向け、女性向けの二つのパターンで発売した。
例えば、サポート役の主人公(男)の友人の名前が櫻井・真人というなら、女性パターンでは、桜井・真琴。と言った感じだ。
そして、自分はライバルキャラであり悪役である東風院・雪人――ではなく、東風院・雪という名前になっている。
うん、まぁ――なんで自分は女に生まれてしまったんだぁ!?
「はぁ、中身が自分じゃあな」
記憶を思い出したのは、性別に左右されていない三歳ごろだっただろうか。人よりも男の子の好きな物である自動車とか、ロボットのようなおもちゃを欲しがり、親を困らせていた。この時点で、前世の記憶が残留していたのだろう。そして、明確に記憶を思い出したのは、自分の(破綻させる)運命を持つお相手。西鶴院・富士彦。
自分がやったのは、ギャルゲーの方の『らぶ学』での攻略対象の一人だ。
女バージョンの富士彦こと、藤子。ゲームでは、藤先輩とか藤子ちゃんとか色々な呼び方をされていた。ちなみに、女バージョンの藤子ちゃんは、某怪盗三世のヒロインと似てやや派手目な感じのグラマラスな女性だ。
「はじめまして、俺は富士彦。よろしくな」
そして、富士彦もその男版ということで体格に優れ、派手目で色々な人を虜にする所謂、プレイボーイだ。それも自覚し、肉体関係は持たないが女の子と良く遊ぶ。
その逆で、ギャルゲー版の藤子ちゃんは、女の子の友達が多い人で頼られる先輩と言った感じだ。まぁ、攻略対象のヒロインが他の男と遊びに行くようなギャルゲーは、幻滅するので制作者側の思惑があるのかもしれない。
まぁ、男バージョン、女バージョンと言って混乱してきたが、何を言いたいかと言うと――
「……自分の趣味じゃない」
初めて会った瞬間に、自然と出た言葉がこれである。
その言葉は聞かれた様子も無く、その後、倒れるように気絶したので逆に騒ぎになって、それどころでは無いのかもしれない。
結果、半日休んで記憶を適応して、自分は動き出した。
「最初から別れると分かってるなら、一人で生きられる術を見つけよう」
そこからは、ゲームと女の自分と前世の自分を自己分析し、擦り合わせ、将来を設定していく。
まず、自分のやった『らぶ学』でのライバルキャラ・東風院・雪人は、所謂束縛系のねぐらキャラだ。金持ち同士の婚約を傘に徐々に束縛していく。とはいってもそれ程酷いものではなく、自分以外の男性とほいほい外出するヒロインに変に醜聞がつかないようにの気遣いだが、それは理解されずにいる悲しいコミュ障。
逆に、女バージョンの雪のことは詳しくしらない。だが、大体想像は付く。
雪の設定は――ヤンデレだろう。華やかな婚約者の裏に立つ暗い女。それに束縛系の女と来れば、ヤンデレが定番だろう。また、華やかで才能に溢れるヒーローに対するコンプレックスなどもあると考えて、自分の成長方針は決まった。
自分は、趣味を極めれば良い、と。そして、それを仕事にすれば良い。
「……習い事、嫌! 自分は乗り物を作りたい!」
五歳の自分が言ったことと言えば、これだ。
まぁ、金持ちの子どもの我儘として、最初は習い事をやりつつ、与えられたお金で人形……というよりもプラモを買った。
戦艦、軍艦、戦車に自動車などのプラモを組み立てるだけだが、お年玉の殆どで塗装や加工用の高価な道具を買って、その技能をフルに発揮する。
前世は、金が無かったために揃えられなかった道具を金に任せて、揃え、かなりの物を作り上げる。
「やっぱり、模型と言ったらジオラマだよね。今度、コンテストに参加する作品をつくらないと。でも今はガレキの改造依頼も来てるんだよね。足りない資金を調達するために良いバイトなんだよね」
と言うことで、作り上げたプラモや模型に塗装し、舞台を作り、ジオラマを作成。この頃には、人型のガレージキッドなども作るようになり、常に爪は汚れ、作業用のエプロンと女子力皆無の別の意味でのねぐら女子が出来上がった。
これが13歳の女子だ。大分、女子力もない。さぁ、そろそろそっちから婚約解消をして欲しいものだ。家同士の繁栄のためではなく、祖父母の約束事なのだから。
「婚約者が来たのに、話す内容はそれか?」
「何を不機嫌そうになっている。自分は、君との共通の話題を持ち合わせていない」
「色々作ればいいじゃないのか? というより、会うのに何でユキはそんな格好なんだ」
「それは、自分の戦闘服だ。作業用のツナギ、目を保護するゴーグル、汚れたエプロン。どうかね?」
「おまえなぁ、少しは身嗜みに気を遣えよ」
「ふん。そんな言葉は、学内のカースト底辺で燻っている原石女子にでも掛けるんだな。私は、この趣味に誇りを持っている」
この数年で随分と本来の自分と離れた感じになってしまった。
口調も一人称は、自分。女らしさもない。一応、金持ちパーティーのマナーのための猫かぶりはできるが、指先を見られないために手袋を着用だ。
「それなら、もう少し認知されるものを作れよ。そんな水着を削って裸にするような……」
「人間の欲望に直結するものほど、人は金を出す。こんなんでも良い仕事だ」
また、フィギュア作成だけでちょっとした小遣い稼ぎが出ている。
ガレージキットでオリジナル数十万、既製品の魔改造依頼で十数万、更に、コンテストの入賞で数万。量産用のためのフィギュアの型に数十万。
一か月に作れる量も決まっているために、収入は安定しない。また、自分の趣味のプラモやジオラマなどをやっている。
「そんな趣味よりもっと楽しい物があるはずだろ。ほら、今日は映画にでも見に行くぞ。欲しい物を買ってやる」
「面倒だ。それに自分は、趣味で稼いでいるんだ。男に金を出して貰うつもりはない」
学生関係からの依頼では、スマホのデコレーションなども金持ち対象の依頼として受ける時もあるために、ねぐらだけど苛められることは無い。むしろ、学園のお姉様方のメインアイテムを作り上げる隠れた職人として、可愛がられてお嬢様方の親の関係会社の招待券やチケットなどを貰った。
一度、大型テーマパークのジオラマを作るために貰ったチケットで取材へと行き、お礼に小さなデフォルメマスコットを作り返したら、何故かそれが原型となったお土産が出来た話もあった。
原型の買い取りではないために、一個売れるごとに、売り上げの数%が入って来るが、継続的な売り上げになっている。
どうやら自分の作品は、無名のブランド化しており、学園の闇オークションでの取引がされていた。一度、おふざけでどこにも出していない完全新作を何食わぬ顔でオークションに出したら、とんでもない金額になって、後日利益還元と称して、 購入者とその親しい友人たちと一緒に誘い、話題のケーキバイキングへと行ったのは記憶に新しい。
「じゃあ、服を買おう。外出するにもその服じゃあれだろ」
「……まぁ、それくらいの常識は残っている。というか、何故私に執着する?」
「一応、爺さんたちにせっつかれたからだよ! 孫たちの様子を聞きたいって」
「なら仕方がないな。お爺様たちには、この変な趣味を承認して貰っているし、安全のための手回しとかをしてくれている」
「俺の言うことは聞かないで、爺さんたちのことは聞くんだな」
「ふふっ、自分はこれでもお爺様たちの楽しみを奪うほど野暮ではないと思っている」
「なら、俺の気持ちに気付きやがれ――」
「何か言ったか?」
自分は首を傾げて、富士彦を見上げる。同じ中学一年だが、身長に大分差が生まれており、見上げる形になる。
「なんでもない。ほら、一応、この服に着替えろ」
「はいはい。これまた自分に似合わない可愛らしい服を買って来たな」
「それから美容院を予約しといたから」
「はぁ……結構、他人に体を触られるのは精神的に疲れるのだが――」
「いいから行くぞ」
そうして、体格差から引き摺られるように富士彦に連れ出される。ちなみに、毛先だけカットして、ヘッドスパをして貰ったら、気持ち良くて寝てしまった。
終わった事を美容師に伝えられ、寝ぼけ眼で富士彦にデートと称して色々と連れ回された。
それから四年後――
あれから成長も止まり、ゲームの時の雪の立ち絵よりもやや幼い感じになり、雪の隠れた妹と言った感じだ。かたやヤンデレヒロインだとしたら、私は、ねぐらな毒舌妹と言った所か。好き勝手、趣味に生きた結果が発育に必要な運動量不足になってしまった。
「ヒロイン登場ねぇ」
とうとう乙女ゲーとしてのヒロインの登場だ。記憶が戻った当初は、男で攻略側に立ちたいと思ったが、今では、めんどくさい。になった。また、邪魔するつもりはないが、スマホデコレーションやフィギュア作成の依頼で繋がったお嬢様ネットワークによりヒロインの動向は大体わかってしまう。また、富士彦の動向もだ。今日は、2-Dの高間さんと放課後デートか……
「対象の情報を集めるって、まるでヤンデレのようだな」
「あら、ヤンデレヒロインなのだから当然じゃなくて?」
「嫌な事をいうな。私は、この混沌としたゲームをどれだけ平穏に生きるかだ」
声を掛けて来たのは、俺と同じ転生者の南星・綾子。攻略対象である北都・晃の恋人でライバルキャラだ。
北都・晃の女バージョンである明は、唯我独尊系ツンデレヒロインだが、男の場合は、俺様系生徒会長とかだろうか。正直、女なら萌えられるが、男なら鬱陶しいタイプだ。それをこの女は、好みで綾子として生まれたから絶対死守すると恋人ポジションを守り通している。
「それで、ヒロインの状況は?」
「目的不明。行動に転生者としての違和感はない。出来れば、一番平穏なライバルキャラなしの別れた幼馴染ルートにでも入ってイチャイチャしてくれ。って気分だ」
「けど、ゲームのルートってシナリオライターごとに書いているから微妙な差があるわよね。もしかして、多重人格者のパターンは?」
「怖いこと聞くな。もういい私は帰る。帰って、今度のミケのガレキを作らなきゃならない」
「ふふふっ、新進気鋭の造形師は忙しいわね」
自分の背中に笑いを投げかける綾子を無視して、帰宅する。
頼むから自分の好きってに生きさせてくれ。
俺たちの戦いはこれからだ、END。さぁ、どんな物語を繰り広げるのか。単なる短編です