第30話【エピローグ】
誤字脱字・表現の誤りにはご容赦願います。
「ぃよ~!久しぶりだな。ア・キ・ラ・ちゃん」
「…シムス…」
ノースブレイ王国要塞都市オルドランとハイランド王国国境都市ローロスの間を流れる運河に掛かる巨大運河橋オルトロスを半ば過ぎた頃、俺の前にあのジョーイ=シムスが現れた。
「やっと来たかよ。待ちくたびれたじゃねぇか」
シムスの周りを見回すと傭兵の死体が数人分無造作に倒れていた。
俺が来るまでの間、ずっとここに居座っていたのかもしれないな。
そして、通り過ぎる傭兵を狩っていたというところだろうか…。
って、あれ?アヤカもここを通っている筈だよな?
「ここを通る傭兵全てを狩っていた訳でもないのか?」
「え、ああ、ま、まぁな。俺様は慈悲深いからな。
偶には見逃す事もある」
うわぁ…絶対、アヤカに脅されたか何かされたな…。
目は明後日の方向を見ているし顔に大粒の冷や汗がダラダラと流れてるし不審極まりない。
一種のトラウマにさえなってる気がする。
大方、有無も言わさず光の矢をぶっ放して「通ってもいいかしら?」みたいな事を言ったのではなかろうか。
「ふ、ふん。俺様の事はどうでもいい。アキラちゃんは少しぐらい強くなったかよ?
つまんねぇ戦い方をしてみろ。死なないようにジワジワと嬲って嬲りまくって犯し続けてやるからよ」
「…どうだろうね」
「ま、戦ってみれば分るか…。んじゃ、始めようぜ」
シムスは右手で武器を構え左手を前に出しクイクイっと手招きをしている。
「その前に、人が来ないようにしないとね。
我は望む。我が親愛なる…闇の精霊ベルセウス。我の呼びかけに応えよ。我の名はアキラ=ローグライト。汝の名はアーリア」
俺の影から漆黒の影が現れ、何を思ったか俺の背後に回り影が纏わりついてきた。
そして、その影はアーリアの形に変わっていく。
「…アーリア、その手はなに?」
案の定、アーリアの手は俺の胸を揉んでいた…というか、影のままでも自由に動けるのね…。
「この前、報酬貰い忘れたからのう。今徴収しても構うまい」
「時と場所というのがあるだろ…。
それに…慰めてやるとは言ったが揉んで良いとは一言も言っていなかった筈だけど?」
「そうであったかのぅ。忘れたわい」
「まぁ、良い。森の広場に掛けていた魔法で良いので周辺に掛けてくれないか?」
「何じゃそれだけで良いのか?
オブハイド。ほれ、終わりじゃ」
アーリアが片手を上げ、オブハイドという魔術を発動した瞬間、周辺の空気が変わったような気がした。
いや、変わったな。よく目を凝らすと微妙に周りの風景が歪んでいる。
捕捉だが、風景が歪んでいるからといって決して空間が歪んでいる訳ではない。
厚みがどれ程かは分らないが不可視に近い魔力の層が壁となり外界からの進入を阻んでいるだけである。
大体、直径50mぐらいのドーム型に層が張り巡らされており、橋の幅の4分の1を占拠している感じだな。
精霊は、魔法を発動させるのに詠唱が必要ない。
どんな高位の魔法であろうと全てワンスペル発動だ。
というか、詠唱が必要なら人間と変わらないので属性が限定される精霊だと存在意義がなくなってしまうな。
ん?シムスと目があったような…。
いや、よく見るとアーリアの動きに合わせて視線が動いている気がする。
「おおおお、プルルンプルルンって、うひょぉ堪らねぇ」
シムスは独り言のつもりだろうが、普通に丸聞こえだ。
というか、そういうキャラだったか…?
いや、男なら普通の反応かもしれない。さすがに声を出しては言わないが…。
身体が女性になったせいで、その辺の感覚が狂ってる可能性がないとも言えないな。
「ククク、御主、妾のここがそんなに気になるのかえ?」
アーリアは豊満な胸を両腕で挟み強調させる。
何とも羨ましいオp…事もないからな。ああ、決してだ。
「おおおおお」
シムスは股間を押さえ身悶える。
「はぁ~。これじゃ始まらないな。
アーリア、召喚した直後みたいに影のようになれないのか?」
「ふむ、可能じゃ」
アーリアがそう言った直後に妖艶な肉体は漆黒の煙の様になり、俺の影に吸い込まれていく。
「ああ~」
なんで名残惜しそうな声と顔をしているんだ…。
「シムス…。アーリアを見るのが目的だったのか?」
「ん?…あ、いや……そ、そんな事あるか!
何なら今すぐに始めても良いぜ」
「ああ、発つ鳥後を濁さずってね。ここで終わらせてもらう」
俺は、フランヴェルジュを腰から抜き、前に突き出す。
少し気がかりな事があったので今回は居合をしばらく使わない。
まぁ、いずれ居合を使う機会があるだろう。
ちなみに、戦う舞台となる巨大橋オルトロスは、読んで字の如くかなり大きな跳開橋式の運河橋だ。
橋その物もオルトロスという名称も改変前から存在している。
オルトロスの全長は10kmで横幅200mほどある。計10箇所500m毎に跳ね上がる仕組みだ。
オルトロスを管理しているのはノースブレイでもハイランドでもない。
修繕箇所や改修工事などは全て設計から建設までを行ったモルディオ自治領区の機工技師達が行っている。
捕捉だが、、改変後に機工技師のロールがプレイヤーに解放されたが、改変前からNPCのロールとしては存在していた。
ノースブレイとハイランドの間に争いが絶えない事からオルドラン・ローロスに技師が常駐しているらしい。
運営の方は、自動で行われており、河底には船舶に感応する魔法装置が10km隙間なく設置され、船舶が通り過ぎるとその前方にある橋の一部分が跳ね上がる仕組みだ。
ノースブレイ王国とハイランド王国の戦争は、この橋上と海上の2箇所で戦う。
本来は戦争をする為の橋ではないが、強力な魔法や砲弾などで大爆発が起ころうが絶対落ちる事はない。
多少、地面が抉れるぐらいで、橋自体にダメージはほとんどない。
という事で、高位魔術を連発しても壊れないだろう…多分。
で、気がかりっていうか気になったのだが、シムスは脳筋キャラではなかろうか。
もし、ヴォルトと同じような育て方なら対魔法に対して非常に弱い筈だ。
ヴォルトの場合は、唯一級やプレイヤー生産品の中でも最高級の防具を装備していた事もあり、ある程度は耐性があった。
しかし、シムスの場合は見るからにそういった装備をしていないのだ。
攻撃が当たらない事を前提にするのは間違いではないが、魔法耐性を怠っているのは間違いだ。
それに自分でいうのもアレだがプレイヤースキルも俺と比べてシムスはまだ未熟と言える。
俺とシムスのレベル差は未だに2倍以上あるが、全く耐性のない魔法なら利くかもしれない。
試す価値はある筈だ。
「あ?なんだ…。魔法如きで俺をやれると思っているのか?」
「まぁね。魔法に弱いだろ?」
「どうだろうな。ま、どっちみち詠唱なんてさせねぇけど…なっ!!」
シムスは地面を這うように駆け出した。
縮地ほどではないが、かなり速く俺との距離を一瞬で詰める。
魔法を詠唱する暇を与えてもらえそうにないな。
しかし、俺はこのフランヴェルジュがある限り火属性魔術はワンスペルで発動させる事が出来る。
「ファイアウォール!」
シムスの前を一瞬で炎の壁が遮る。
「のわぁっ!?」
シムスは驚き急制動した後、額を手で拭いながら「あっぶねぇ」とボソリ呟いたように聞こえた。
「ちぃ、いつの間に詠唱したんだ…」
炎の壁を避けるなり飛び越えるなりしてくると思ったが何もして来ないな…。
まさか、炎が治まるのを待っているのか?
と思った矢先、シムスは壁を飛び越え俺の頭上へ袈裟斬りを仕掛けてきた。
「はははぁー!!油断したなぁ!!今度こそ詠唱なんてさせねぇええ!!」
ああ、なるほど。壁の向こう側で俺が詠唱しているか確かめていたんだな。
だけど…すまん。ご期待に添えなくて…。
「ファイアプリズン!」
今度は、シムスを炎の壁が囲む。
いわば炎の牢獄で360度ファイアウォールで囲み焼き殺す上位魔術だ。
ファイアウィールは攻撃と言うより寧ろ防御の魔術だが、ファイアプリズンは攻撃魔術なのだ。
シムスは、空中で炎の牢獄に前を遮られた為、炎に突っ込む形になる。
「ぅわぁあちちち…あちぃいいい!!」
残念ながら、炎の勢いに飲まれ壁を突っ切る事が出来ず、炎に焼かれながら壁の内側に弾かれたようだ。
「はぁはぁはぁ…おぃ、お前、さっきから詠唱してないよなぁ!?
チートか?いや、間違いねぇ、チートだろ!」
余程効いたのだろう。大分、イラついている感じだな。
「リアルから隔離された今の状態で、どうやってチートツールを使うんだ?」
それに、俺はチートなんて大嫌いだ。見た事も触れた事もない。
ほんと、失礼な奴だ。
「…………それもそうだな」
シムスがボソリと何かを呟いたようだが、俺には聞き取りにくかった。
「…シムス…流石に魔法の知識なさ過ぎるだろう…。
魔術師と対峙した時、詠唱させなければ勝てるなんて、まさかとは思うけど思ってないよね。
いくら脳筋キャラとはいえ、魔法の知識なしで魔術師と殺り合おうなんて無謀だよ?」
「な、なにぃ!?」
「少なくとも前回のようにボクがレベル1桁じゃないんだからさぁ…」
「な、何が言いたい…!」
このうろたえ様、まさか図星か!?
「うん、良い事を教えてあげるよ。まぁ、今日の戦いには役に立たない知識だけどね。
魔法耐性はスキルや魔法で補う事も出来るけど、シムスみたいに脳筋テンプレキャラはその辺のスキル取らないよね。
だから、対魔法の付いた素材や特殊能力の付いた防具を着るのが基本なんだよ。
公式にも載ってる情報なんだけど…その辺、シムスは怠ってるよね」
「うっ……」
「それにね…シムスは知らないだろうけど、魔術師の杖ってのは、単純に魔力を強化するロッド以外にも
強力な魔法が封じ込めていたり特定の属性魔法をワンスペル発動できるワンドっていうのがあるんだよ。
シムスがさっき言ったチートってのは間違い、ボクは炎属性の魔法をワンスペル発動出来るワンドを使っている。
それに魔法使いのスキルには、高速詠唱や短縮詠唱っていうのがある。
まぁ、ボクはまだ習得していないけどね。
あ、そうそう、その魔術終了間際になったら範囲を狭めるから気を付けた方が良いよ」
「へっ、何だって!?え、ちょっと待て…何か狭まってるんですけどぉ!?」
そんな事を叫んでいる間にも炎の壁はじょじょに範囲を狭めていき、とうとうシムス1人分の隙間しかなくなった。
「ちょ待っ、ちょ待っ…ぁ、あ、あ、あがあああああぐがあぁぁっぁああ!」
5枚の炎の壁が合わさった事でゴオォォォォと激しい音をたてながら、
高さ20m近くに燃え上がった炎の柱がシムスの身体を業火で焼いていく。
油田の炎みたいなのを想像したら良いと思う。
「ああああぁぁぁぁあああああがああぁぁぁ!」
シムスは悲鳴にもならないような声が周辺に木霊した。
1分近く燃え続けた炎は要約治まっていき、丸焦げになったシムスの身体が横たわっていた。
さすが、上位魔術…魔法耐性のない人には強烈過ぎたか…。
「ぁぐ、ぁ…ぁ……」
身体が僅かに動いたが、ほぼ虫の息状態だ。
「あぐっ…お、俺は…これぐ、らいじゃ、負けね、ぇ……」
シムスは、腰のベルトから吊られている皮袋からHP回復ポーション(大)を2本取り出し飲み干した。
さっきまで虫の息だった筈のシムスは大きく跳びはねて起きた。
「っ…さすがに火傷は治らないか…。
ま、良い事を聞かせて貰ったしな、次からは当たらねぇぜ。
何処かの赤い人が言ってたよな…当たらなければどうって事はないってな。
いくら、無詠唱だろうが強力だろうが、動きまくって捕らえ辛くすれば良いだけじゃねぇか」
シムスは、俺の周囲を縦横無尽に走り回る。
確かにこれでは狙いを定められないな…。
だが、シムスは重大な事をすっかり忘れているようだ。
そう、俺は剣士でもあるって事だ。
「ほら、どうした。当ててみろよ!
当てれねぇだろ。けど、こっちからは攻撃で…ぎぺッ!?」
俺が攻撃出来ないと思い込んでいたシムスの懐が、お留守になっていたので脇腹付近に居合で一閃してみた。
魔法しか使わないと踏んで余裕ぶった結果というやつだ。
対魔法がカスの防具だったようで、さっきの炎で焼け落ち防具としての機能を果たしていなかったのか、
俺の一閃は見事に脇腹を切り裂き大量の血が撒き散らされる。
本来なら2倍以上のレベル差でダメージ半減ぐらいはするだろうと思ったが、
油断から生じたクリティカルでダメージが通ったようだ。。
さらに、刀身から発生した熱波が火傷から治りきっていない肌をもう一度焼き重ねた。
「へ?…え?…あれ?」
シムスは何が起こったのか理解出来ていなかったようだ。
「油断しすぎ。ボクが魔法しか使わないと思ったのか?
確かに今日は魔法しか使ってなかったけど、前はイスカ刀で攻撃していただろ」
何か、拍子抜けだな。
ここまで魔法に弱いなんて思っていなかった。
今まで魔術師や法術師と戦わなかったのか?
そうだとしたら、余程運が良いんだな。
まぁ、それ以上にこいつはバカだな。
せめて、E/Oのシステムぐらい理解しておけと言いたい。
ゲームを買っても説明書を読まないタイプだな。
いや、こいつの場合はチュートリアルも飛ばすタイプに違いない。
「どうする?まだやる?」
「チクショウ…チクショウ、チクショウ、チクショウ、チクショウ、畜生がぁぁぁ!!」
今まで一方的に自分がやられるって事はなかったのだろう。
シムスは、地面を殴りつけ俺に対してなのか自分自身に対してなのか分らないが半狂乱で叫びまくる。
「へへ、もう知らねぇ。後の事なんてどうでもいい。ぶっ殺してやる!」
シムスは、HP回復ポーションの入っていた皮袋から1本のどす黒いポーションを取り出す。
初めて見る色のポーションだ。恐らくプレイヤー生産品だな。
効果によって色が異なるらしく、生産できるポーションも多岐に渡る。
さらに偶然の産物的なポーションも存在するらしいので、ぶっちゃけ見た感じではどういう効果なのかさっぱり分らない。
俺は、少し遠いが分析したら何か分るかなと思い分析スキルを使用してみた。
---------------------------------------------
一発逆転ポーション(小)
生産者:アクト=アラマキ
備考:潜在能力を解放する代りに自我を無くす。
効果時間20秒。時間経過後、瀕死状態。
生産者コメント:使わない方が良いと思いますよ。
---------------------------------------------
えーと、簡単に言えば、性質の悪いバーサクポーションってところだな。
バーサクポーションは、確か一時的に能力を強化する代りに自我を無くすだった筈だ。
対して、これは一時的に能力を極限まで強化する代りに自我を無くし瀕死になるという事だよな。
ちなみに、名称は生産者が付けたと思う。流石に世界観に合わなさすぎな名称だしな。
そして、名称の横には(小)と書かれている。やはり、(大)とかになると効果時間が延びるのかな。
それにしても、シムスはどうやって手に入れたのだろうか、気になるが今は放っておこう。
俺だったら躊躇する色と効能のポーションをシムスは躊躇する事なく一気に飲み干す。
飲み干してからしばらくすると、シムスの様子が段々と変わってきた。
変化として顕著に現れたのが皮膚だろう…。
細胞の活性化の影響なのか赤く染まっていく。
そして、血管がはち切れんばかりに太く隆起し、そして異常な速度で脈動している。
目は血走り口や鼻からは血を吐き出している。
細胞や血管が急激な変化付いていけていないのだろう。
身体も二周りほど大きくなっているような気がする。
「へ、ヘヘ…ヘヘヘヘ、HEHEHEHEHEHYAHYAHAYAHA!!!!」
そして…シムスは自我を無くし…というか狂ったという言葉が似合いそうな状態になった。
「HYAHYAHYAHYA……オンナダ……オンナ…オンナオンナオンナ、女ァァァァァ!!」
シムスは、手を地面に付き四つ這いになり、今までを凌駕するスピードで突っ込んできた。
縮地とは違う純粋なスピードで怒り心頭状態のイノシシのようだ。
俺は冷静さのない単なる突進など簡単に避けれると思い込み、軽く身体を捻って避けたのが間違いだった。
野生の感と言うのだろうか…避ける動きに合わせて軌道修正してきたのだ。
これには驚いた…というか、俺の読みが甘かった…。
身体能力だけでなく五感も強化…もしかしたら第六感を一時的に習得したのかも知れない。
シムスの獣のような巨腕から繰り出された攻撃が俺の身体を掠ったのだ。
しかも、ただ掠ったのではなく、シムスの爪は俺の龍革製防具を斬り裂き、肌をも深く斬り裂いた。
あまりにも一瞬だったので痛みが襲ってくるまで攻撃が掠ったのが分らなかった。
「ぐっ!?」
「キケケケケケ…オンナ…ハダカ、カカカカ…オンナオンナ…ハダカカカカ」
「ヘ?……裸?…うわっ!?」
俺は頭を下に向けると見事に防具が形を成していなく、首下から下半身まで斬り裂かれ素肌が丸見えになっていた。
そして、俺は気付く…シムスの下半身が奇妙なぐらい大きく盛り上がっているのを…。
今のシムスの状態を見ると、恐らく性欲という繁殖に近い衝動なんだろうけど、
ここで犯られる訳にはいかない。
俺は縮地を使って境界ギリギリまで大きく後退し、3分の2ほどMPが残っているのを確認する。
上位魔術を2・3発連発しても大丈夫だろう…。
HPの方は残り半分ほどだが、治癒法術を詠唱している暇はない。
シムスは先ほどまでと同じように四つ這いになり突進してきた。
「ファイアウォール×2!!」
シムスの進行先に2枚の炎の壁を出現させる。
しかし、シムスは何もなかったかのようにいとも簡単に突破していく。
「なっ!?……ファイアボール!!」
シムスの目の前に落とすように炎の弾を撃ち込み、大爆発が起きる。
直径10mのドーム状の爆発で普通なら避けられない範囲だ。
「これでどうだ!!……!?」
シムスは、爆発を利用したのか大きく跳躍し炎を纏いながら俺に襲い掛かってくる。
「ちぃ!?…イリュージョンアロー×2」
これでシムスを止められなかったら、俺の貞操もとい命はないだろう…。
俺の頭上で2回連続して大きな爆発が起き、その爆炎と爆風は封鎖したドーム全体に広がり
俺自身も巻き込まれる感じなった。
だが、自身を巻き込まないとシムスから防ぐ魔術が存在しないのだから仕方ないのだ。
俺の身体は、爆炎と爆風のダメージでHPが削られていき最終的には赤く点滅するまでになった。
これで、シムスを止められていなかったら終わりだな。
そして、収まり掛けた時、黒い何かが俺に襲い掛かるように上から降ってきてドンッと大きな衝撃で俺は地面に倒れる。
「痛っ!?」
衝撃で咄嗟に目を瞑っていたのを開けるとシムスが覆いかぶさるように俺の身体を押さえつけていた。
犯られると俺は思いまた目を瞑ったが、何もされず数秒が経ち再び目を開ける。
そこには、変貌した姿ではなくいつも通り?のシムスがいた。
身体は、赤黒く焼け焦げ血肉が焼けているような臭いと煙が漂っていた。
そして、シムスは意識がないようで、俺が身体を傾けると簡単にシムスの身体が横に倒れる。
「はぁはぁはぁ、死んでるのか…?」
俺はフランヴェルジュの先端でシムスを突いてみる。
人間の身体とは思えない程、焼け焦げ所々硬く炭化していた。
さすがにやり過ぎたのかな?
「…ヒュッ…ゲホゲホ…カハッ…!」
生きていた…辛うじて…だけど。
シムスが空気を吸い込む為に大きく口を開けると喉奥から白い煙が出てきた。
恐らく、爆炎を吸い込んで内臓が焼けたのだろう。
程なくして、シムスはよろめきながら立ち上がりフラフラと歩き橋の柵に寄りかかる。
身体の支えがないと立ち上がれない程の状態のようだ。
「………負け…た…の………か……」
しばらく、シムスは呆けていたが今の自分の現状を把握するかのように身体の至る所を確認する。
ポーションの効果が切れて妙に冷静な状態になっているようだった。
「…そうだね」
正直、俺も瀕死なので、早く治癒をしたい。
俺はフランヴェルジュを構え直し、シムスに近寄る。
「………ふんっ、抵抗、なんて…しねぇよ…。
ま、そんな…気力が、全くねぇんだけど……、大人、しく捕まる…気もしねぇ!!」
シムスは、何を思ったのか柵の上に立ち上がる。
フラフラしていて今にも落ちそうな状態だ。
「な、何を…」
「へへ…言ったろ。捕ま、る気はねぇ…ってな」
「今の状態で落ちれば確実に死ぬぞ。
リアルでも死ぬかも知れない…止めろ!」
「へ、…それがどう…した。
ここには……少し未練がない、訳じゃ…ねぇが、リ、アルに未…練は…ねぇよ。
ん……じゃぁ……な、あばよ」
シムスは、こちらに向き直り今まで見た事のないような穏やかな表情で背中から海面へ落ちていった。
海面まで凡そ60mほど、ここから瀕死の状態で落ちては流石のシムスと言えど助からないであろう。
ましてや、ここは運河と海の境界線で、両方の海洋Mobが生息しておりアクティブMobも当然いる。
数分ほどシムスが落ちた海面を見ていたが浮き上がる気配も血が広がる事もなかった。
シムスの生死は不明だが、やっとシムスとの因縁を断ち切れた…。
アーリアに魔法を解いて貰おうと思ったが、その前にシムスの遺品?を探す事にする。
何故なら、シムスを倒しても証拠になる筈のシムス自身がいないので、本人確認出来そうなものが必要なのだ。
探し回っていると5mほど先に何か光る物を見つけた。
これは…シムスの…ヴェノムヴァイパーという武器だった筈だ。
確か、結構長い時間使っていた筈だし証拠になるかもしれないな。
よし、証拠の品はこれで十分だろう。
魔法を解いても不自然ではないように端へ移動する。
解いていきなり道の真ん中に人が立っていたら、周囲が驚くだろうしな。
「アーリア、魔法解いて良いよ。
それと、解いたら還って貰えるかな?」
「まぁ、よかろう。報酬は、後日貰うとしようかの」
俺にはアーリアの姿を確認する事は出来なかったが、周囲にあった空間歪みはなくなり
一気に人の気配と話し声が俺の耳に届いた。
そして、ほぼ同時にアーリアの気配がなくなり俺の意識下に戻る。
ああ、ちなみにシムスとの戦闘が終了した時点で、斬り裂かれた俺の防具は元の状態に戻っている。
俺は痴女じゃないし、人様に裸を見せるなんて事は決してしないからな。
さて、このシムスの武器をどこに提出するかだな…。
ハイランド王国の傭兵ギルド所在都市には寄る予定はないので困ったな。
ああ、ちなみに当面の目的地はラキノイア王国だ。
そこに向かう理由は、シャーネ=レギアスという人物に会う為だ。
忘れているかもしれないが、蛇腹使いのアレクが尋ねろと書き残した人物で蛇腹剣をマスターする為に会おうと思う。
で、ラキノイア王国を向かう為には、ハイランド王国と華朝連邦を通過しなくてはならないのだが、
両国共にギルド所在都市を通らないルートなのだ。
ま、出張所に提出だけして次ギルド支部へ寄った時に賞金を貰えば良いか…。
まずは、この橋を渡りきってハイランド王国国境都市ローロスに入ろう。
ラキノイアまでかなり遠い…今日はローロスに泊まって、次は―――――――
どうだったでしょうか。
この投稿で序章の終了です。
しばらく、次章の投稿は休ませて頂き、今まで投稿した文章の大幅?な改稿と用語集・人物紹介・閑話の追加など書いていくつもりです。