第26話【憑依】
誤字・脱字、表現の誤りにはご容赦願います。
今回は、少し短めです。
「アヤカ…左後方T字路右奥80m先に対象発見!」
「了解」
アヤカはすぐさま弓を構え魔力を溜めていき、光の矢の矢先がどんどん大きくなっていく。
危険を察知した人影が移動し出した。
「対象、右前方…大体2mずつ程度で移動中…」
「いけっ!」
アヤカから射出され極太レーザーと化した光の矢は、対象までの障害物を消滅させながら突き進んだ。
そして、対象の人影に命中し消滅し……てない!?
「え、なんで!?」
「どうしたの?アキラ」
「当たる直前に光の矢が消えた……?」
なんというか、人影の前方に何か靄のようなモノが見えたと思ったら光の矢が吸い込まれ…
というか、相対した事によってお互いが消滅したという感じだ。
「え!?」
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しばらくして、対象の人影が森の茂みから姿を見せた。
「妾ではなかったら、死んでいたではないか…」
現れたのは、無傷の人影……と幽r…精霊?だった。
なんというか、普通の人の上半身に半透明の精霊っぽい何かが取り付いている感じだ。
取り付かれている人は、見た感じ可愛い部類に入る女性だ。恐らく格好からして傭兵だろう…。
目は虚ろで口元が微妙に開いているし表情らしきものはない。
本人は夢の中ってところか…。
てか、行方不明になっている傭兵じゃないのか?
それは置いておいて問題は取り付いている方だ。
精霊なのか幽霊なのかと一瞬迷ったが、確か闇属性魔術の1つに憑依する魔法があった筈だ。
といっても、禁呪指定なので負いそれ簡単に使えるような代物ではないが…。
禁呪を会得した魔術師なのか…闇属性の精霊なのか…。
禁呪を使用する精霊なんて聞いた事はないが、禁呪を取得した魔術師よりは現実的だ。
「ふむ…。よし、御主で良かろう…」
精霊?幽霊?に取り付かれた傭兵の娘は、俺とアヤカを見比べた後、俺の方を指差し意味不明な事を言い放った。
「はい?」
「レドルフ…いつまで休んでおる。この娘を捕まえい」
なんですとぅ!?
レドルフは、上半身を起こし左手で俺を捕らえようとした。
はっきり言って意味が分らなくて呆然としたが、危うく捕まりそうになる直前に意識を取り戻しバックステップで避けた。
「あ、あなた。今すぐレドルフさんを下がらせなさい。さもなくば、今すぐにでも撃ちます」
アヤカはゴッドブレスに光の矢を溜めながら精霊憑きの女性(以下、精霊憑き)に凄んだ。
「ほほう、それで妾を殺せるとでも?
やってみせい。尽く消し去ってやるわい」
「くっ…」
「ほれ?どうした?やらんのか?
……なんだ、詰まらん。なら、妾が御主を楽しませてやろう」
精霊憑きはそう言うと、只ならぬ気配が森中に広がった…ように見えた。
すると、俺達を囲むように無数のウッドウルフやレッドアイベアそれだけではなくトレントまで数体現れた…。
しかも、レドルフと同じように赤く輝いた眼で明らかに狂人化していますという感じになっていた。
恐らくだが、扇動も入っているようにも思えた。
対象は単一ではなく範囲だった事には驚いた、
どのくらいの範囲なのだろうか、この数は相当広い範囲と見て良いかもしれない。
「なっ!?」
アヤカは、驚愕しゴッドブレスに溜めていた魔力が収縮していった。
なんというか、その全てがアヤカを標的した明らかな殺意が俺でも感じ取れた。
「御主は強そうだからのう…。これぐらいが丁度良いじゃろう。精々死なぬように頑張る事じゃ…」
精霊憑きをそう言ったと同時にウッドウルフ以下略達がアヤカに襲い掛かった。
「アヤカッ!!」
「御主は、他人を気に掛ける余裕などないぞ?」
精霊憑きは、心の底から楽しそうな表情をしながらレドルフに命令を下した。
レドルフは、左の掌で捕まえようとしてきたが、俺は右にステップをして避けた。
ぶっちゃけ、捕まえるというより押し潰しに近かったが…。
今度は両手で捕まえようとしていたが、ジャンプで避けた。
まぁ、捕まえるというより両手で握りつぶそうとしてきたに近いが…。
「むぅ、ちょこまかと避けるのが上手いのう…。レドルフでは捕まえるのは難しいようじゃわい。ならば…」
一瞬、精霊と眼が合った気がした。
「いづっ!?」
いきなりズキンと頭に激痛が走った…。
意識が一瞬だけ飛んだがすぐに回復した。
「ほう……あれを看破しよったか…」
何をしたんだ?
………もしかして、俺を魅了させようとしたのか?
「面白い娘よのう。益々欲しくなった…」
捕まったら俺は何をされるのだろう…。
レドルフと同じように狂人化され暴れるのだろうか…。
って、それはないな…。今の俺が狂人化したところで大した影響はない。
ましてや、1つのエリアを封鎖なんて出来る筈はない。
それに、アヤカに止められるだろうし…。
「レドルフ、死なぬ程度に攻撃を加えて良いぞ。
戦意喪失させれば妾が何とかするわい」
その言葉と同時にレドルフの攻撃が鋭くなってきた。
3mという巨体から考えられない程の速さだ。
唯でさえ避けるが精一杯だったのに…レドルフの攻撃を見極め辛くなってきた。
俺は何度か攻撃を避けていたが、粉々に砕けた木の破片に躓き体勢を崩してしまった。
体勢を立て直そうと上を向いた時、とても大きな影が俺を覆い隠そうと迫ってきた。
それはレドルフが両拳を組んで今にも振り下ろそうとしている影だった。
「やば…」
まだ、体勢を戻しきれていない…。
完全には避け切れない。
だが、避けないとあの攻撃は俺を死の淵へと追いやる筈だ。
レドルフの攻撃が俺の頭上1mまで迫ってきていた。
間に合ってくれ…と俺は願い右足で思いっきり地面を蹴った。
「ぐがっあああああっっ!?」
地面を蹴った右足がレドルフの攻撃から避けられずず直撃を受けた。
乾燥した木片が砕けるような音と激痛が全身に走った。
だが、その痛みを感じる前に新たな痛みが背中を襲う。
蹴った勢いで転げていたら、どうもその先にあった岩へ背中を思いっきり打ったようだ。
視界が赤く染まり意識が遠のく…。
ここで意識を失う訳にはいかない。
何とか俺は立ち上がろうとしたが、右足に力が入らない…というより感覚がない。
背中の方は、痛みが和らいできているような気がしたが代りに非常に熱を持ち出した。
こちらも麻痺しているようだ。
はは、思ったように身体が動かない…。
潮時かもしれないと思った時、俺の身体に浮遊感を感じだ。
俺の左腕をレドルフが摘み、上に持ち上げたようだった。
まるで操り人形のような状態と思って良い。
さっきから「感じた」とか「ようだ」と表現しているが、どうも全身が麻痺しているようだ。
脳が痛みをシャットダウンさせたのだろう。
あ、右腕に持っていたフランベルジュを落としてしまった。
足先よりも下の方でカランと杖が落ちた音がした。
視界が悪いからハッキリとは分らないが、俺はレドルフの顔辺りまで持ち上げられているようだ。
「ほう…まだ意識を保とうしよるか…」
俺はキッと精霊憑きを睨んだ…と思う。
「この状態で戦意喪失しておらんとは…仕方あるまい。
レドルフ、妾の前まで下ろせい」
微妙に足が地面に付かない高さまで下ろされ、目の前に精霊?の顔付近が近付いてくる。
嫌な予感がした…。
俺は再び精霊?を睨もうと眼を合わせたその時、俺の意識が遠のき視界が暗くなった。
どうも、精霊による何らかの状態異常で意識が飛んだようだ。
「では…戻るとしようかの…」
「アキラッ!!」
遠くの方でアヤカが必死で俺の呼んでいたようだったが、意識が飛んでしまった俺にはそれを認識する事が出来なかった。
どうだったでしょうか。
アキラ捕まってしまいました…。