第35話【2ndプロローグ】
障り程度ですが、新章のプロローグです。
プロローグぽくないですが…。
「イオリ!!そっちへ行ったぞっ!!」
「言われなくとも分っている!」
影のように黒いMobは、イオリと呼ばれた少年の方向に飛んで行った。
「クッ」
ガキンっと金属が弾ける音とともにイオリの身体は、後方へ吹き飛ばされるが身体を捻り軽く着地する。
弾け飛ばされたというのに結構余裕のようでイオリの表情には焦り1つなかった。
「ふん…流石に無理か…。
アーギュスト!こいつの勢いを殺してくれ」
「おいおい、俺っちがビーストだからって出来る事と出来ない事があってだな…」
アーギュストと呼ばれた大柄な男は、そう言いながらも武器を構え、黒いMobの正面に立った。
「ふんぬ!」
アーギュストは気合を入れた瞬間、体中が体毛に覆われ、身体が一回りから二回りほど膨れ上がり、
先ほどまでヒューマと同じような顔だったのがビースト特有の獣の姿へと変貌していった。
これは種族”ビースト”特有のビースト化と呼ばれる特殊能力だ。
ヒューマよりも短命に設定されているビーストは、成長族度の速さとこのビースト化で他種族との差別化を図っている。
ビースト化する事によって部族毎に割り振られているステータスが飛躍的に向上するのだ。
アーギュストの場合は、猫虎族で読んだ字の如く猫や虎などの姿をしたビーストで脚力と敏捷と視力が大幅に増加する。
「ふぅ…」
アーギュストは少し息を吐いた後、黒いMobを凝視する。
「ちょ!?
イオリ、アキラ!こいつドラゴンだ!」
黒い靄に覆われ高速で飛行していたこのMobは、改変後に出現したレベル100以上の新しいMobだ。
当然、名称も初めて見た名前だったので、ボク達……ごほんっ失礼…俺達は未知なるMobと戦っていた訳だ。
アーギュストがビースト化で視力を強化してやっと姿を確認できたのだ。
「ちぃ、冗談きついぜ。全くよ…」
先ほどから魔法が利いていないのは、この黒い靄のせいだと思っていたが、ドラゴンなら尚更利かない訳だ。
ドラゴンの鱗や革は、物理防御力および魔法防御力が非常に高い。
金属の最高峰オリハルコンに迫るほどだ。
まぁ、どちらも簡単に入手は出来ない代物だけどな。
おっと、いきなり戦闘中で済まないな。
ノースブレイ王国を経った後、俺はシャーネ=レギアスの下でレギアス流蛇腹剣術を学び、
1年ほど前に免許皆伝を得てまた傭兵稼業に戻った訳だ。
免許皆伝まで短すぎるだろうと思っただろ…。
うむ、短いな。シャーネ師匠もすごく驚いていた。
彼女が言うには、スポンジケーキ並みに吸収力が凄まじい事と、天武の才のお陰だろうと事だ。
天武の才…つまり『剣術の才能』の事だろう。開花していて良かった。
あ、ちなみに俺は今18歳だ…。
で、ラキノイア王国から今いるイスカ王国までの道のりを修行と精霊を探しながらやってきて、現在レベルは103になっている。
アーギュストは、先ほどの紹介通りビースト族の青年だ。
イスカ王国へ行く途中に華朝連邦へ寄って、その後から彼と共に行動を共にしている。
実は彼も俺と同じで元八迅の中の人だ。
ちなみに、彼の元キャラはすでに世代交代時に死亡している。
ビーストはヒューマ以上に短命で交代時は大体死亡扱いになる。
で、イオリはヒューマで彼j…もまた元八迅の中の人のだ。
イスカ王国に滞在すると決めてからアーギュスト共に彼…j…の自宅に居候中だ。
彼…の元キャラもヴォルトと別行動だが、フィラシェット大陸に渡ったらしい。
俺とプレイスタイルがほぼ同じで、純粋な近接特化キャラだ。
俺は今回魔法も使える万能キャラになったが、
イオリは、サービス開始当初からまったくブレない程の近接のエキスパートな訳だ。
近接でのプレイヤースキルで彼に勝てる者はそうそういないだろう。
小柄な体格と類稀なスピードを活かした二刀流での連続攻撃は目を見張るものがある。
当然、剣術の才能もある。
「アキラ…。あの靄…キミの神術で何とか出来ないか?」
イオリは、俺に近付いて来て肩に手を掛けながら聞いて来た。
戦いの最中なのに、かなり冷静に行動をしている。
というか、ドラゴンはアーギュストに狙いを定めているな…。
アーギュストは、ドラゴンの勢いを止める為に必死になって尻尾を掴もうとしているが、
巧くかわされて空振っている。
「んー。あれが闇属性っていうのなら何とか出来なくもないけど…」
確証がない。
が、確かに光属性の魔法は試していなかった。
ああ、確証がないのは「気配察知」をしても名前以外全ての能力が???になっているのだ。
これに関しては、OS社が奮闘中で近日中に表示されるようにするらしい。
如何せん、実装しない予定だったMobもしくはヴィーナスが造り出したMobなので、
ステータスデータが用意されていないのだ。
「じゃぁ、アーギュストと2人で奴の注意を引きつけておいてくれ」
「了解だ…」
イオリは、アーギュストの方へ走って行く。
「リタ!シロ!還って!」
「オッケー」
リタは、炎属性の上位精霊イフリータでアヤカの精霊である炎華と違い、近接も魔法も出来る万能タイプの精霊だ。
「心得た」
シロは、風属性の上位精霊フェンリルで銀狼の姿をした近接タイプの精霊だ。
ちなみに、結構デカイ。
俺は、3体呼び出している精霊の内の2体を下がらせ、再び2体呼び出す準備をする。
「我は望む。我が親愛なる…光の精霊オデュセウス。我の呼びかけに応えよ。我の名はアキラ=ローグライト。汝の名はセス!」
俺の目の前に上空から光の柱を降りて来て、一瞬眩い光を発した後、白銀に眩く輝く全身鎧に包まれた騎士が目の前に立つ。
この騎士こそ光の精霊オデュセウスことセスだ。
騎士の姿をしているので如何にも近接タイプだと思うだろうが、純粋な魔法タイプで神術と法術のエキスパートだ。
残念ながら、最近契約したばかりなのでまだ信頼度は2段階目だ。
まぁ、最近と言っても半年ほど経っているのだが、流石上位精霊といったところだろう、全然信頼度が上がらない。
俺の実力不足なんだろうな。
「……」
ちなみに彼は無口だ。
稀に必要最低限の事を喋る事があるが、ほとんど会話が続かない。
「我は望む。我が親愛なる…無の精霊ヌエ。我の呼びかけに応えよ。我の名はアキラ=ローグライト。汝の名はツグミさん!」
今度は、上空が雷雲に覆われ始める。
雲を横に雷が数回走ったと思うと、いきなり特大の雷が目の前に落ちる。
一瞬、視界がゼロになるが、それが治まると目の前にど派手な和風の格好をした女が立っていた。
彼女こそが、ヌエこと鵺なのだ。
ぶっちゃけ、無茶苦茶規格外な精霊だ。
まずは、今の人型だけでなく獣型…キメラみたいな姿になる事も出来る。
その際の姿は無茶苦茶大きい。
っていうか、精霊なのか疑問なのだが、彼女が言うには獣型は本来の姿で人型が精霊としての姿らしい。
良く分らないがそう言う事らしい。
ちなみに、人型でも獣型と同じ能力らしいので近接攻撃力はずば抜けているし、7属性全ての魔法も使用出来る。
獣型になる場合は、主に威嚇する時だけで身体が大きすぎて不便との事だ。
ちなみに、無というのは無属性の事だ。
何かに特化している訳ではないが全ての属性魔法が使えるか、もしくは無属性の魔法が得意な精霊という事だ。
ツグミさんの場合は、前者の方なのだ。
以前、説明した事があると思うが、精霊というのは1つの属性に特化している。
それを踏まえて彼女が規格外なのが分るだろう。
7属性全ての魔法を無詠唱で使える訳だからな…。
確実に改変後に出現した精霊だ。
「やっと、出番かい。
アキラ、奴をどうしたら良いんだい?
嬲り殺しかい?それとも…」
「いやいや、神術であの黒い靄っぽいの消して欲しいんだよ」
「ふむ、そうか。残念だ」
ちなみに、彼女は現在契約している精霊の中では一番新しい。
しかし、戦いに飢えていて呼び出せば文句1つ言わず力を貸してくれる。
まだ、信頼度が一段階目とはいえ、それでも彼女の能力は非常に高い。
現段階で言えば一段階目でも事足りている。
「セスとツグミさんは、ボクと共に奴の靄を消す準備に入る。
セラは、イオリ達の援護をしてくれ」
「…仕方ないわね…」
セラは、水属性の上位精霊セイレーンだ。
オデュセウスの2・3ヶ月前に契約したので、彼女も信頼度は2段階目だ。
彼女もあまり喋らないので何を考えているのかいまいち分らない。
まぁ、文句1つなくちゃんと力を貸してくれているので文句はないけど。
攻撃魔法だけでなく、支援魔法も得意なので重宝する存在だ。
セラは、俺達とイオリ達の大体中間辺りまで移動する。
「ウォーターシールド」
彼女は、イオリとアーギュストに渦潮の様に高速で渦を巻く水流の膜で攻撃を防ぐ魔術で支援する。
この魔法は改変前にはなかった上に彼女の話によると禁呪でもなさそうだったので恐らく改変後に出来た魔術だろう。
「アイスミラー」
次に彼女は、氷の盾を作り出し数度攻撃を跳ね返す魔術を唱えた。
実はこれも改変前にはなかった魔術だ。
ウォーターシールドもそうだが、ありそうでなかった魔術が改変後に追加されている。
ちなみに、俺も各属性数個ずつ改変後に出現した魔法を習得しているので、今後披露する事もあるだろう。
「さて、ボク達も準備に取り掛かろうか…」
「私はいつでも行けるぞ」
「……」
ツグミさんの後に続いてセスは無言で頷いた。
俺は、腰に差している1本の刀を手に持ち前に突き出す。
この刀は、儀式刀と呼ばれる刀でいわば刀の形をしてロッド・ワンドと言える。
ロッド・ワンドと記述したのには訳がある。
鞘に納めている段階ではロッドとして機能があり、抜き身時はワンドとしての機能がある。
ちなみに、刀として使う事も出来るが性能は高が知れている。
そして、俺は現時点で最も効果のありそうな神術を選択し詠唱の準備に入る。
「神なる息吹、天なる鼓動、聖なる御手。主神ガディウスの名の下に、我が信奉はさらなる高みを望む。
我が欲するは、聖なる御手…幾重の光は魔なる者を裁く…スティグマオーバーラップ」
俺が詠唱した中位神術は、数十本の聖なる光が1体の対象を集中攻撃する魔法だ。
しかも、必中の上にクリティカルが出易いおまけ付きで、ほぼ同じ所に集中して命中する。
いくら高い魔法防御力だろうと簡単に貫く仕様な訳だ…。
あ…、靄を消すのが目的だったな…。
まぁ、良いか。
数十本の光は、高速で飛ぶ靄付きドラゴンを追い回し、速度を緩め旋回する際に追いつき、
一気に連続で命中した後、今まで一度も声を発しなかったドラゴンが甲高い泣き声を共に地面に落下した。
光が命中した所の靄は吹き飛び鱗の部分が丸見え…というか、鱗を突き破り赤黒い肉の部分が抉られていた。
う、見なきゃ良かった…。
ちなみに、詠唱文の最初にある3つのワードだが、神なる息吹は回復魔法、天なる鼓動は支援魔法、
そして…聖なる御手が攻撃魔法に該当する。
詠唱の最後の方でこの内の1つを選択して、キーとなるワードとスペルを詠唱する事で魔法が発動する。
そして、神術では、神の名前は全てガディウスで固定されている。
「そら、喰らいな!天壌無窮!」
ツグミさんが、そう叫ぶと上空の雲が円状に一気に晴れ、そこから一筋の光が一瞬落ちてくる。
その光は、倒れているドラゴンに直撃し大爆発が起こる。
一瞬だが、ドラゴンを覆っていた靄が一気に晴れるが、すぐにまた靄が出現する。
が、それだけではなかった。
その後、連続して光は上空から幾度となく降り注ぎ、ドラゴンが奇声を上げる暇も与えない。
そして、十数秒後、地面に横たわり身動き1つしない靄がなくなったドラゴンが横たわっていた。
「…ゴッドハンド…」
前述の光景に俺を初めイオリやアーギュストが呆然としている最中、セスはボソリと神術を発動させる。
すると、先ほどの天壌無窮でぽっかりと開いた空から、巨大な神の御手が降り注ぎ、
ドラゴンの靄が吹き飛ばすどころか”ベチャ”というドラゴンとは思えない音を経てて威とも簡単に轢殺した。
このドラゴンらしいMobは確かレベル100オーバーなんだが……上位精霊恐ろしや…。
「ちょ、ちょちょ…いやいや、ベチャって何!?なにぃ!?ベチャって…」
アーギュストが俺の方は駆けて寄って来て肩を鷲掴みし揺さぶり出した。
完全に錯乱している。
「………」
イオリに関して、ゴッドハンドが落ちてきた上空を見ながら身動き1つしていない。
完全に固まっている。
「…私は還るわね…」
セラは、俺の返事を待たずに精神世界へ還って行った。
この2体の規格外っぷりに多少なりともプライドを傷付けられたようだ。
(……反則だろう…こんなの…)
ん、ザ何とかさんが何かを呟いた様だが、気にしないでおこう。
どうだったでしょうか。
新章は、アキラ、イオリ、アーギュストの3人が物語の中心となります。
それでは、今後もよろしくお願いします。