第37話【有志】
少々長くなってしまいました。
さて、オウミという都市は、商人や職人が多く集まり活気のある平和な街に見えるが実はそうではない。
騎士や傭兵のプレイヤーにしか現段階では知らされていない事なのだが、
このオウミから南西方向にある小さな街が100レベルオーバーのMob複数体に襲撃され壊滅している。
改変後に出現した街らしいので、どういう町なのか俺は知らないが少なからずプレイヤーもいた筈だ。
で、街を壊滅させたそのMobがまっすぐこちらへ近付いているという話だ。
今まで事例からするとMobの数はもっと多い筈なので、プレイヤーの間で前哨部隊じゃないかという噂が広がっている。
つもり、時間を置いてもっと大規模なMob群が襲ってくる可能性があるという事だ。
最近は、グレゴリも混ざっている報告があるのでプレイヤーやイスカ王国つまり元運営の緊張が高まっている。
「どう思うよ。アキラ」
「どう思うとは?
本隊が別にいるのかという事か?」
「もしくは、グレゴリが混ざっているかどうか…
という事じゃないか?」
「俺っちとしては、両方危惧しているけどな」
「そうだな。
本体は恐らくいるだろうけど、グレゴリの方は…いない事を祈ってるよ」
「俺も同感だが……一度手合わせしたいという気持ちがない訳じゃない」
「相変わらず、イオリは根っからの戦闘狂だな」
俺達3人は、専ら意見交換の場となっているオウミで一番大きな酒場で昼飯を食べている。
今は、昼という事もあってそんなに人が集まってはいないが、夜となると傭兵に加えて騎士のプレイヤーもやって来る。
で、現在、酒場で一番の話題といえば南西にいるMob群だ。
イスカ王国でもレベルの高い少数の騎士が偵察に行ったらしく、全部で12体おり全てレベル100オーバーでその内の2体がLv130オーバー、
そして、3体ほどレベルが???で表示されていたという事からレベルが150を超えているとの報告が昨日あった。
ちなみに、昨日俺達が討伐した黒いMobのようなハグレMobが他でも報告されているが、どうも突発的に出現し適当に暴れまわった後、どこかへ飛び去っているようでMob群には合流しないようだ。
で、俺達がここにいる理由は、情報収集と昼飯以外に特にやる事がなかったので夜までここで待つ事になった。
夜に何があるかというと、国家主導の下この酒場で有志を募り早朝にMobの討伐へ向かう予定で、無論俺達3人もそれに参加する。
ちなみにオウミに駐在する騎士は、都市の防衛をしなければならないので戦力外だ。
周りを見渡すとそれに参加するだろう傭兵がちらほらと見受けられる。
「ねぇ、貴方達も討伐に参加するの?」
「…そのつもりですよ」
長身の女傭兵が俺達のいるテーブルにやってきた。
得物は……へぇ~珍しいな銃使いか…。
「あら、そんなに珍しいかしら?」
俺の視線に気付いたのか、彼女は自分の得物に手を掛け愛でるように摩る。
「相手が騎士なら兎も角相手が賞金首や傭兵ではまず当たらないからな…」
「もしかして、え~…っと」
「ああ、イザベラよ。宜しくね」
「宜しく。もしかして、イザベラさんって『第六感』持ちなんですか?」
「ええ、そうよ」
『第六感』とはユニークスキルの1つだ。
両利きや才能系に並ぶ後天的に習得できず『血の記憶』でも開花するのが困難な先天的スキルなのだ。
ぶっちゃけ、この『第六感』がないと銃系は、おもちゃの鉄砲いや銃身の曲がった銃と同じ扱いになる。
銃は、剣と魔法の世界では異端すぎる武器だ。
射程が長く威力も抜群で中には魔法に匹敵する銃さえ存在する。
そこで、OS社はカウンタースキルを用意したのだ。
それは、傭兵なら誰もが習得している『気配察知』でそれにサブ的要素として付け加えたのだ。
本来の目的ではないにしろ賞金首と傭兵のほぼ全員が習得している事から
銃が当たらない武器として定着してしまう原因になった。
その事からOS社はサービス開始から僅か半年でそれを払拭するスキルを用意、それが『第六感』という訳だ。
さて、『気配察知』のサブ的要素と『第六感』について説明しよう。
『気配察知』のサブ的要素とは、つまり銃に狙われていると知らせてくれる機能という訳だ。
Lv1の段階だとアラームで警告をするだけなのだが、レベルがあがると方角が分るようになり、さらに上がると射線が見える。
最終的に狙っている者がハイライトで見えるようになり、撃つタイミングまで分るという訳だ。
『第六感』の方だが、主としては、銃などの射撃系の【狙う】動作を省く機能が標準で備わっている。
いわば、オートエイムで【構え】⇒【撃つ】で攻撃ができるようになる。
(とは言え、ただ単にオートエイムという訳ではなく、適切な立ち回りが必要だが)
簡単に言えば『気配察知』が機能しないようにするスキルだ。
そして、レベルが上がれば機能が鬼畜性能に変わっていく。
ターゲット出来る数が増えたり、オートエイムの精度が上がったり、果ては見えない距離の敵や姿を消した敵を狙えたりする。
サブ的要素も結構鬼性能で、『第六感』のカウンタースキルという役目がある。
簡単に言えば、『第六感』持ち同士が戦うとお互い【バレットタイム】が自動発動する。
【バレットタイム】中は、弾に衝突属性が付くので、お互いに撃ち落しあいみたいのが頻繁に発生する。
ちなみに、射撃武器以外では【狙う】動作を省く機能が発動しないが、カウンタースキルの機能は発動する。
その為、相手の撃った弾を弾いたり斬り落とす事が可能になる訳だ。
まぁ、奇跡的に習得しても成長し難い為『血の記憶』が溜まり難く、以降のキャラでも習得困難なスキルに入る。
そういう事で銃使いを見掛けたら、初心者か『第六感』持ちかのどちらかしかいない程、E/Oでは銃使いが非常に珍しい。
「そりゃ~、珍しいな。
俺っちは、1人しか知り合いにいないしな」
俺は一人もいないっての。
「ふーん」
対して、イオリは興味がなさそうだ。
「珍しいですよ。
でも、見た限りではイザベラさんの得物ってハンドガンですよね?
いくら『第六感』持ちとはいえ、Lv100オーバーのMobには心許なくないですか?」
「そうね…。でも、私には切り札があるから…ね」
イザベラさんがそう言うと腰の後ろに手を回し、頑丈な皮革で出来たホルダーから取り出したのは『アームズ』と呼ばれる銃火器の最高峰で”決戦兵器”と呼べる代物だ。
戦争イベントで使っている所をちらほら見た事があるが、実際に間近で見たのは初めてだった。
『アームズ』とは、魔導銃や魔法銃と言う部類の銃だ。
原理で言えば、小さなカプセル状の筒に圧縮した魔力を注ぎ込み専用の銃で解き放つ武器だ。
決戦兵器と呼ばれるように、武器としては非常に強力で1発で1軍を消滅させる程の威力を持つ。
とは言え、それに反して非常にコストパフォーマンスが悪く個人で所持出来るのは、専ら[Mass]級か良くても[Normal]止まりだ。
メンテナンスも然ることながら強力な弾が希少な事もあり高価なのだ。
ちなみに、『アームズ』には、2種類に分けられる。
いや、2種類というのは語弊があるかも知れない。
生産国が2つあると言った方が良いだろう。
それは、カルディオ王国とモルディオ自治領区の2国となる。
まぁ、実際はモルディオ自治領区もカルディオ王国の中にあるのだが…。
でだ、カルディオ王国内で造られているのは、汎用性に優れた『アームズ』だ。
分りやすく言えば、一般兵士用と民間用の『アームズ』という感じだ。
使いやすさと生産性を重視していて、ほとんどは等級が[Normal]と[Mass]だ。
ちなみに、NPCの量産級[Mass]は、大量生産という意味でファクトリー級とも言われている。
対して、モルディオ自治領区で造られている『アームズ』は、特殊部隊用とガンフリーク用という感じだな。
カスタマイズ性とワンオフを重視していて、等級は[Rare]がほとんどだ。
しかも、店頭に並んでいる訳ではなく職人に0から造って貰う形で、正に自分専用の『アームズ』が出来る訳だ。
その為、値段が傭兵から見ても天文学的数値になっている。
だが、現段階で『アームズ生産』とアームズのレシピは今だ発見されていないので、今の所『アームズ』はNPC製がほとんどだ。
強力な弾が希少なのもここに起因する。
市場に出回っている弾は、9割方[Mass]級で威力はコストの割りにはそれほど高くない。
決戦兵器として使用するなら[Normal]級以上ではないと価値がない訳だ。
ついでに言うと、『アームズ』の等級以下の弾は使用できない。
つまり、[Rare]級の『アームズ』では、[Normal]や[Mass]の弾は使用出来ない訳だ。
「『アームズ』ですか…」
「ええ、まぁ…、ファクトリー製の安物なんだけどね。
でも、切り札として使うからには、弾は良い物を使っているわ」
彼女がチラリと見せた弾には、カルディオ王国やファクトリーの刻印がなかった。
即ち、[Normal]や[Rare]の弾という事だ。
「ところで、イオリさんって言いましたっけ?
もしかして、貴方も『第六感』持ちだったりします?」
「……何でそう思うんだ?」
「あ、いえ。
確信がある訳ではないのだけど、そちらの二人に比べてそれ程驚いていなかったみたいだし…。
自分で言うのも何ですけど『第六感』を持っているというだけで、ほとんどの人は同じ反応だしね」
「……ふ、ご名答、持ってるよ。
ま、一度も使ってないけどな」
「「え!?」」
マジで!?
そんな素振りを一度も見せな……ああ、だから一度も使っていないという訳か。
イオリは、イスカ刀一筋の戦闘スタイルだ。
それに、相手に誰も『第六感』持ちがいなかった事からカウンタースキルとして一度も発動しなかったという訳だな。
「やっぱりね。ところで…」
俺達3人とイザベラを加えた4人で雑談を織り交ぜた情報と意見の交換をしている間に夕方へと差し掛かり、酒場に集まってくるプレイヤーの数が大分増えてきた。
中には、一般の客もいるようだが、見るからに傭兵と思しきプレイヤーが多くいる。
すると、その中に見知った顔がいた。
向こうもこちらに気付いた様で近寄ってくる。
「いやぁ~3年ぶりですか…。アキラさん。
今日は、アヤカ殿はおられないのですか?」
「アヤカとは3年前から別行動ですよ」
「なるほど…。あ、もし良ければご紹介願いますか?」
「良いですよ。
んじゃ、みんな、情報屋のヒューイ=カーバインさんでOS社と協力している一人だ」
「皆様、宜しくお願いしますね」
「宜しくな。俺っちはアーギュスト=フォーカスだ」
「よろしく…。イオリ=シチグサだ」
「ふむふむ、なる程。そちらは?」
「あ、えっと。私はイザベラ=ロイナスよ」
「ああ、《閃光のイザベラ》で有名ですよね。お会い出来て光栄です。
流石アキラさんですね、交友関係が本当に素晴らしい」
「そうかな。まぁ、イザベラさんとは今日会ったばかりですけどね」
「というか、何で情報屋がこんな所に来るんだ?」
「情報屋のやる事と言えば1つしかないじゃないですか。
まぁ、今日は騎士団の方に依頼されまして出向いた次第ですけどね」
「依頼?」
「ええ、そうです。あ、来たみたいですね」
ヒューイの視線の先に入り口から入って来たばかりの3人騎士がいた。
先頭にいるのは40代半ばの騎士でその後ろに2人若い騎士がいる。
若い騎士の内の1人は、以前から出入りしていた騎士でプレイヤーだ。
恐らく、残りの2人もプレイヤーだろう。
「では、私はあちら側なのでこれで失礼しますね」
ヒューイは、騎士達の傍まで行き先頭にいた騎士に挨拶を交わす。
先頭にいた騎士は、酒場全体を見渡せるカウンターの中央付近まで歩いて行きこちらへ向き直した。
「傭兵の皆様方、このオウミを守る為に集まって頂きイスカ王国を代表して感謝致します。
私は、今回の討伐作戦の総指揮を任されましたイスカ王国サイキ第三騎士団の団長イッセイ=アサクラと申します」
「副団長カオリ=シチグサ」
「同じく副団長シンゴ=アズマです」
先頭の騎士こと団長のイッセイに続いて両脇に付いた若い騎士二人も簡潔に紹介をした。
と言うか…シチグサ?
「なぁ…イオリ」
「……相方だ…」
なるほど、ヤグモでプレイしていた時の相方か…。
廃人仲間の一人でカナ=オウマという名前だったか。
以前は傭兵だったが、今回は騎士でプレイしているのか…。
ちなみに、基本プレイヤー同士で結婚した場合、子供キャラは必ず双子として生まれてくる。
で、片方ずつ次のプレイヤーキャラになる訳だ。
それにしても、イオリと同じ年齢だろうからまだ18歳だろ。
すでに副団長の座に着いているっていうのは大出世だな。
「尚、今作戦のアドバイザーとして情報屋のヒューイ=カーバイン殿に来て頂いております」
「皆様、よろしくお願いします」
「皆様方の多くは知っておられると思いますが、情報屋の方々はOS社と協力して情報を収集しておられます。
今回我等が偵察したMobについての情報もお持ちのようなので説明して頂きます。
では、宜しくお願いします」
ヒューイは、騎士達よりも1歩前に歩み出た後、肩に下げた鞄から資料らしき紙の束を取り出した。
「まずは、一番レベルが低いと報告にあったMobですが、形状から”変種アナザーグリフォン”であると思われます。
これは、2週間前に華朝連邦で目撃されており攻撃方法・弱点などはアナザーグリフォンと変わりません。
属性は闇と風と思われますので、ブレスなどの特殊攻撃には注意が必要と思われます」
アナザーグリフォンは、ドラゴンを除けば最強の部類に入るMobだ。
俺も数度倒した事があったが、空中を高速で飛び回り滅多に地面に降りない事から厄介な相手だと認識している。
「次に、Lv130超えと報告にあったMobは、形状から”変種グリムドラゴン”であると思われます。
これもアナザーグリフォン同様通常のグリムドラゴンと特性は同じです。
属性は、闇と地である思われますが、1ヶ月ほど前に現れた際、
禁呪らしき魔法を使用しようとしたという報告がありますのでご注意下さい」
グリムドラゴンは、飛ばない龍で非常に鈍重だったのを覚えている。
が、鱗が周辺の鉱石と結合して非常に硬かったのと、毒ブレスが厄介だったのを覚えている。
とはいえ、鱗と結合した鉱石が希少な物が多かったので結構狩りの対象になっていた。
「最後にLv150超えと報告にあったMobですが、形状から予測できるのは3体の内の1体のみとなっています。
残念ですが残り2体は今だ報告のないMobです。
では、最後の1体についてご説明します。形状からの予測ですと恐らく”変種カラミティドラゴン”と思われます。
半年前にアグノス王国の要塞都市ミグラスと周辺の街を破壊尽くした後に飛び去ったMobです。
通常のカラミティドラゴン同様で多種多様なブレスと範囲の広い尾による攻撃がメインと思われます。
が、他の変種同様で闇属性が追加されている事とサイズが二回り大きい事から注意が必要です」
………これ倒せるのか?
確か、通常のカラミティドラゴンでさえ倒すのに百人の傭兵・騎士と数百人のNPC騎士と8割の犠牲者を出しやっと倒せたMobだぞ。
ちなみに、イベント用のMobで通常では出現しなかった事もあり、弱点らしい弱点も見付けられずゴリ押しで何とか勝てた。
今回は、唯のカラミティドラゴンでもないし討伐隊に集まった人数なんて精々50人強だ。
「と、言う事だ。
ヒューイ殿有難うございます。
諸君、理解出来ただろうか。
正直、我々だけでは”変種カラミティドラゴン”を討伐するのは困難と言わざる得ない。
唯、何もしないよりは良い。
ですので、騎士団としては少しでも勝つ確率を上げる為、皆様方に支援物資をご用意しました。
多いに役立てて頂きたい」
入り口から別の騎士が5名入って来て手には大きめの木箱を持っていた。
全部で5箱になるその木箱の中には、消耗品としては破格の値段がする希少なアイテムが入っていた。
「えーと、見て頂いてるのでお分かりと思いますが…
木箱の中には、エリクサー、『アームズ』の弾丸、各属性のハイレジストポーション、リミットポーションが入っております。
『アームズ』の弾丸はお一人様各属性3つずつ、それ以外のアイテムは5つずつ持って頂いて結構です。
尚申し訳ないですが、『アームズ』の弾丸については所持している方に限らせて頂きたい思います」
――おおお――
至る所で歓声が揚がる。
それはそうだ。どれも一級品のアイテムなのだから…。
「それでは、今から隊分けをします。
レベル、役割に応じた班分けとなりますので、パーティで参加申請された方も一旦個人として分けさせて頂きます。
ご了承頂きたい。
尚、各隊には必ず我が騎士団から1人騎士を配属させて頂きます」
団長の隣にいた副団長のカオリとシンゴは一歩前に歩み出て、木箱を運んできた5人の騎士も
2人の横に並び続いて入り口から2人の騎士が新たに入って来た。
という事は、団長を入れて騎士10人となる訳だから、隊はその分だけ別れる訳だな。
「それでは、朝まで自由と致します」
どうだったでしょうか。
※ご意見下さい※でも書きましたが、ステータスの表記を簡易的なものに変更しようか迷っています。本小説の味として現状を突っ走るか簡易的なものに変更して分りやすくした方が良いのか参考にしたいのでご意見下さい。
変更の際は、ステータスだけでなく本文も書き直す場所が出てくるかも知れませんが…