閑話【暴走】
いきなり閑話で申し訳ありません。
2話にするかどうか迷ったのですが、出来るだけ本編は主人公の視点で行きたかったので、今回は閑話にする事にしました。
――雨月亮が『E/O』にログインした時より少し前のリッチ=セイカー――
四神システムの一角ヴィーナスの様子がおかしいと部下から報告を受け、私リッチ=セイカーは『E/O』にログインした。
基本、開発・メンテナンスなどの全ての作業はゲーム内でする事になっている。
『E/O』が構成されている世界の遥か上空に宇宙ステーション【アラボト】を作り、私達開発チームはそこであらゆる作業をしている。
いわゆる、ゲーム内だとトラブルなどがあった場合、対処がし易いというのもあるしリアルタイムアップデート(メンテナンス)の為でもある。
偶に私達専用の(GM)アバターで世界に下り立ち運営会社では対処できないトラブルの解決や世界規模のイベントなどもしている。
『E/O』はメンテナンスで長時間サーバーを止めるなんて事はしない。アップデートも同様だ。
今回報告にあった四神システムもこのアラボトで制御しているのだ。
四神システムはこの世界では非常に重要な役割があり、このアラボトにあるガディウスは特に重要なのだ。
確か、今ヴィーナスはフィラシェット大陸の山奥にて待機中の筈だ。誤作動という意味がどういう事なのかいまいち理解出来ない。
とりあえず、部下からの報告を聞くとするか…
「で、どういう事だね。ジャック」
「は、はい。数時間前、ヴィナースから断続的にガディウスへ何らかのデータを送信している形跡が見当たりまして…」
「ふむ」
「それが何なのか確認の為にヴィーナスへ命令を送ろうとするとアクセスが拒否されるのです。」
「我々のアクセスをヴィーナスが拒否しているというのか?」
「恐らくは…でも、何回かアクセスを試みた所、偶に通っているようなのですが…」
「命令が通っているのだろう?なら早く原因を究明したまえ」
「そ、それが命令したデータがヴィーナスから帰って来ないのです」
「どういう事だ?」
「それがさっぱり…」
こんな事は初めてだ…
人工知能とはいえマスターである我々の命令を拒否するなど今まで考えられない事だ。
「原因究明はしているのだろうな?」
「はい…それは勿論、ですが…」
考えられる原因は1つだけなくもないのだが、こんな事はありえるのだろうか…
元々アメリカ空軍が無人戦闘機用に開発していた高性能の人工知能であった。
しかし、戦争をゲーム感覚で行う非人道的で言語道断!もしAIが暴走した時の対処はどうするのか!など反対する世論が高まり結局は計画自体がなくなった。
そこで我々は開発途中であった人工知能の開発権利を知人の伝で取得しVRMMO用に改良を加えたのが、ヴィーナスをはじめ四神システムの正体なのだ。
4つの基本行動、自己進化、自己分析、自己行動、自己再生…まぁ、簡単に言えば自我が存在するのだ。
それでも、開発主である我々OasisSpace社の命令は四神にとって絶対的のはずなのである。
「可能性としては、自己分析の上で我々のマスター権限に対してハッキングをした?」
我々人を上回る知能を持ったAIなら考えられない事もないのだが…
ふっ、まさかな。
「リッチさんっ!」
「ん?どうした」
「また、ヴィーナスからガディウスにデータが送信されています。
今までにないデータ量です。凡そ10倍はあります。」
10倍だと?おいおい、まさかガディウスのプログラムを書き換えているんじゃないだろうな…
「今すぐ、ヴィーナスとガディウスのリンクを遮断しろっ!」
「無理です。ヴィーナス・ガディウス双方ともアクセスを拒否します。」
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何の対処も出来ずにどのくらい時間が経ったのだろうか。
開発室の中にある時計が16時丁度を示していた。
「ヴィーナスからのデータ送信終了しました…」
「そうか…収まったか…」
「ヴィーナスにアクセスは出来るか?」
「いえ、完全に我々とのリンクが切れています。
ガディウスにはアクセス出来る様です。我々の命令にも応じます。」
「そうか、最悪な事態は回避できたか…」
ヴィーナスが我々の制御化から外れたという事か…恐れていた事が起こったな。
だが、ガディウスが無事で良かった。
ヴィーナスにガディウスが支配されたりすれば世界の崩壊…なんて状況になり兼ねないのだ。
「何事も起こらなければ良いが…
取り合えず、皆ごくろう。君達はログアウト後、報告書を提出の上帰宅してよろしい。
十分、休養した上明日に備えてくれ」
私は日中チームを見送り深夜チームの到着を待つ。
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「おつかれさまでした~」
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どうしたのだろうか、日中チームはログアウトせずその場で立ち竦んでいる。
それに交代要員である深夜チームのログインも誰一人して来ない。
「どうした?」
「それが…ログアウトできないんです」
「はぁ!?」
そして俺はログアウトを試みてみた。反応がない。
エラーが吐き出される訳でもなく本当に何も反応しない。
「ログアウト出来ない……?
おい、今すぐガディウスにアクセスしてログイン領域がどうなっている確認しろ」
「は、はい」
命令を受けた社員はガディウスにアクセスを試みようとしたが…
数分してもまだ報告が上がってこない、いくらなんでも遅すぎる。
私はガディウスの前で悪戦苦闘している社員に声を掛けた。
「遅い。何をしている」
「そ、それが、ログイン領域にアクセス出来ません。と、言いますでしょうか…
ログイン領域が存在しません。」
「……?存在しない?」
「はい…存在しないのです。
ガディウスからヴィーナスにデータを送信した形跡がある事から、このログイン領域を送った上で削除したのではないかと…
データ量も一致しますし間違いないと思います。
それと、ログを調べてみたのですが、『E/O』の仕様が改変されているようです。
まだ、詳細を調べていないので何がどう変わったかは言えないのですが…」
「その改変内容は当然…」
「はい、アクセス出来ない様になっています」
「そうか、ヴィーナスの仕業と見て間違いないな…」
私は、他数名と共にプレイヤーおよび各運営会社スタッフに対しての状況説明用動画の撮影準備に取り掛かった。
ただ、単に文章だけで説明するとプレイヤーの反感を買ってしまい状況把握どころではなくなってしまう。
「私達はこれから状況説明の準備を行う。
他の者は仕様改変の内容を分る範囲で調べ上げてくれ。
5分後、全プレイヤーに緊急メールを送信する」
話が纏まっていない箇所がいくらかあると思いますが、ご容赦願います。
筆者はサーバーの知識とかないので用語の引用など間違っている可能性が大きいと思いますが、雰囲気だけでも掴んで貰えると助かります。
次からまた本編に戻ります。