第28話【撤収】
明けましておめでとう御座います。
今年も宜しくお願いします。
出来れば、見限らず最後まで読んで下さると嬉しいです。
では、誤字脱字、表現の誤りにはご容赦願います。
俺とアーリアが契約を結んだ事によって、広場から出られない魔法が解けた事を
俺は荷馬車付近で談笑していた人達へ伝えた。
実際は、傭兵の女性からアーリアが憑依を解いた事で魔法が解けているのだが…
まぁ、この際どっちでも良いだろう。
「え、それは本当かい?」
「じゃぁ、ベルさんと君が契約を結んだのか?」
「ええ、まぁ…、アーリ…あ、ベルセウスを召喚しましょうか?」
「いや、良い。君を通してベルの奴にも聞こえているのだろう?」
「ええ、聞こえていますよ」
「なら…、良かったな。ベル」
「おめでとう」
「ベルさん、おめでとうございます」
「良かったな。ベル公」
「よっしゃー、これで安心して帰れるぜっ」
言っている事は様々だが一貫してアーリアを祝していた。
文句や不満からの解放を喜んでいるような言葉が一切なかった。
いや、本当に同情されていたんだな…。
丸で家族や友人が結婚を祝うような流れだ。
(皆の衆、妾に長い間付き合って貰って嬉しかったぞ。有難う…)
「ベルセウスが有難うと言ってます」
「そうかそうか、よし皆、撤収の準備だ」
「おう」
リーダー格と思われる男性の一声で俺の周りに集まってアーリアを祝していた者達は、
荷馬車方面に向かい撤収の準備を開始した。
俺は1人、気になっている人物…そう、レドルフの方は向かった。
まだ、レドルフは湖畔近くで小鳥達と戯れていた。
近くに来てよく分る。
彼は、本来すごく優しい性格なのだと…。
騎士団相手に大立ち回りをしていた人物と同一人物とは到底思えない。
「やぁ、こんにちは」
「……?」
「ボクの名前はアキラだ。君を操っていたベルセウスと契約した者さ…。
分るかい?」
「ベルセウス…契約…」
「もしかして、何も覚えていない?」
自我を失わされ操られていたから覚えていないのも不思議ではない。
「少し…覚え…テいる」
覚えていると言う事は、夢の中もしくは無意識化に記憶として残っているのかも知れない。
「そう…。なら、君は何をしていたのか大体は分っているのかな」
「おデ…いぱい…人を傷つけタ…」
騎士団と戦っていた事を覚えていたのか…。
それにしても、タ行の発音が独特だな…。
”っ”もちゃんと言えていないようだ。
アースガント族特有なのか彼のみの喋り方なのかどっちなのだろうか。
「キミも…傷、つけタ…。大、丈夫?」
俺と戦った事も覚えてるのか、結構意識がはっきりしているのだな。
これは意外だ…。
「ああ、大丈夫。あれぐらいなら自分で治せる」
「…良かタ…」
レドルフは胸に手を当て心底嬉しそうな表情をしていた。
俺も釣られて自然に笑みが出てしまう。
「で、言い難いのだけど、君が例え操られていたとしても多くの人を誘拐した事実や
騎士団と戦って死傷者を出した事実は変わらない……分るよね?」
「分、る…」
レドルフは、悲しそうな表情を見せる。
彼自身何の罪もないから逃がしてやりたい気持ちはあるが、ここは心を鬼にして彼の出頭に付き添わなければ…。
むしろ、彼1人に行かせると無用な争いが起きかねない。
「ボクにしばらく着いて来ると良い。悪いようにはしないから」
「分、タ。もう…行く?」
「ああ…っと、うわぁっ!?」
レドルフは、おもむろに俺の身体を持ち上げ自分の右肩に乗せた。
「こチの方が楽……?」
「あ、ああ。ありがとう」
レドルフは、俺を肩に乗せ広場の方へ向かった。
着いた時、すでに撤収の準備が終わり、最後を惜しむかのように彼らは広場を見渡していた。
「ぉ、やっとレドルフも来たか…。
よおし、皆、出発するぞ!」
リーダー格の男は周りにいる皆に声を掛け自分の荷物を担ぎ、
荷馬車を引く先頭の馬の横尻を叩いた。
すると、ゆっくりではあるが、馬が歩き出しそれに釣られて他の皆も歩き出した。
「あ、それならまずは野営地の方へ向かいましょう。
それから街道沿いにヴェユスへという感じで…。
では、こっちです」
俺はレドルフの肩の上から巨大獣道の方を指差した。
というか、ヴェユスで合ってるよな…?
最近覚えたから、うろ覚えだ。
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獣道を抜け野営地に抜けると、見覚えのあるテントがあった。
アヤカがまだいるかもしれない。
「レドルフ、下ろして貰って良い?」
「……」
レドルフは少し広めの空き地を見つけ膝を付き、俺を肩から下ろした。
まだ、早朝だし寝てるか俺を探しに森を探索しているか分らないが、取り合えず覗いてみた。
すると、アヤカはすでに起きており探索する準備をしていた。
「アヤカッ」
「!」
突然だったのでアヤカは呆然としており、正常な判断が出来ていないようだったが1秒と少しほどで把握出来た様だった。
「アキラ…あなた無事だったの!?」
「まぁね…。色々あったけど何とか無事」
「色々あったって……私かなり心配したのよ?
何があったかちゃんと答えて!」
リアルでもE/Oでもこんなアヤカを見るのは初めてだ。
両肩を力いっぱい鷲づかみされている…結構痛い。
アーリアと契約しました。テヘッで済まそうかと思ったけど止めて置こう。
光の矢が飛んできそうな悪寒がする。
「まぁ、なんと言うか…。
行方不明だった人達と荷馬車は見付けた…。
正確には、見覚めたら同じ所にいた…かな?」
「そう……、依頼は無事達成できそうね。
それで、あの精霊憑きはどうしたの?」
「あそこにいるよ?」
俺は、一緒に同行してきた一団の後方を指差す。
あの無表情だった時の面影はなく、可愛い印象の若いエルフ娘がいる。
まだ、駆け出しの傭兵だったが、いないよりはマシだと思い、一団の最後方で警戒をして貰っていた。
「くっ…」
アヤカは、おもむろにゴッドブレスを手に取りテントから飛び出して行こうとしたので、腰にしがみついて制止した。
「ちょちょちょっと待って!アヤカ」
「放して、あいつのせいで私はね…。
2時間もMobの相手をさせられたのよ?
HPとMPの回復ポーションが尽きるわ…スタミナまで切れかけるわ……s」
「あああ、分った分った。アヤカの言いたい事は分ったよ。
でも、もうあの娘は精霊憑きじゃないから…普通の娘だよ!」
「どういう事よ!?」
イラつきと怒りの表情で振り返ったので正直ビビってしまった。
他人には見せられないな…。
何と言っても、あの気高く絶世の美女ばかりのハイエルフ(という設定)と思えない程の形相だったのだ。
「あの娘に憑いていた精霊はもういない」
「いないってどういう事よ…」
「ん~………怒らないでくれよ…。
な、何と言うかアレだ…。
俺と契約した……」
「はああぁぁぁぁああ!?」
ひぃ…正に鬼の形相…。
キレてる……っていうか、アヤカ首絞めてるよ。
完全に我を忘れているよ。
「ちょ…ちょっと、アヤカ…首、首…く、苦、じい”」
俺は首下を指してアヤカに訴える。
そうこうしている内にアヤカの指が少しずれて完璧に俺の喉笛を押さえる形になる。
「あぁん!?首ぃ?……あ…」
アヤカは、パッと首から手を放す。
く、苦しかった…。
「ゼェゼェゼェ…」
「自業自得よ。あれだけ散々やられたのに契約ですって…。
アキラ、あなた正気?」
「はぁはぁ、まぁ、当初の目的はそれだったしな…」
まぁ、経緯はどうあれ無事に契約出来たのは良かった。
母からの置き土産を無駄にせずに済んだ訳だしな。
色々問題がない訳でもないが…。
「た、確かに…で、でも、いや…。
はぁ…分ったわよ。
じゃぁ、レドルフさんの方はどうなったの?」
「レドルフは…あそこにいる」
俺はレドルフの方を指差した。
そして、指してから気付いたのだが、今度は野獣と戯れている。
ああ、決して戦っているという意味の戯れているじゃないからな…。
まるでペットのように愛でているという感じだ。
ついでに言っておくと、俺達プレイヤーは一括してMobと呼んでいるが野獣と魔獣は厳密には違う。
線引きは微妙なラインだが、基本的にリアルでもいる動物もしくはそれに類似する動物は野獣と呼んでいる。
それ以外の架空の凶暴な肉食動物は魔獣と呼んでいる。
そして、ウルフ系は微妙なラインな訳だが、野獣という人もいれば魔獣という人もいる。
公式にどっちかという風に記されていないので何ともいえないが、恐らく魔獣に入ると思う。
余談だが、ファンタジー物では定番の神聖な生き物として神格化しているユニコーンやその正反対のスレイプニールはE/Oの世界にも当然いる。
いや、正確にはいたというべきで、絶滅種(という設定)となっているのだ。
で、絶滅した生物は大体精霊としてこの世界に君臨していて、ユニコーンやスレイプニールも精霊として存在している。
しかし、希少種で契約したプレイヤーがいたとしても公開などしない事からほとんど見る事がない。
3年前、OS社主宰のサービス開始記念GMイベントで、
GMがスレイプニールに騎乗しているのを見たがそれっきりだ。
その時、プレイヤーの1人がどうやったらスレイプニールに騎乗出来るのか質問していた。
確か返ってきた答えは「精霊として契約し信頼度をMAXにすれば騎乗出来ます」と言っていた。
あの時のテンションの上がりっぷりはヤバかった…。
でも、あれから3年一度も見た事がないので、すっかり忘れていたな。
「え?彼もここにいるの?」
「見れば分ると思うが、彼も正気で狂人化はしていない」
「そう…ね。狂人化していたと到底思えない程の優しい表情ね」
さっきまでキレていた人物とは思えない程、アヤカの表情は緩んでいた。
「だろ?」
「OK。
色々言いたい事があるけど、経緯は把握したわ。
で、街に向かうのでしょ?
私は荷物の整理をするからアキラはテントの撤収作業に入って」
「分った」
アヤカは素早くテント内の荷物をまとめ、焚き火付近にあった調理器具の片付けに入る。
俺は、テントの留め具を1つずつ引き抜いていく。
数分後、俺はテントの布を丸めリュックの上に付け、金具類はリュックの中に収め終えた。
アヤカは片付けが終わったようで俺の方に歩み寄ってきた。
「こっちはOKよ。
そっちはどう?」
「こっちも今終わったところだ。
じゃ、皆と合流しようか」
「ええ」
俺達は、休憩していた一団と合流し一路ヴェユスに向かって出発した。
「ねぇ。アキラ」
アヤカは出発して1分もしない内に声を掛けてきた。
「ん、何?
また、ウッドウルフの群れでも発見したか?」
俺は、早速ディテクトを詠唱しようとしたがアヤカに制止された。
「んん、違うわ。
悪いのだけど、契約したっていう精霊呼び出して貰えないかしら?」
いつもより不気味なほど表情が柔らかだった…。
と思ったがよく見ると、目が笑っていない。
「な、何で?」
嫌な予感がしたが取り合えず聞いてみた。
「良・い・か・ら・出・し・な・さ・い」
これ以上アヤカを怒らせると何をされるか分らない。
(ま、待つのじゃ。厭な予感がするのじゃ。妾は居ないという事で1つ頼む)
いや、流石に居留守は通じないだろう。
すまない。アーリア、俺には召喚をするという選択肢しかない。
「我は望む。我が親愛なる…闇の精霊ベルセウス。我の呼びかけに応えよ。我の名はアキラ=ローグライト。汝の名はアーリア」
アーリアは、俺の影から浮き出るような感じで出現した。
始めは俺の影から靄のようなものが出てきて、それが段々と大きくなり人型大になるとそれが人の形に変化した感じだ。
「…待てと言ったろうに……」
初めてのアーリア召喚だが、何とも妖艶な姿をしているのだろうか。
エルフの傭兵娘に憑いていた時は、半透明かつ上半身しか見えなかったが実際の姿は実にエロい。
彼女が身にまとっているのは、漆黒の布地のドレスだった。
喋り方から俺は和風の服装かと思ったが西洋風だった。
胸元からヘソの下までが大胆に開いており胸の内側が丸見えの状態だ。
開いた胸元から見える肌は、色黒で色艶が良く髪も目も漆黒だった。
足も太ももの付け根まで開いている…スリットってやつだった。
足元は、精霊という事もあり半分霊体状態で影と同化していた。
まぁ、闇の精霊のイメージにピッタリと言うべきか…。
「フフフ、初めまして…じゃないわね。アヤカよ。
アーリア宜しくね」
「あ、ああ、宜しくのう…。アヤカ…」
厭な予感しかしていなかったようだが、アヤカの表情を見て気後れしたようだ。
「アキラ、少し…ヴェユスに着くまで彼女借りるわね?」
「ん、まぁ良いけど…」
アヤカはアーリアを伴い少し早足で俺よりも数m先に行った。
俺には内緒の話をするのかと思ったが…、しばらく様子を見ているとそうでもなかった。
アヤカが凄い勢いでアーリアへ捲くし立てていた。
内容は気にならない訳でもなかったが、大方予想は付くので放っておこう。
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一団には一般人も混ざっていたので、一昨日よりも大分時間が掛かって目的地のヴェユス南門の近くまで来た。
大体、6時間は経っているだろうか。
既に太陽は沈み夕焼けから夜空になり掛けていた。
俺は、目の前を行くアヤカとアーリアの方を見た…。
まだ、話は終わっていないらしい。
ここに辿りつく数時間の間、1時間ほど置きにアーリアがアヤカから逃げてこちらに駆け寄って来て、早く戻してくれと懇願してきたが、結局はアヤカに連れ戻されていた。
3回目ほどからアーリアも戻る事を諦めたようで、代りにと俺の胸を揉んでいたのは心の隅にでも置いておこう。
思い出したくもないからだ。察してくれ。
まぁ、アヤカが気が済むまで彼女は出して置こう。
その方が俺に矛先が向かなくて済むしな…。
「妾が悪かったと言っておろう…。いい加減許してたもれぇ~」
内容的には街に戻るだけでの話ですが、どうだったでしょうか